【小特集★世界の映画祭】ベルリンで存在感を増すドキュメンタリー「ドック・サロン」今年から text 植山英美

『アクト・オブ・キリング』プロデューサーシーネ・ビュレ・ソーレンセンも登壇のセミナー

ベルリン国際映画祭映像マーケット部門EFM(ヨーロピアン・フィルム・マーケット)では、EDN (ヨーロピアン・ドキュメンタリー・ネットワーク)が主催し、今年初の試みとして「ドック・サロン」を開設、セミナーやミーティングが行われた。

プログラムは多彩で、朝9時からプレス向けに「ドキュメンタリー映画においてのリアリティ・チェック」などのセミナー、11時からは、大小様々な国際ドキュメンタリー映画祭と、製作者のマッチング(お見合い)会、ミート・ザ・フェスティバル、14時からはミート・ザ・エキスパート、17時からは生え抜きのプロデューサーらが参加するセミナーだ。セミナー後にはカクテル懇談会が開催。日替わりでヨーロッパの映画祭が主催し、ワイン・ビールが無料で振舞われた。土曜日はシェフィールド(英)、日曜はライプチヒ(独)※1 と持ち回りだ。もちろんめったに会う機会のないフェスティバル・ディレクターに自己紹介することも出来る。

DOKライプチヒ 主催のカクテル・パーティ

ミート・ザ・フェスティバルはドック・サロン開設以前からEDN主体で行われていたが、ヨーロッパだけでなく、別枠でテーブルを持っていた北米の重要な映画祭であるHot Docs, AFI Docsや,サンダンスもサロンに合流し、広がりを見せることによって、より多くの参加者の注目を集めることに成功した。毎日日替わりで12程度の映画祭プログラマーがテーブルに陣取り、製作者は7分間だけ時間を与えられ、作品を紹介することができる。参加映画祭は、 IDFA, CPH:DOX, Visions du Réel,を筆頭に、ロシアから米国、イスラエルまで、多様で重要な映画祭だ。

今年初の試みとなったミート・ザ・エキスパートは、あらかじめ予約をした5人の参加者に、プロデューサーや配給会社の“エキスパート”に企画中、または製作した作品をプレゼンし、弱点や強みなどのアドバイスを受けることができるという会。気に入ってもらえたら、配給への道も開けることも可能だ。若い製作者や、TVの製作をやっていたが、映画は初めての作り手、ただ単に監督になりたい気持ちがあるが、ドキュメンタリーの集まりにヒントを求めてやってきた者など、集まる受け手は様々だ。ただ年間8000の長編ドキュメンタリー作品が製作されると言われている世界で、目新しい題材をプレゼンすることは簡単ではない。エキスパートからは厳しい言葉が出てくることも多かった。

ドック・トークではかなりの聞き応えのあるセミナーばかりで、「VRマーケットの現在」「資金の集め方ヨーロッパ編」「合作編」「配給編」「作品の配給に成功する方法」などだ。

「配給編」では映画祭で賞を取っていない作品は販売し辛い、翻ってサンダンスで賞を取る方法を解説するなど、なかなか聞けない話も披露された。

「合作編」では、デンマークから『アクト・オブ・キリング』などのプロデューサーで知られるシーネ・ビュレ・ソーレンセン などスター・プロデューサーが資金の集め方などをレクチャーした。この会では、現在製作中の合作作品を例に取り、ソーレンセン氏、スウェーデンのトビアス・ジャンソン氏、米国のジョスリン・バーンズ氏と各プロデューサーがそれぞれ自国で助成金を集め、のち資金を持ち寄り作品を完成させる方法を伝授した。デンマークやスェーデンなど手厚い助成金が得られる国、米国のように助成金はないが、寄付のシステムが一般化されている国など、資金集めは様々だが、最終的に3カ国のプロデューサーが参加することによって、各国での配給を容易にし、リスクも分散することができるという。

セミナーの様子

ドック・サロンは誰でも(マーケットパスを保持している限り)参加でき、貴重な話を聞け、映画祭の担当者とつながることができる。もちろんベルリン・タレント・キャンパスや企画マーケットもあるし、映画祭では多くの才能が羽ばたいているが、キャリアや企画の良し悪しに関わらず参加できる点がとてもよい。

今回サロンに参加した配給会社やプロデューサーたちは、カンヌ、ベルリン両マーケットでのドキュメンタリー映画の重要度が年々高まっていると口を揃えて言う。毎年コンペに作品が入り最高賞を受賞させたこともあるベルリンに比べ、従来カンヌではドキュメンタリー映画は重宝されていない。しかし併設されているカンヌ・マルシェ・ド・フィルムは世界で一番大きな映像市場で巨額が動く。ここでも6年前から大々的にドキュメンタリー・コーナーをマーケットの一等地に設置させ、希望作品には低料金で試写を行い、オンライン試写サービスを無料で提供するなど、フィクションではありえないサービスを展開し、存在感を高めている。

800人の映画祭プログラマーの来場者があるカンヌ、またベルリンEFMは今年112カ国から約10,000人の来場者があった。一時IDFA, Hot Docsに独占されていたが、この巨大なマーケットに再びドキュメンタリストが逆流している理由は、大きさに奢らず、新しい企画を次々とスタートさせ、より新しい才能を呼び込もうとしている点ではないか。

作品とプロデューサーとの出会いが生まれ、スターが登場するかもしれない。その出会いに潤沢な資金を投入できている

※1 シェフィールド国際ドキュメンタリー映画祭(毎年6月/イギリス)ライプツィヒ国際記録・アニメーション映画祭(隔年10月/ドイツ)それぞれヨーロッパで知名度のある国際ドキュメンタリー映画祭

EFM内部の様子

ベルリン映画祭発行のドキュメンタリー作品のみの冊子

【ベルリン国際映画祭とは】

毎年2月に開催。カンヌ(仏)、ヴェネツィア(伊)と並び、世界三大映画祭のひとつと言われている。本年、日本のドキュメンタリーでは、フォーラム部門で想田和弘監督『港町』(現在公開中)、ベルリナーレ・スペシャル部門でスティーブン・ノムラ・シブル監督作品『坂本龍一 PERFORMANCE IN NEW YORK: async』が上映された。

【執筆者プロフィール】

植山英美​  (うえやま・えみ)
アーティクルフィルムズ代表​。日本のインディペンデント作品、ドキュメンタリー作品を海外に紹介する国際セールスとして、アジア、ヨーロッパの映画祭、マーケットを渡り歩く。担当作品『息の跡』『Cu-Bop across the border』『カンボジアの染織物』『風の波紋』他。またプロデューサーとして、合作製作作品3本が進行中。

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