【Interview】内なる旅で宇宙とピンポンする 『500年の航海』キドラット・タヒミック監督 インタビュー


先住民たちから学んだ世界における存在のあり方

――第3部には、おそらく一度棚上げにしていた期間につながりを強めた先住民たちとの関係も現れています。

KT:例えば映画の中でロペス・ナウヤクという先住民の老人が出てきますが、彼との付き合を深めていった結果として、私は学位であるとか西洋的な教育や知識を捨て去ることができたんだろうと思います。だからこそ、最後のセクションを作らなければいけなかった。通常の映画の物語の語り方を脱構築するためにね。それは35年間かけてやっと見えてきた自分自身の経験を内省することでもありました。

――この映画はある種の輪廻転生の物語でもあり、その世界観は直線的に進む西洋のものとは別のあり方を示してもいます。

KT:まあ、ひとつには自分は直線的な物語が書けないんということもあるんですけどね(笑)。いつも宇宙とピンポンしてるような状態で、どっちに球が飛んでくかわからない中で作っているわけです。ですから、まるで一つの円が完成するかのような形で物語を終えることができたのは、自分でも驚いています。

映画「500年の航海」より

――あなたの作品や物語の語り方が注目されているのも、西洋的な価値観で生活している現代人がその危機を感じているからではないでしょう。

KT:童話の「裸の王様」と同じで、もしかしたら私のような極めてオーソドックスでないストーリの語り方が、子どもが「王様は裸だ!」と言うように、何かを気づかせることがあるのかもしれません。現代の我々の生活の不条理さ、つまり自然とまったく調和していないことの愚かさにです。その意味では、私が映画学校に行けなかったのは、世界のために良いことだったのかもしれません(笑)。

――その語り方はやはり長い年月をかけて確立していったのものでしょうか?

KT:映画全体の構成をそうやって見つけていくには、自分の内なる声に耳を傾け、内なる旅としての作業を続けていくしかないんだろうと思います。それはつまり、内なる旅こそが、外に見えるかたちでの実際の旅がどのようになるかを決めていくということです。これはフィリピンの革命家たちが言っていたことでもありますが、「旅」と言ったときに、物理的に移動するという旅がある一方で、内面的な旅もあり、その両方があるべきだということです。

――「内なる旅」と言えば、この映画にも出てくるナバホ族も思い出しました。

KT:私は過去20年間、先住民の人たちと様々な関係を持ってきました。それはナバホ族だったり、日本のアイヌだったり、フィリピンには先住民の社会が100くらい存在します。妻と一緒に世界中の先住民族の会議を開いたこともあります。そういった活動の中で、自分が知っていたものとは違った、世界における存在のあり方というものに眼が開かれていったのだと思います。それらの要素が、まるで意思を持つかのように映画の中に入り込みたがってくるわけです。映画づくりはこうあるべきだというルールをいったん外して、宇宙とピンポンし、最終的にはゴールへの道が見つかるであろうと自分を信じることができれば、自分自身でもこんなに映画を強くすると思ってもみなかった様々な要素がどんどん現れて入り込んできて、最終的に映画を完成させていくわけです。

――ありがとうございました。あなたのクリエイションの秘密の一端が聞けたのではないかと思います。

KT:私にとっても、自分自身のクリエイションのプロセスについて、初めてよく考えることができました。私はインタビューもつねにダンスをするように心がけています。お互いギブアンドテイクのやり取りがあるのが理想だと思いますから。ぜひ、またお会いしましょう。

映画「500年の航海」より


【作品情報】
『500年の航海』
(2017年/フィリピン/カラー/DCP/英語・スペイン語・タガログ語/161分 )
原題:Balikbayan # 1 ― Memories of Overdevelopment Redux VI
配給:シネマトリックス
監督、撮影、編集、美術:キドラット・タヒミック
出演:キドラット・タヒミック、ジョージ・スタインバーグ、カワヤン・デ・ギア、カトリン・デ・ギア、ロペス・ナウヤク、ウィグス・ティスマン、ダニー・オルキコ
撮影:ボーイ・イニゲス、リー・ブリオネス、アビ・ララ、サントス・バユッカ、キドラット・デ・ギア、カワヤン・デ・ギア、カブニャン・デ・ギア、サングブム・ヘオ
編集:チャーリー・フグント、アビ・ララ
録音:エド・デ・ギア、アビ・ララ
音楽:ロス・インディオス・デ・エスパーニヤ、シャント、
   「マゼランの歌」作曲・唄:ヨヨイ・ビリヤミー

2019年1月26日(土)シアター・イメージフォーラムにてロードショー 
以後、大阪 シネ・ヌーヴォ他 全国順次公開

https://cinematrix.jp/tahimik_japan/

◎『500年の航海』劇場公開記念「キドラット・タヒミック監督特集」
2019年1月26日(土)~2月22日(金)
シアター・イメージフォーラムにて開催決定!

★キドラック・タヒミック監督1月26日(土)、27日(日)来日決定!!
https://cinematrix.jp/tahimik_japan/special_program.php