【Review】イメージの≪層=レイヤー≫と≪断絶≫ -『あなたはわたしじゃない サロメの娘 ディコンストラクション』 text 永井里佳子

どことも知れぬ白い部屋で一人の若い女が独白している。どこからともなく現われ踊る身体。その先には、これまでのイメージの層が連なっており、いつの間にかその間を行き来していた。
「映画をサウンド・トラックから作り始めたら、どうなるのだろう?」(※)という思いから始まったプロジェクト「音から作る映画」。

4 年目の今年公開された『サロメの娘』シリーズの最新作『あなたはわたしじゃない』は、 見たことあるけど見たことない・聴こえてくるけど聴こえてこない、上映の度に初めて出逢う作品だと思った。

2014 年の『映画としての音楽』ライブ上映から始まり、アコースモニウム上映、パフォー マンス上映など、この 4 年間さまざまな作品が上演・上映されてきた。その中で、白いスクリーンのほかに黒紗幕へも像を投影する試みもあり、実際にスクリーンが層を成すこともあった。これまでの作品たちが連なってできた映像の≪層=レイヤー≫がそこに見える。 そして、≪層=レイヤー≫の間には音と共にさまざまな身体の行き来があり、そこに観客 の眼差しが絶えず挿し込まれることで、また新たな層を連ねていく。

ふと、連なっているはずのものの中に≪断絶≫が見える瞬間が幾度か訪れる-いったい何 と何の断絶なのだろうか?  時々現れる二人一組の女性たち。彼女たちは誰なのだろうか。母と娘のように見えていても、実は母と娘ではないかもしれないし、母と娘のように見えなくても、実は母と娘なのかもしれない。親子として繋がっているようで、そこには既に他者としての溝があるので はないか。

あなたとわたし=他者と自己、母と娘、音と映像、過去と現在、今までの作品同士、そし て見えているもの・聴こえるものと見えていないもの・聴こえてこないもの。連なっているようでいて、常に既に断絶されている。しかし同時に、断絶されているからこそ連なることもできる可能性を秘めているのではないだろうか。 暗闇(映画館)から光(投影された像)が消えたとき、イメージと自分は切り離される。同時に、今いる自分はイメージを経た、その延長にいる。そして、≪層=レイヤー≫の連なりと≪ 断絶≫の感触が残った。

※『音から作る映画 全記録 2014-2018』(2018)から引用

【映画情報】

『あなたはわたしじゃない』
(2018年/日本/83分/HD)

監督:七里圭
出演:青柳いづみ、長宗我部陽子、黒田育世、安藤朋子、川口隆夫、飴屋法水ほか
配給:charmpoint

ただいま全国公開中

七里圭公式サイト 
http://keishichiri.com/jp/

 

【筆者プロフィール】
永井里佳子 (ながい・りかこ)
いつも彷徨っています。
学生の頃に見た『ツィゴイネルワイゼン』と『しとやかな獣』から映画館通いが始まりました。
岸田森と若山富三郎が好きです。最近ずっとリラックマが気になっている。