【Interview】特集・福島映像祭のここがツボ!

本日(9/14)より一週間、ポレポレ東中野と「Space&Caféポレポレ坐」で開催される「福島映像祭2013」は、ありとあらゆる福島のドキュメンタリー映像を集めた、極めて画期的な映像祭である。
「東電テレビ会議」をはじめ、ジャンルや作家の立場を問わず選ばれたセレクションは、できる限り多様な視点で福島を考えたいという、主催者の強い意志が伝わってくる。と同時に彼らはいう。「あらゆる福島の内側へ―」と。
無意識に私たちを隔てる「内部」と「外部」。絶えずその視線の往復運動をしながら「内側」に入る、とはどういうことか。今回の映像祭の特徴を、主催する「Our Planet—TV」の高木祥衣さんに話を聞いた。
(取材・構成 佐藤寛朗)

高木祥衣さん(Our Planet-TV)

高木祥衣さん(Our Planet-TV)

 —福島に関する映像をこれだけ集めて上映するのは、恐らく初めての試みではないでしょうか。まずその企画の経緯を教えていただけますか?

高木:震災や原発事故から2年半が経った今、福島の報道がどんどん減ってきていることに私たちは危機感を持っています。その「風化」を阻止したい、という思いがまずあります。取材などで福島に行くと「自分たちは忘れられているんじゃないのか」という不安を耳にすることもけっこうあって、その思いと、普段東京でテレビを見ている時とのギャップを感じたのも「風化」という意味ではありますね。原発事故前と事故後で生活が変わってしまったが、どう変わったのかを伝えたい、と思っている福島の方もたくさんいます

私たちは、普段の活動でビデオのワークショップをやっているんですけど、今年の2月に、はじめて福島でも開催しました。そこには福島の方に福島のことを撮って伝えていただきたい、という思いがあったのですが、同時に福島の暮らしの目線を、東京や東京以外の人に観せたらどうなるか、ということを考えたのです。

——「Our Planet—TV」といえば、インターネットを使ってビデオ作品を配信する市民メディアの草分け的な存在ですが、今回、なぜ劇場公開を企画したのですか?

高木:普段はインターネットで番組を配信しているのですが、顔の見えないオーディエンスがたくさんいるんですね。もちろん番組を見て感想を送って下さる方もいるのですが、同じ場所で、同じものを見てお客さんと何かを共有したり、イベントやディスカッションみたいなことをやってみたくて。今回、劇場公開に挑戦してみました。

企画の段階では、市民のビデオ作品を集めて上映会を開くようなイメージだったのですが、いろいろ見ていくと、実は福島や原発事故に関わりのある映像作品はたくさんあって、どんどん埋もれてしまっている。「今、私たちがこれを観てほしい!」というのが、このプログラムの核になった感じです。自分たちが作った番組、というよりは、福島を描いたいろいろな映像を紹介したい、と。

——映像祭の目玉として、まず4時間に及ぶ「東電テレビ会議」の上映(14日15:00/19日18:00)があります。この企画はどのように成立したのですか。

高木:おおもとの映像は、東京電力が震災直後に行ったテレビ会議(注1)を録画していたものです。2012年の夏頃から、東電はその一部をホームページで公開していて、今でも見られるようになっています。公開当時から、OurPlanetTVのスタッフ内でこの記録は貴重だと感じていて、ドキュメントとしてまとめたら面白いんじゃないかと話をしていました。映像祭の話を進めるうちに、これを劇場で公開して、みんなで一緒に見たら良いのではないか、という話になりました。

今回は、2011年3月12日に福島第一原発1号機の水素爆発があった頃から15日までの3日間の対応を、Our Planet TV のほうで、4時間の映像にまとめました。初めての方にもわかりやすく観ていただけるように、木村英昭さん(朝日新聞記者。『プロメテウスの罠』などを執筆)に編集にご協力いただいています。画像は粗いですが音声は明確に入っており、時間や経過などの情報は、こちらがテロップに入れ、補足しています。

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『東電テレビ会議』写真提供:東京電力

——前代未聞の試みですね。どこが「見どころ」なんですか?

高木:あのときは私たちも、テレビなどで爆発を見て、日本中が同じ事故を体験、共有していました。その記憶が思い浮かぶから、見ていると本当にドキドキするんです。その裏で、東京電力はどういう状況で、どのような処理をしようとしていたのか。善し悪しはともかく全部記録として残っているんです。

極限状況になると、不謹慎ですが笑ってしまうような動きってありますよね。何トンの氷を調達して上から落とそう、という話を真剣にしていたり、逆に爆発しているのに、現場の人たちは意外と落ち着いているんだなあ、とか。亡くなった吉田昌郎所長や武藤副社長(当時)の人となりのような部分も見えてきて、4時間見続けられるだけの人を引き込む要素があるのです。

本店にいる人たちと、福島第一原発の現場にいる人たちとの間にある、いろんなズレやコミュニケーション不全も鮮明に映っている。東京電力は大きな会社ですが、こういった事故が起きると、結局は現場の作業員頼みなんですね。作業員のマイカーを貸して下さいとか、バッテリーを貸して下さいとか。バッテリーを買うにもお金がないから、現金を貸して下さいとか。今も汚染水の問題などで騒がれていますが、原点がここにあるので、その体験を共有するのは大事なことかと思います。

——福島の民放各局のテレビ番組を東京で上映しますが、これも面白い試みですね。

高木:埋もれてしまっている映像の部類に入るかと思うのですが、全国ネットには流れず、福島県内でのみ放送された番組や、海外向けに作られた番組を東京で観る機会を作りたかったのです。あとは、メディアやジャーナリズムに関わっている人たちが、事故や震災を経験した現場で、どんな思いで作っているのか。そこを見せるのは大事かと思っています。

『Fukushima Reporters』 (2013、独Autentic/㈱きさくや/福島中央テレビ)は、福島のテレビ局と海外の放送局の国際共同製作ドキュメンタリーですが、出てくる福島中央テレビの記者やアナウンサーも被災者ですから、その時、どういう思いでどのような行動をとったか、彼らのストーリーを知れるというのは貴重なことだと思います。地震が起きた時に、どこでどういう光景を見て、何を感じていたのか。テレビの裏側にいる人々は、普段テレビには映りません。彼らのその時の感情というのは、とても「葛藤」という二文字ではあらわせないと気付きます。(※2)。

Fukushima Reporters

『Fukushima Reporters』

 ——福島の放送局の人たちには、自分たちの作品を東京で見せたい、という思いは結構強くあるのですか?

高木:今回は、福島にある4つの民放のテレビ作品を上映します。それぞれ系列のキー局があって、全国ネットに上げるルートを持っているのですが、震災から2年半も経つと、自分たちが伝えたいことと、全国ネットに載る情報が、どんどん違ってきてしまっている。そのことに歯がゆい思いを持っている方が結構いらっしゃいます。映像に残せなかったり、番組に入らなかったエピソードもあるようなので、トークセッションでは、いろいろお話しをいただこうと思っています。

——福島のお医者さんや、農家をとりあげたローカル色の濃い番組もありますね。

高木:福島の問題だけでなく、東京にいる私たちにも通ずるテーマの作品ですよね。私たちも、福島のブドウとか桃という農産物を食べてきたので。それを作ってきた人たちが、今どのように農業をして、どういう対処をしているのか。お医者さんや介護のお母さんの話では、福島固有の問題というよりは、生きていく上で大切なことをどう教えてくれるのか、という観点で選んでいます。

今回のキーワードにひとつに「食」というのがあります。「食」は自分たちに繋がっていますよね。農業大国の福島県が、震災を経てどういうふうに変わってしまったのか。それでも農業をあきらめず、放射能の汚染と向き合いながら農業を続ける試みはとりあげたいと思いました。

——あとは飯舘村の農家の方が監督され、Our Planet TV で製作された作品(『飯舘村 わたしの記録』監督:長谷川健一 16日17:00/17日15:00)が上映されますが、これはどのような経緯で作られたのですか?

高木:『飯舘村 わたしの記録』を監督した長谷川健一さんは酪農家です。もともと酪農の記録写真を日常的に撮られていました。震災以降は、スチールだけではなくビデオでも、自分たちが置かれている状況を記録しようと、自らビデオを購入し撮影を始めました。この、彼の目線の映像を公開できないかと思いました。今回は2011年4月から、全村避難を経て、8月に仮設住宅に入るまでをまとめた作品ですが、これがなかなか独特でして。

人の手が入らず荒れる田んぼを見て、撮りながら「雑草だらけになってしまいました」とコメントを入れる。その視点がジャーナリズムとは違うんですね。飼っていた牛が殺処分になったり、売られていったりするシーンでは、群がるメディア関係者を引きで撮っていたり、避難の前に、村の自宅で家族が集まった最後のご飯の様子など、長谷川さんにしか撮れないショットがある。村の紹介も「自分のお気に入りのスポットはここです」とか話していて、この人は村と一緒に生きてきて、本当にこの村を愛していたんだな、と言うのが伝わってくる作品です。

『飯館村 わたしの記録』

『飯館村 わたしの記録』

——映画のほうも、結構な本数が上映されますね。

高木:ほとんどの作品が劇場公開としては初めてで、国内の作品もあれば、海外の監督が撮影した作品もあります。『福島へようこそ』(2013、監督:アラン・ド・アルー)というベルギー人の監督が南相馬の人々を撮った作品には、映像的な美しさがあるし、他にも人間以外の“生きもの”にフォーカスした『福島 生きものの記録』(2013、監督:岩崎雅典)や、震災前から日本一のお米を作っていた村の作品『天に栄える村』(2013 監督:原村政樹)などがあります。

『福島へようこそ』

『福島へようこそ』

——公募作品の上映や、トークイベントについてはいかがですか。

高木:公募作品は、1階のカフェ「Space&Caféポレポレ坐」でやるんですけれども、その場に出品者をお呼びして、ビデオサロンのような形にできれば面白いなあと思っています。こちらは「ふくしまのこえ」という、福島の映像を記録として、アーカイブに残すプロジェクトと連動してやっているんですけれども、我々の想像以上にレヴェルの高い作品が多くて、正直びっくりしています。

——プログラム全体を俯瞰すると、取材で福島に行った人が撮った作品と、福島の人が撮られた作品と両方ありますが、これは意識的に並べられたのですか?

高木:実際にふたを開けたらこうなった、という部分はありますが、取材で東京などから現地に行って伝えたいと思っていることと,福島の人が伝えたいと思っている現実とはもしかしたら違うのかな、というのが、私の実感としてあります。東京の人は「福島では人々がこんなに頑張っている!」というのを分かりやすく求めるのかもしれないですけど、福島の人は、日常のお祭りなんかを撮っていたりしていて、逆にそのような日常性を伝えたいのかもしれません。

——いまどういう問題が起きているのかを伝える、というよりは、福島の現状を伝える場を持つ、ということですかね?

高木:そうですね。例えば「福島の農業がこんなに大変です、みなさんそこを見てください」ということではなくて「農業はこうなっています」「飯舘村はこうなっています」「南相馬市はこうなっています」とか「こういうお医者さんがいて」という現実をたくさん見せていくことで、観た人が何かを考えてくれたらいいなと思っています。東電に始まり、農業に終わります。東電の人にもぜひ会場に来ていただきたいのですけどね(笑)。

(注1)東京電力本店と福島第一、第二原発を含めた原子力関連施設を結んで行われていた。
(注2)幣誌「neoneo 02」p15『地元報道の日々』村上雅信(福島中央テレビ報道部記者)もご参照下さい


『福島映像祭2013』

【日程】9月14日(土)~20日(金)
【会場】ポレポレ東中野 および スペース&カフェ ポレポレ坐
(JR中央線・都営大江戸線東中野駅下車徒歩1分)
【料金】当日1500円/前売り3600円(3枚セット)     
※一部無料や500円、1000円のプログラムがあります。詳細はチラシをご参照ください。

【公式サイト】http://fukushimavoice.net/fes

上映作品詳細はこちら→http://webneo.org/archives/10798