【自作を語る】島々の音楽を繋ぐ奇跡のアンサンブル!『大海原のソングライン』の制作バッググラウンドストーリー text ティム・コール

このプロジェクトは最初から音楽、映画、コンサートの3つがクロスオーバーすることを念頭に置いて企画しました。音楽を録音しながら映画を撮り、また映画からコンサートへと繋がります。文字の読み書きが始まる前のオーストラリアの先住民(アボリジナル)たちは、歌でストーリーや知識を伝承していました。まず最初に歌があり、膨大な量の知識を記憶するために、ダンスや絵画といった他の表現もそれに加わりました。これらの歌のグループは、特定の順序で歌われ、英語話者には「ソングライン」と呼ばれています。

僕とプロデューサーのバオバオ・チェンに「Small Island Big Song」のインスピレーションが訪れたのは、ラジオから国連気候変動に関するニュースが耳に入ってきたときでした。気候変動の予想レポートでは、海面上昇のため太平洋の島々が失われていくことが強調されていました。この時から何をするにしても、私たちはこの問題意識を念頭に置いて、海洋文化のソングラインを記録するという決意が生まれました。ちょうどバヌアツ共和国の水の女たちに関する映像が一本完成したところでした。私は撮影時に、彼女たちから台湾とのつながりを聞きました。何千年も前に祖先は台湾から渡ってきたと。後で調べてみると、同じ船乗り(海洋民)たちのルーツを持つ島々は太平洋だけでなく、東南アジアの大部分を含むインド洋にまで及ぶことがわかりました。知り合いのバヌアツのミュージシャンたちと台湾のミュージシャンたちで一緒に仕事することは考えていましたが、そこに同じ船乗りのルーツを持つ太平洋とインド洋の島々のミュージシャンたちを繋いでみてはどうか、と思い立ちました。

私たちが訪れたすべての国と先住民族は、島に定住した最初の人々の子孫であり、船乗りの遺産を共有しています。そのため彼らの音楽と文化の系統は最初の入植者まで遡ります。その土地で自然と共に生き、その土地で進化しながら形成されてきました。詳細を知らずとも理解ができます。彼らが歌う音楽、楽器、言語はその場所を表しています。最終的に16 カ国の島国で35の先住民族とコラボレーションしました。そして、重要なことは、これらの地域には現在の国境が引かれる前に、独自のストーリーがあったことです。ちなみに、私たちには脚本やストーリーボードはありませんし、ミュージシャンたちを自分たちの作ったストーリーに当てはめるのではなく、撮影するプロセスを通してストーリーを展開していくことを願っていました。そのプロセスとは、彼ら自身と、彼らが誇りに思う島の文化と自然が代表されるような彼らの歌を、彼ら自身が選んだロケーションで、録音と撮影を行うことでした。大体は三回ほどの撮影でベストショットを確保し、その後はプロジェクトのほかの歌の音楽にオーバーダブをお願いしました。その場でほかの曲をヘッドホンで聞きながら一緒に演奏します。

例えば、チャールズ・マイマロシアさんの「Naka Wara Wara To’o」には他の7名のミュージシャンが参加しました。このプロジェクトを彼に紹介したとき、「今まで知らなかったよ!ソロモン諸島の僕と台湾、マダガスカルや他の太平洋諸島に住んでいる人々につながりがあるなんて!」と、彼は語りました。そしてマダガスカルでメリナ族のラジェリーさんとゾーさんはこの曲を聴きながら、ボーカルでパーカッションを作りあげました。同じメリナ族のサミー・サモエラさんは「Kabosy」というマダガスカルの木製ギターで、台湾のタロコ族ピテユ・ウカさんは「Qoqar」という動物の骨と竹製のタロコ式口琴を演奏し、海の向こうにいるオーストロネシアの兄弟に捧げあげたい気持ちを込めて、序奏に彼らの演奏を加えました。さらに、ハワイアンのクアナ・トレス・カヘレさんからはこのような言葉を頂きました。「この曲はなんか物足りない気がしますね。私のイプヘケ(ipu)でベースを作りましょう!」彼のおかげで、良いビートが出来ました。パプアニューギニアのアイリレケさんとパルアイ・ソック・ソックさんはガラムートという儀式用割れ目太鼓をブーゲンビル島で「Monoka」という竹筒制の打楽器をアコースティック・ギターの代わりにして、「Naka Wara Wara To’o」を作り上げました。

このような手法を取りながら、全ての歌は私たちが旅する中で、自然を生まれ故郷とするアーティストたちによって作られ、同時に映画も作られました。目標は海を越えた自然の声を表現すること。英語や日本語、その他の言語でもないため、この目標が成功したかどうかはわかりませんが、私個人としては非常に感動的な体験でした。

【映画情報】

『大海原のロングライン』
(2019年/オーストラリア・台湾/2K DCI SCOPE/5.1chサラウンド/82分) 

監督:ティム・コール

プロデューサー:バオバオ・チェン
出演:クアナ・トレス・カヘレ、タリカ・サミー、ホロモナ・ホロ、アレナ・ムーラン、チャールズ・マイマロシア、ポエモアナ 他
製作: Small Island Big Song Pty, Ltd. 、小島大歌影音工作室
配給:ムーリンプロダクション
後援:オーストラリア大使館、ソロモン諸島名誉領事館
公式HP: moolin-production.co.jp/songline/ 
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=PZ2VriSCMm0&t=2s

写真はすべて©Small Island Big Song

シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
「仮設の映画館」でも公開中!

【監督プロフィール】

ティム・コール(Tim Cole)
オーストラリア出身。音楽プロデューサー・映画監督。オーストラリアを中心にオセアニア各地の先住民文化と音楽をリサーチ、収集してで音楽製作や映像制作を行ない、そこで作られた作品は多くの受賞に輝いている。
音楽に対する情熱は自身を最も辺境の地へと連れて行き、その作品を世界の最も素晴らしい舞台へ連れてゆく。ニューヨーク・ブロードウェイ、ロンドン・サウスバンク、シドニー・オペラハウス、WOMAD での公演、またWOMEX World Music Expo、台北芸術祭等ではゲストスピーカーも務める。