【特別掲載】新宿武蔵野館で公開中!『ボーダレス ぼくの船の国境線』アミルホセイン・アスガリ監督インタビュー

――その廃船は、立ち入り禁止の危険な場所にも関わらず、少年は、まるで自分の庭のように自在に動き回ります。どうしてこんな風に動いているところをカメラに捉えることができたのでしょう?事前のリハーサルのようなものは、どの程度行われていたのでしょうか?

AA 素人の役者と仕事をする時、事前のリハーサルや稽古は役に立ちません。撮影中にカメラの前で素人に演出をつけることはできませんし、役のことについてもあまり説明はしません。監督は彼の代わりに考え、自分を彼に合わせる必要があります。素人の役者の場合、本人が何を撮っているのは知らないほうが演出をしやすいのです。

主役の子は本番でカメラが回っていることも知らず、テストと思い、言われた通りに自然に動いていました。その時、実際カメラを回したので、スムーズに望んでいた画が撮れたということです。

――例えば、後半に相手役の少女が、涙を流す痛切なシーンがあります。あれはどのように演出されたのでしょうか?

AA このシーンは18回撮り直しました。その間、ゼイナブ(女の子)はずっと泣いていました。何度もこのシーンを撮り直したのは彼女がNGを出したためではなく、彼女を疲れさせた方がいい画を撮れると私は思ったからです。

このシーンを撮る前に、彼女にわざと色々なことをやってもらっていたので、実際にカメラが回る時には、彼女は十分疲れていたので泣き出し、そして、泣き止まなかったのです!

このようなことをプロの役者にはさせられないし、プロの役者は本気でずっと泣いてくれないと思います。

――映画の中盤、そしてラストにも出てくる、ハンモックに揺れる少年の顔は、形容しがたい気持ちを観る者に与えます。あのシーンを入れた意図を教えて下さい。また、あの表情もどのような演出によって生まれたのでしょうか?

AA 素人の子供の演技を撮影するために、もちろん彼らにストーリーは説明していません。代わりに、二人の中の一人だけがこの映画に必要だと彼らに嘘を言いました。

こちらがカメラを実際に回した時、彼らは本番の撮影がまだ始ってないと思い込んで、監督の私に気に入ってもらうためにライバル意識を持って一生懸命に動いていました。

男の子(アリレザ)がハンモックにいる場面は、私が助監督を通じて、彼に女の子が選ばれたと知らせた後です。男の子(アリレザ)は本気で落ち込んでいて、自然に映画に必要な表情を見せてくれました。

女の子が銃を持って男の子を襲うシーンでは、女の子が本気で男の子をやっつけるように映ったでしょう。ライバルの彼を倒したい気持ちが強く働いていたと思います。

 ――本作はイラン本国で公開は決まっていますか?

AA イランへの公開は10月のイラン児童映画祭の後に行われることが決まりました。この映画祭は最も大きな児童映画祭で、『ボーダレス』をこの映画祭で紹介してからの公開になります。

――監督にとって自身に大きく影響を与えた映画があれば教えて下さい。

AA 映画作りの道に入るためには、映画に恋をする必要があります。映画と恋に落ちる理由は見る一本映画、また一つのシーンやある役者の演技かもしれません。人によって違うと思います。

映画が発明された時からイラン映画は文化的や芸術的に社会に大きな影響を与えてきました。映画に登場するヒーローは人の心を奪い、社会現象になることもあります。映画は時に、国境を越え、様々人の心に通じ、一つの考えを生み出します。

私はイラン映画を見て成長しました。そして映画と恋に落ちました。イラン映画からたくさん学びました。

映画を大事にするイランに生まれてよかったと思います。アッバス・キアロスタミ、アミル・ナデリ、アボルファズル・ジャリリ、キャヌーシ・アッヤリ、アスガー・ファルハディのような監督が映画を作るこの国の映画から影響を受けたと言えます。

――隣国が戦時下にあるということは、島国に住む我々日本人にとっては想像し辛いことです。少年時代、監督はそれをどのように意識して過ごされたのでしょう?

AA 少年時代、私は父の仕事のため、イランの南地域の街に住んでいました。その地域で戦争が始まった(イラン・イラク戦争1981〜1989)ので、私は世界を発見していく大事な時期である少年時代を戦争中に過ごしたことになりました。甘く楽しいはずの少年時代の思い出は辛い戦争の暗いイメージに大きく影響されました。

私には映画のテーマについて考える時、そこには「孤独」というものが色濃く出てきます。現代人間の孤独さ。周りのスピードについていけない人の寂しさ。絶えず技術の発展を目指し、新しいものを追い続けるこの世界は、人々の心を孤独の淵に追い込んでいるのではないかと思います。

私は地球の上に住んでいる人々は一つの家族だと思います。肌の色や宗教などは違っても、みんなは大きな家族なのです。『ボーダレス』を作った理由は、人間と人間の間には国境が存在しないと言いたかったからです。

演技指導中のアミルホセイン・アスガリ監督(右)

 【監督プロフィール】 

アミルホセイン・アスガリ Amirhossein Asgari
1978年テヘラン生まれ。演劇界でキャリアをスタートさせる。現代演劇を専攻後、映画・テレビ界に入り50本以上の映画やシリーズで助監督を務める。「Maybe Another Time」で初めて短編映画を手がけた後、本作で長編デビュー。東京国際映画祭でプレミア上映され、大きな反響を呼んだ。

【作品情報】

『ボーダレス ぼくの船の国境線』
(2014年/イラン/カラー/102分/シネマスコープ/5.1ch/DCP)

監督/脚本:アミルホセイン・アスガリ
エグゼクティブ・プロデューサー:モスタファ・ソルタニ
撮影監督:アシュカン・アシュカニ 
美術/衣装:シャマーク・カリネジャロ
録音:メヒディ・サレカーマニ
編集:エスメール・モンセフ
音楽:アミリャール・アルジャマンド
出演:アリレザ・バレディ、ゼイナブ・ナセルポァ、アラシュ・メフラバン、アルサラーン・アリプォリアン
配給:フルモテルモ
配給協力:コピアポア・フィルム
宣伝:岩井秀世/佐々木瑠郁

公式サイト: border-less-2015.com

写真は全て© Mojtaba Amini

☆10/17(土)より新宿武蔵野館にてロードショー!以降全国順次公開
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