【Review】女たちの影 『パリ、恋人たちの影』text 安里和哲

©2014 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS – CLOSE UP FILMS – ARTE FRANCE CINEMA 

『パリ、恋人たちの影』の原題は『L’OMBRE des FEMMES』という。それぞれの単語をググって直訳してみると「女たちの影」となる。『パリ、恋人たちの影』と「女たちの影」を並べてみると、邦題が作られる際に「パリ」という要素が加わり、「女たち」が「恋人たち」に言い換えられたことが、誰にでもわかる。この邦題は妥当なのか、といった議論をするつもりはない。フランス語を知らない私には能力的にも不可能だ。

それでもわざわざこの邦題と原題の直訳を並べてみせたのは、『パリ、恋人たちの影』と「女たちの影」の違いから、この映画についてのレビューを書き始めようと思ったからだ。

現時点で、本作を観る機会を一度しか持てず、モノクロの美しい画の記憶が薄れていってしまった私は、このような方法じゃないとレビューを始められない。「RE-VIEW」なしのレビューは、恋した映画に対する冒涜のような気もするが、蛮勇ふるって書き進めるより他に道はない。

いきなり言い訳めいたことばかり書いているが、私と映画の関係は、いつも余計な言葉を重ねることでしか成り立たないので致し方ない。

邦題に「パリ」の一語が加わったのは、「華の都」を想起させる都市の名に惹きつけられて劇場へやってくる観客は少なくない、と推測したからだろうか。シャンゼリゼ通り、凱旋門、エッフェル塔、パリジェンヌ……多くの日本人はこの「オシャレ」なイメージを浮かべてこの映画に興味を持つのかもしれない。それはわからない。

しかし実際に本作では、誰もが知っている「パリ」の街並みがスクリーンに映ることはない。
男女が並んで、あるいはそれぞれがひとりさまよい歩く通りには、それといったランドマークは見当たらない。仰角で撮られたビルの佇まいは、ペドロ・コスタが撮ったかのように無国籍感が漂う。カフェの雰囲気は確かに異国のそれだが、パリと断定できるようなシロモノではない。
とはいえ、それは決して肩透かしにはならない。ともすれば滑稽に映るありきたりな恋愛のいざこざを、オシャレな街の遠い出来事ではなく、身に覚えがある卑近なストーリーとして観客は体験することになる。
©2014 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS – CLOSE UP FILMS – ARTE FRANCE CINEMA 

卑近なストーリーとはどんなものだろうか、ここでようやくあらすじ。
ドキュメンタリー監督・ピエール(スタニスラス・メラール)は、妻のマノン(クロティルド・クロー)をパートナーにして映画制作をしている。今撮っているのは第二次大戦中、対独レジスタンスに加わった老男のドキュメンタリー、カメラを回すのはマノンだ。マノンいわく、ピエールはインタビューや監督としての才能がある。その才能を世間に認めさせるため、彼女はパートで生活費を稼ぎながら夫の映画制作に協力しているが、道のりは険しい。

階段に腰を降ろし途方に暮れるピエールの前を、多数の映画のフィルム缶を荷台に乗せた研修生のエリザベット(レナ・ポーガム)が通りかかる。気晴らしだろうか、彼女の手伝いをしようとピエールが声をかける。木々に挟まれた木漏れ日の照らす道を並んで歩くふたりを、カメラは正面から撮りつづける。並んで歩くことでふたりの関係が始まるのだ。

しかしピエールは若いエリザベットの身体に惹かれているだけだ。はじめてのセックスの後、身の上話をするエリザベットと彼との温度差は明らか。事実ピエールは、セックスの直前にあらかじめ妻がいることを打ち明けている。本気になっちゃいけないよ、ってなわけだ。彼女に本気で恋していたら、いちばん高まるタイミングでこんな予防線は張らないだろう。ふたりが横たわると、ベッドから窓ガラスへとパンするカメラが上品で美しい。

そんなおり、街を歩いていたエリザベットは、カフェでマノンを見かける。彼女は見知らぬ男(ムニール・マルグム)と仲睦まじげに言葉を交わしている。浮気していたのは、ピエールだけではなかったのだ。夫婦関係はやがて破綻へと向かっていく。 

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話を単純にすれば、妻ある男が若い女に目移りする、というもの。妻も浮気しているものの、その相手役には言葉はほとんど与えられない。《「恋人たち」=「女たち“FEMMES”」》とは、言うまでもなく妻と若い女のことだ。そして、彼女らの《影》をとらえることに腐心しているのが、『パリ、恋人たちの影』である。

本作の脚本は女性2人、男性2人のチームで書かれた。このチーム体制を監督フィリップ・ガレルは「女性のキャラクターに強力な支持を与え、男性への風当たりを強く」するためだと答えている。ひとりの男性を中心にしながら、観客の注意は、その男と関わる《女たち“FEMMES”》に向けられる。

撮影監督レナート・ベルタによるモノクロームの映像は、《影たち》の色の対照を際立たせる。
夫が《白》を着る一方で、妻は必ず《黒》を身にまとう。若い女は《白》を着ることもあるが、どちらかといえば中間の《灰色》であることが多い。モノクロのスクリーンに《灰色》が映るとき、そのほんとうの色はハッキリしない。とても多くのバリエーションのなかに可能性がある。博士課程にあるエリザベットの色は未決定なのだ。彼女のピエールへの想いが悲しい結末に至ったとしても、エリザベットの人生はまだまだ数多の可能性に開かれたままつづいていくはずだ。

破綻の瞬間まで、夫婦の色は重なることがない。しかしやがてふたりは再会するだろう。そのときふたりは互いにどの色をまとっているのか、見届けてほしい。
死がふたりを別つ前に別れたピエールとマノンだったが、ふたりが再会するのはおそらく、永遠の愛を誓ったのと同じ空間だろう。男が女の影に捕らえられたとき、木々はざわめき出す。

最後に。ピエールとマノンが撮っていた元レジスタンスの老男のドキュメンタリー映画は、ふたりの破局と同時に中途で投げ出されたが、この映画は予定とは異なるかたちで息を吹き返すことになる。マノンが知った真実を起点にして、これまでとは異なる角度から老人に光を当て直すことで、彼の《影》の部分をあぶり出そうと言うのだ。彼の《影》の部分をきっと知りながら隣で微笑んでいた老婆のより大きく濃い《影》が、まだ誰も見ぬドキュメンタリー映画では捉えられているのかもしれない。

         ©2014 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS – CLOSE UP FILMS – ARTE FRANCE CINEMA  

Cialis no prescription 【映画情報】
『パリ、恋人たちの影』

generic sildenafil citrate (2015/73分/フランス/モノクロ/フィクション)

監督:フィリップ・ガレル
製作:サイード・ベン・サイード、ミヒェル・メルクト
脚本:ジャン=クロード・カリエール、カロリーヌ・ドゥリュアス、アルレット・ラングマン、フィリップ・ガレル

撮影:レナート・ベルタ
編集:フランソワ・ジェディジエ
音楽:ジャン=ルイ・オベール
配給:ビターズ・エンド

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【執筆者プロフィール】

安里和哲(あさとかずあき)
1990年沖縄県生まれ。フリーライター。共著に『ウチナーあるある』(TOブックス、2014年)がある。シナプスオンラインマガジンでは作家・猪瀬直樹氏の担当ライターを務める。「映画美学校批評家養成ギブス第二期」修了生有志+αによる総合批評誌、「スピラレ Vol.5」副編集長。