9月14日、福島映像祭にて『報道ドキュメント 東電テレビ会議』(※1)を観た。これは、2012年7月より東京電力のホームページに公開されているテレビ会議の映像を、Our Planet-TVのスタッフが、約4時間の映像に編集したものだ(※2)。
この映像には、2011年3月12日の深夜、つまり1号機が爆発したその晩から15日までの、約3日間の会議の様子が描かれている。画としては、福島第一原子力発電所(故・吉田所長らのいた免震棟)や東京電力本店、オフサイトセンターなどが5~6分割のマルチ画面(wmvという解像度の低い動画ファイル)で表示され、音声は比較的良好なものの、映像は東電が「プライバシーを守るため」という名目で入れた人物のぼかしやピー音が多用された(※注3)とても不明瞭なシロモノだ。だが、このOur Planet – TV版では、飛び交う専門用語の注釈や、現在時刻が入っており、その都度発言している人物の名前が表示されていた。そのため、画像が粗く、発言者の顔をはっきり認識することができなくても、オリジナルに比べるとだいぶわかりやすい内容になっていた。
編集には『プロメテウスの罠』などで知られる朝日新聞の記者・木村英昭氏が監修に加わっており、ポイントを踏まえて編集されている。「延々引きのカットでぼかしだらけという、いかにも眠くなりそうな記録映像」という想像を裏切って、最後まで飽きずに観られる作品だった。
本編は、まるでアメリカの人気ドラマ『24』を連想させるような、コチコチという時を刻む音で始まる。上映中はしばしば、笑いがこぼれた。皆の生死にかかわる、とても緊張感に満ちた状況下のやりとりなのに、主に東電本店から妙にのんびりした返答があったりすると笑いがおきるのだが、私自身は、これがすべてあの時本当に起こったことなのだと思うと、笑えなかった。これがフィクションなら笑えたのかもしれないが。
前半上映後の休憩時間、受付で販売している福島産有機栽培米を使用した炊き込みご飯を買った。美味しかった。やがて後半の上映がはじまる。粗いロングショット・マルチ画面が大型スクリーンに映されるのを階段席で観ながら「ああこの状況自体が、なんだかとってもシュールだな」と不思議な感覚を抱いた。
だがこれが、この記録映像の正しい観方なのかもしれない。おそらく誰もが観ていて気になることの一つは、本店と福島第一原発の現場の、この緊急事態における姿勢の温度差だろう。例えば震災のあった11日の晩、本店の人が「みんな疲れていると思うので(中略)明日に備えて早く帰ろう!」と言って途中で一斉に引き揚げてしまう一方(文字通り、本店の舞台は空となる)で、福島第一では「避難区域がどのみち20キロ圏内だから(みんな家に)帰れないんですよ」と言って、夜通し作業を続ける場面。乗用車に乗った消防士と消防車が別々に現地に到着して対応にまごつく場面、格納容器を冷やすために巨大な氷の塊をヘリから落とそうと真剣に検討している場面などは、素人目にも突っ込みどころ満載の内容である。他にも、記者会見や情報公開の前にかわされた、ずさんなやりとりなどが露呈されている。このような映像は、家で一人で観るのではなく、誰かと一緒にツッコミを入れ、話すことで、はじめて検証という機能が得られるのだ。長いプログラムを観終えた時、こういう形で観ることができてよかった、と思った。
この日解説をしていた木村記者の話で驚いたことがある。テレビ会議の映像には肝心なところで音声が記録されていない箇所が多数あり、多くの人々が開示を求めている。その指摘に対し、東電は「それぞれの現場で、ビデオの録画ボタンと録音ボタンが分かれていて、別々に押すしくみになっている」とこたえたのだそうだ。つまり、本店で録画ボタンは押していても、もう一方で録音されていないことがあったために音がない、と説明しているらしい。常識的には、それでは記録の意味としても、そのシステムとしてもあり得ないように思うのだが、果たして本当にそうなのだろうか。
観た後で、改めてこの二年半を振り返ってみた。この事故は、私たちに重大な課題を問いかけ続けている。あれ以来、「もう、誰かの犠牲の上に成り立っているような暮らしなんて嫌だ」と、自分の生き方を見つめ直した人も少なくない。福島第一原発の収束作業に当たる作業員たちに対して「まるで、人身御供をさし出し続けているようだ」と胸を痛める人もいた。
千葉と東京で生まれ育った私は、この事故が起こるまで、福島県で私たちの日々の電気がつくられていることなど、知らなかった。以前からチェルノブイリの深刻な状況は知っていたし、JCOの事故の時に「ああ原発は嫌だ!」と思ったにも関わらず、だ。
だから私は、このような深刻な事故を引き起こし、その対応があまりにずさんだとしても、東電を一方的に糾弾する気にはなれないところがある。「国の責任だ」と言う時も、そうだ。無関心であったり、よくよく考えて政治に関わってこなかった私達にも責任はあると思う。
『東電テレビ会議』を観て、物事を自分なりに読み解く力を鍛えたいと思った。一種のドキュメンタリーとして捉えてみると、想像していた以上に引き込まれていく力がある。私のように、映像的におもしろくないと眠ってしまうような人間でも、だ。誰かと一緒にもう二度、三度と観て、話し合いたい。あの地獄絵図のような非常事態と、今も続く惨事を二度と繰り返したくないと考えるなら。
※注1.9月14日の上映ではタイトルが『東電テレビ会議 49時間の記録』と、プログラムとは異なっていた
※注2.東電は報道関係者に対し、800時間におよぶ事故後一か月間のビデオを公開したが、一般向けにはインターネットでその一部を公開している。ところどころ音声がないところも多い。
http://photo.tepco.co.jp/date/2012/201210-j/121005-01j.html
http://photo.tepco.co.jp/date/2013/201303-j/130306-01j.html
※注3.東電はプライバシー保護を理由に、事故調査報告書で名前が記載された社員以外は、顔にマスキングをしたり、「ピー」という音をかぶせるなどして個人名が知られないようにしている。
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【執筆者プロフィール】
石本恵美(いしもと・めぐみ)
「自分から始まる学びと表現の場」シューレ大学にて映像と出会い、制作を始める。2010年より、大学の仲間と立ち上げた映像とデザインの会社「創造集団440Hz」を基盤に活動。2012年夏、セルフドキュメンタリーとして3.11を描いた『原発附和雷同~東京に暮らすわたしの3.11~』を発表した。