【Report & Interview】ゆふいん文化・記録映画祭~地方の映画祭の可能性を探る~ text 藤田修平

実行委員長の清水聡二さんb清水聡ニさん

ゆふいん文化・記録映画祭実行委員長(第10回~)。湯布院町湯平出身で、現在、宿泊施設フローラハウスを経営。同人誌『モンスーン』(1987年〜2008年)編集長

 



——今年の映画祭の上映プログラムを作る時にどのようなことを考えられましたか。特徴はどのようなものですか。

清水:今年のドキュメンタリーの映画祭を考える上で無視できなかったのは、やはり震災と原発事故です。ただ、震災から二年が経って、数多くのドキュメンタリーが制作されているなかで、直接、被災地で撮った映画を上映することは我々の役目ではなくて、それよりも災害や事故の根っこにあるものを拾っていこう、調べていこうということになりました。まず、土地を追われた人たちについて。『水になった村』(2007、監督:大西暢夫)や『いって・らっしゃい』(2012、監督:岡田一男 )では住民がダムの建設によって追われたり、スターリン政権下で土地を奪われたりするのですが、こうした状況は福島とつながっているように思います。そして、エネルギーについて。昨年も火力発電所から原発建設の映画、民主主義と原子力発電所の関係を扱った作品を上映しましたが、最近は石炭が注目されていますね。この石炭を調べていくと『石炭奇想曲』(2007、製作:北海道文化放送 )という映像に出会いました。これは夕張の話ですが、炭鉱の人生ということを考えた時、『こまどり姉妹がやって来る~ヤァ!ヤァ!ヤァ!』(2009、 監督:片岡英子)を取り上げることになりました。

——今年は音楽を扱った映画が多いように思うのですが。リーフレットのイラストには音符が使われています。『スケッチ・オブ・ミャーク』(2011、監督:大西功一)もそうですね。

清水:宮古島の映画ですね。上に挙げた映画は故郷や生まれ育った村に外部からの圧力が加えられて、それまであったものが断ち切られます。『スケッチ・オブ・ミャーク』では断ち切られずにずっとつながってきたもの-唄-があるのですが、それは失われつつあります。こうして原発と震災から考えていくと、ああ、そういえば歌(唄)という共通性があるなと気づきました。ただ、根底のテーマとしては音楽ではなくて、先ほど述べた故郷において絶たれるものとつながるものということになります。

 ——この映画祭のオープニングは『小梅姐さん』(2007、監督:山本眸古)ですね

前夜祭にふさわしいものということで、こまどり姉妹が北海道なので、九州では誰かいないか、と探して赤坂小梅が出てきました。彼女は筑豊炭田のあった川崎町の出身で、黒田節、炭坑節、おてもやんという唄で知られています。小梅姐さんが生きてきた人生は戦前、戦後とエネルギーを支えてきた石炭産地のありようというか、それとの関係のなかでしか小梅姐さんを語れないですから。撮った人は山本眸古さんという北九州の方で、テレビドキュメンタリーもいいものを撮っていますし、地元の人が地元の著名人の人を撮ったものとしては思い入れがありますね。

——その他には『日本国憲法』(2005、監督:ジャン・ユンカーマン)と『映画 立候補』(2012、監督:藤岡利充 )があります。

「憲法」は今や時の話題ですのでどうしても入れたいと。我々は政治的であろうとは思ってはいないのですが、日本人にとって大きな岐路に立っていると思うので、日本国憲法とはいかなるものなのか、テレビやマスメディアで論争している角度からではなくて、違う角度から捉えたものをやりたかった。そういう意味でユンカーマンの『日本国憲法』は日本人が見た日本国憲法というよりも、外国人が見た日本国憲法であって、2005年だったかな、かなり有名な映画で多くの方が観ていますけど、それに基づいて佐高信さんをゲストとしてお招きして、今、日本国憲法をめぐる問題を考えてもらいたいということになります。

——『映画 立候補』は(湯布院町が舞台となった)市町村合併や橋下現象と呼ばれるものと関係があるのですか。

この映画は橋下徹が知事から市長に鞍替えした時の府知事選に挑んだ泡沫候補の話なので、全く関係ないわけではないですが、この映画の面白さは主人公のマック赤坂の主張や選挙活動ではなく、彼の活動を支える運転手や息子との物語なのです。そうした面白さがあって、上映となりました。

『映画 立候補』より© 2013 word&sentence

『映画 立候補』より© 2013 word&sentence

 ——『タケヤネの里』や記録映画の保存に関する講演について教えてください。

どんな形であっても伝統工芸や伝統技術の記録を続けてもらいたいので、文化・記録映画祭が絶対に落としてはならないジャンルだと思っています。これまで工芸に関する映画は昔のものを引っ張りだしてくることが多かったのですが、『タケヤネの里』は新作です。姫田忠義さんがおられた民族文化映像研究所の青原さとしさんが竹皮の技術を追いかけて、九州では八女市でのほうで、お茶道具を支えているにも関わらず、後継者もいなくて消えようとしている技術の素晴らしさをしっかりと描いています。

また、記録映画保存に関する講演は記録映画保存センターの山内さんからの提案で実現しました。ゲストに国立近代フィルムセンターのとちぎあきらさんにお越しいただいて、記録映画の保存と活用を考える講演と、フィルムセンターに残っている貴重なフィルムを3本、しかも大分県にまつわるものを持ってきてもらうのです。誰かがこの映像を活用してドキュメンタリー映画を作ることがあるかもしれませんが、そうでもない限り、一般的にこの作品が上映されることはないと思います。『美の哀史』(1940年頃、西日本映画社 )は戦前の映画で、大分の磨崖仏が撮られています。『長大コンクリートアーチ橋-別府明礬橋-』(1990、監督:吉田巌 )では別府明礬橋は高速道路の橋なのですが、鹿島建設が撮った建設記録で、これは比較的新しいものです。『湯の町と火の山へ』(1936、監督:川喜田壮太郎 )は1936年の古い映画で、大分に住む人間にとってはこういう映像があったことは驚きでした。これまでニュース映画を上映していましたが、そうした試みの延長だと言えます。

映画『タケヤネの里』より

映画『タケヤネの里』より

——では、今年は例年とは違うという試みはありますか。

そうですね、今回は短編が少なく、新作や比較的、新しい時代に撮られたものが多いです。実はこれまで外すことのなかった松川八洲雄さんや時枝俊江さん、土本典昭さんの映画がないのです。私は実行委員長として11回から15回まで5年間、やってきましたが、以前は呪縛的にこれらの作家の作品をやらなくてはならないと考えていた、その呪縛を外したかなと思っています。それが16回目の特徴だと思います。その意味では転換点だと思います。一つの新しいスタートなのかなと思っています。

——上映プログラムはどうやって決めるのですか。地方であることを考えれば、映画にアクセスすることは難しいと思うのですが。どのように情報を得て、試写を行い、議論を行うのでしょうか。

作品のラインナップを決めるアドバイザーはいないのですが、情報提供はいろいろな方々からいただいています。新作に関してはゆふいんにふさわしいかなと思えるものは、作品を取り寄せて試写を行います。30本ぐらい見たなかから選んでいます。作品選定会議があって、常に加わるのは5,6人で、試写会には5人ぐらい10人が参加します。まとまらないことは、決められないことはよくありますが、話し合いのなかで、なんとなく収まっていくものです。その議論は実行委員長が主導しますが、ディレクター制ではないのです。

——清水さんはどのようにして映画祭と関わりを持つようになったのですか。 

大学を卒業してこちらに帰ってきた時、ちょうど夏の湯布院映画祭が第10回目を迎えて、湯布院町の実行委員が少なかったので、5回ぐらいやりました。ただ、湯布院では大分のメンバーと比べると映画に情熱を持つ人は多くなくて、結局、湯布院町に大きな事務局ができることにはならなかった。そのうち当時、実家が旅館業をやっていて忙しくなってきた。実家の旅館は湯平(湯布院町湯平)にあって(映画祭の会場である由布院地区から)遠く、湯布院映画祭からは離れてしまった。その後、小川紳介さんとの出会いがあって、東京の上映会にも行ったりしたのですが、家内の実家(由布院地区)に移ったことで、また中谷健太郎さんたちと活動を始めて、アジアと映画に関する同人誌『モンスーン』やフィリピンの映画監督の上映会や来日のコーディネートをしたりしていたので、もう一度、映画祭に取り組まなくてはという気持ちがありました。また、立教大学の社会学科の出身なのですが、社会調査やフィールドワークをやっていて、ドキュメンタリーを観た時、それと共通点があって、ああそういうことかと思うことも多く、声をかけていただいて取り組み始めました。



第16回 ゆふいん・文化記録映画祭
開催日:2013年6月28日(金)~6月30日(日)
場所:湯布院公民館、乙丸公民館劇場 (大分県・由布院盆地)

公式HP:http://movie.geocities.jp/nocyufuin/home.html
プログラム:http://movie.geocities.jp/nocyufuin/16th/16th.html

【執筆者/インタビュアー プロフィール】
藤田修平 ふじた・しゅうへい  
1973年神戸生まれ。台湾で映画制作を始め、日本と台湾の歴史を扱ったドキュメンタリー映画の制作に取り組む。手掛けた作品は『寧静夏日』(2005、監督)、『緑の海平線』(2006、企画・制作)など。『緑の海平線』はゆふいん文化・記録映画祭で第1回松川賞大賞を受賞し、今年は松川賞選考委員をつとめる。現在、慶応大学環境情報学部准教授。