【News】山形国際ドキュメンタリー映画祭2017 インターナショナル・コンペティション出品作品 『Another Year』<映画祭時の題名:『また一年』>  朱声仄(ジュー・ションゾー)監督  国内配給権をサニーフィルムが取得

1989年から隔年で、山形市内で開催されている、アジア初の国際ドキュメンタリー映画祭である、山形国際ドキュメンタリー映画祭が10月5日から10月12日の会期で開催されました。第15回目となる今年は、インターナショナル・コンペティション部門に15本、アジア・コンペティション部門の「アジア千波万波」には21本の作品が出品されました。多様性溢れるテーマで製作された多くのドキュメンタリーに観客は湧き、世界各国から集まった人々が交流を深め、ドキュメンタリーを通じて世界の「現在(いま)」を身近に感じ、多くの人を魅了した映画祭となりました。

ファウンドフッテージで歴史を読み解く手法や、リリシズムに情緒を訴える作品や、インタビューで人物に迫る作品など、様々な手法で観客にメッセージを届けようとする作品が数多くある中、「最も刺激的な作品だった」と、10月14日付の紙面で、日本経済新聞社・古賀重樹・編集委員が高く評価した、中国出身でアメリカ・シカゴ在住の新進気鋭・ジュー・ションゾー監督(87年生まれ(30歳))の作品、『Another Year』(英題)<映画祭時の題名:『また1年』>を、この度、サニーフィルムが国内配給権及びオールライツを取得しました。

本作品については、本年度、インターナショナル・コンペティション部門の審査員を務めた、インドの撮影監督、監督、プロデューサーのランジャン・パリット氏も、「『Another Year』という映画を忘れることは決して無いだろう。惜しくも賞を逃したが、私の中でこの作品と出会えたことはとても大きかった。映画祭で審査員を務めることは、私にとって常に学びの場であり、この映画は私に多くを教えてくれた。なんてアイディアの映画なのだ。」と自身のfacebookで映画の感想を語ると、『Communion』(英題)<映画祭時の題名:「オラとニコデムの家」>で、本映画祭最高賞のロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)を受賞した、アンナ・ザメツカ監督も、授賞式後に行われた公式記者会見で最も印象に残った映画が『Another Year』であったと語った通り、「決して忘れられない体験だった」と、続いてコメントしました。


朱声仄(ジュー・ションゾー)監督のコメント

 ―― 山形国際ドキュメンタリー映画祭に初参加した感想を教えてください。

私は一週間の山形滞在中、出会った山形の観客、映画祭のスタッフやボランティア、街そのもの、そして言うまでもなく、とても美味しい日本食に魅了されました。そして、何よりも、山形国際ドキュメンタリー映画祭全体の素晴らしい雰囲気と親しみやすさに感激しました。映画祭のプログラマー、映画祭スタッフ、ボランティア、映画を観に来た一般の方、地元住民の方が一同に香味庵に夜集まり、分け隔てなくビールや日本酒を一緒に飲みながら、その日観たドキュメンタリー映画について話す文化に感激しました。

――多くの監督は山形の映画ファンのレベルの高さに驚いていました。日本のドキュメンタリーファンはいかがでしたか?

山形国際ドキュメンタリー映画祭で出会った観客は、私がこれまで参加した映画祭の中でも最も熱心で真剣な方たちでした。彼らの多くが私のQ&Aセッションの時に熱心にノートを取り、映画の中で出てくるカレンダーやテレビの存在についての質問をするなど、映画の詳細をきちんと観てくれていたことに驚きました。また、本作品を欧米の映画祭で上映した際、多くの観客が、映画に出てくる母親の祖母に対する態度と、母親の存在事態を否定しましたが、山形の観客は、母親の態度を理解するだけでなく、彼女の行動と言動の背景にある、一家の世話をする母親としての厳しさ、愛、そして暖かさを感じたと解釈したことに驚かされました。それは、きっと日本と中国は近しい文化を持ち、家族関係においても近い価値観を共有しているのだと実感し、とても嬉しく思いました。

――このたび、あなたの映画が初めて日本で配給されることが決まりました。それについてどう思いますか?また日本での公開にあたりどんな目標を掲げますか?

本作品を完成させるのはまさに孤独との戦いでした。この映画は私とパートナーのヤン・ジョンファンの2人だけで作り上げた映画です。その映画が日本で評価され、配給されることにとても喜びを感じています。この3時間の映画は、ただ3時間の長さの映画なだけでなく、映画の中で時の流れを再現することへの挑戦でした。14ヶ月の撮影期間、撮影した家族だけでなく、私自身も同じ時の流れの中で成長したのです。その過程を映画の中に入れたかったのです。映画が無事に完成し、世界各国の映画祭で上映され、彼らを撮影した1年間は、私にとってかけがえのない時間であり経験だったことを、山形国際ドキュメンタリー映画祭を経て今実感しています。時の流れを戻すことはできませんが、この映画には私が経験した時が残されていて、その経験を日本の観客の方と映画館で共有することが今の目標です。

――多くの映画人が『Another Year』を絶賛していました。授賞式で最後の大賞が発表される時はどんな心境でしたか?また、自分の作品が呼ばれなかった瞬間どう思いましたか?

最後の作品が発表される瞬間、自分の作品が呼ばれることを祈りましたが、残念ながら『Another Year』が呼ばれることはありませんでした。正直、悔しい気持ちになりましたが、不思議と残念には思いませんでした。それは、この映画を山形で上映して、熱心な観客の方からすでに多くの賞賛の言葉をいただけたからだと思います。初めて参加した山形で悔しい気持ちは残りますが、むしろ、今製作している新作で、また山形に戻って来て今度は賞を取るというエネルギーに変えていきたいと思います。

――山形国際ドキュメンタリー映画祭と、日本の映画ファンに一言コメントをお願いします。

山形国際ドキュメンタリー映画祭は、私が中国で写真の勉強をしている時からよく耳にする映画祭でした。この権威ある映画祭で私の作品が上映されたことを誇りに思います。私の映画を選んでくれた山形国際ドキュメンタリー映画祭に感謝の気持ちと、映画祭に携わった全ての方、そして、映画祭に駆けつけてくれた多くの映画ファンに心から「有難うございます」と伝えたいです。また、将来山形に戻ってこれることを心から願います。

 

サニーフィルム代表・有田浩介のコメント

『Another Year』を6日(火・初日)の上映で見た時、3時間の映画を見た後にも関わらず、もっとこの映画を見ていたいと思いました。あいにく、次の上映に間に合わせるため、上映後のロビートークには参加できませんでしたが、ロビートークを控えているジュー・ションゾー監督をたまたま見つけ、名刺を渡し、「素晴らしい映画」でしたと一言だけ声をかけました。その後、別会場でワイズマン監督の「エクス・リブリス」を見ていましたが、ふと気がつくと先に見た『Another Year』について考えている自分がいました。その後も、映画祭のあらゆる場所で彼女を探し、見つけては会話をしていました。11日の授賞式で、インターナショナル・コンペティション部門の大賞が発表される直前、なぜか自分の事のように胸が高鳴りました。そして、『Another Year』ではない作品が発表された直後、自然に彼女の席まで行き、「『Another Year』は僕の今年のナンバー1でした」と伝え握手をしました。映画祭期間中、会話を重ねることで、映画だけでなく、彼女自身の魅力も感じ、受賞の結果を問わず、日本の映画ファンに彼女の作品を届けたいという想いに至っていました。

映画は、中国武漢に出稼ぎに来た6人家族の物語です。出稼ぎに出る父親、小さな子供2人と、思春期の娘が1人、病を患った祖母と、家を切り盛りする母親の6人構成の家族です。本作品は、彼らの日常を、家族が集まる「食卓」を舞台に、家のあらゆる角度から定点のワンシーン、ワンカットで抑えるという野心的な映画です。3時間の長尺の映画ですが、1ヶ月毎に章分けされていて、1年間を月ごとに映しています。毎月(毎章)カメラアングルや登場人物は変わるのですが、舞台は必ず家族が一同に集まる食卓であり、何気ない家族の会話や生活が映し出されていきます。それは彼らにとっては何の変哲も無い日常なのですが、我々日本人にはない生活様式を垣間見た瞬間、まるで新しい世界を発見したかのようにときめきます。映画が映し出す家族の1年を通じ、それぞれのキャラクターに愛着と共感を持ち、映画が終わる頃、「この家族をもう少し見ていたい。」「今、この家族はどうしているのか。」と想わされてしまいました。


【作品概要】(山形国際ドキュメンタリー映画祭公式カタログより)

『また一年』(英題:『Another Year』)
(2016年/中国/カラー/181分  )

監督:朱声仄(ジュー・ションゾー) 
撮影:楊正帆(ヤン・ジョンファン)
録音:欧徳健(オウ・ドージェン)

中国のとある出稼ぎ労働者家庭における食卓風景を章立てにより、1年間を描き出す圧巻の180分。長廻しの定点カメラで撮影された食卓では、家族間の歯に衣着せぬ会話がリアルタイムで展開する。その切り取られた時間の中で、観る者は、どこにでもある日常がふとした瞬間に神秘的で美しい絵画的空間に変質するのを目撃する。故郷の山村にある家と、出稼ぎのために都会で借りている家。その二つの家を往復しながら暮らす、三世代からなる一家。彼らが直面している様々な問題から、極端な都市化の波と経済成長著しい中国社会の実相がほの見える、「一年」にわたる「時」の流れの記録。

朱声仄(ジュー・ションゾー)監督プロフィール

1987年、中国・武漢生まれ。アメリカ・ミズーリ大学コロンビア校でフォトジャーナリズムを専攻したのち写真家として活動する。2010年、ヤン・ジョンファンとともに「Burn The Film Production House」を設立。ヤン・ジョンファン監督作品の『Distant』(2013)、『Where are you going』(2016/ロッテルダム国際映画祭)で撮影と制作を担当しつつ、2014年には、移民の子供を対象にした参加型写真ワークショップを取材した、『Out of Focus』(2014/シネマ・デュ・レール、DMZ国際ドキュメンタリー映画祭)で監督デビュー。長編ドキュメンタリー第二作目となる『Another Year』(2016)は、スイスのヴィジョン・デュ・レールでインターナショナル・コンペティション最優秀長編作品賞「金のセステルス」賞、モントリオール国際ドキュメンタリー映画祭(RIDM)で大賞を獲得するなど各国の映画祭で高い評価を得る。さらに、カナダの「24 Images Magazine」誌において、2016年度の年間ベスト10に選出される。