映画の内容に触れる前に、沖縄の民放テレビ局の動きについて書いておこうと思う。実は『標的の村』公開の直前。夏休みの期間中、琉球放送(RBC)が自社コンテンツである、ホラードラマ、『オキナワノコワイハナシ』を3D化して、ショッピングモール内の特設ホールで映画興行を行った。なおかつ10月にはDVDも発売される。この作品は9年前から毎年お盆の時期などに制作されてきた人気シリーズで、かねてからコンテンツの二次使用が期待されていた。まあしかし、著作権や肖像権などの権利関係の処理とか、いろいろあって動きが鈍く、ようやくここに来て具体的な動きがはじまった。今年の香港フィルマートにテレビ局から視察にいったり、コンテンツの二次仕様に対する動きが活発化している。もちろん沖縄だけの動きではないだろうが、数年前の同局のテレビヒーロー物の『琉神マブヤー』がマーチャンダイジングの大成功と、角川映画での映画版制作なんてこともあって、流れは確かに動き始めている。
その中で『標的の村』の好調ぶりは非常に興味深い。なにしろ報道というのは、ドラマ以上に地域からの発信力が強く、資産として過去の映像アーカイブもあるのだ。実際に制作している現場スタッフからすれば、県外の観客に情報が届けられることは非常に有意義だし、テレビ業界の不調を乗り切りたい会社側も、重い腰を上げる時が来たのかも知れない。となれば、これからもこういう形の映画作品が生れてくる可能性が芽吹いてきたような期待感を生みだしている。
この動きを目撃せねばと、『標的の村』の初日に桜坂劇場に出かけていった。内容は沖縄本島の北部にある高江地区でのヘリパット建設阻止運動の顛末と、オスプレイに関わる普天間基地の事実上の封鎖が、生々しい映像で描かれる。県外では大きく取り上げられてこなかった題材を、地元局ならではのフットワークを駆使した密着映像で描いていく。正直、心が揺さぶられた。その揺さぶりは、本土の人が感じる物と、また異質なものにちがいない。
なにしろ僕らは、米軍基地に多くの土地をとられた沖縄県民として、「基地反対」とシュプレヒコールをあげることに躊躇はない。「本土の人々は沖縄に対して無知過ぎる」と、偉そうなことをつぶやくこともある。しかし、高江という地域を中心に基地問題を描いた時、僕ら沖縄県民は高江という土地に対して無知だったことを知る。いや、無知というよりは無視だったのかもしれない。だってニュースはいつも耳に飛び込んでくるし、実際に映画に出演している知人も家族で住んでいる。しかし、僕自身は時間を割いてまで、沖縄本島北部の小さな集落に足を運んで住民たちに共闘したことは一度もないのだ。せいぜいFacebookやTwitterで情報をシェアするくらいが関の山だ。それがいったいなんの役に立っているのか?「日本は沖縄に米軍基地を追しつけている」と訴える僕らもまた、小さな集落に米軍基地を押し付けることを黙認しているのではないだろうか。そういうことを、この作品は突きつけてくる。
この突きつけてくる最大の武器は、制作者たちが高江の人々と共闘しているところにある。クールな客観報道であれば、僕もここまでつらい気分にはならなかったかも知れない。彼らは高江の人々の中に入り込み、彼らの目線とともにこの問題を炙り出し訴えてくる。その声を拾って、外へ外へと広げることを使命としているように闘っている。その姿勢が、この作品を映画としての圧力を高め、僕らのような観客の心を確実にとらえている。
この作品の応援団も勝手連的に盛り上がっている。支援者たちはFacebookなどで連絡を取り合い、人づてに海外の大学などに上映の打診を始めている。作り手の手を離れ、外へ外へと広がっていくのだろう。しかし、前述のような理由で、この作品は県内の人々も見るべきだ。「基地問題に関して本土の人々は沖縄への理解が足りない」のは何故か?という問いかけの答えが、自分の中にもあることを実感できるのだから。そこからまた、新たな戦い方や、第二、第三の『標的の村』が作られることで、沖縄のドキュメンタリーは活気づくのではないだろうか。
*シンポジウムの模様はこちら→http://www.youtube.com/watch?v=GwrAbHUup4M
【上映情報】
『標的の村』
(2013年/HD/日本/91分/ドキュメンタリー)
ナレーション:三上智恵 音楽:上地正昭 構成:松石泉 題字:金城実
編集:寺田俊樹・新垣康之 撮影:寺田俊樹・QAB報道部 音声:木田洋
タイトル:新垣政樹 MA:茶畑三男
プロデューサー:謝花尚 監督:三上智恵
制作・著作:琉球朝日放送 配給:東風
公開中
東京・ポレポレ東中野(ロングラン上映中、終了未定)
沖縄・桜坂劇場(〜10月11日まで)
シネマパニック宮古島(〜10月14日)
沖縄市民小劇場あしびなー(10月19日、20日)
10月はその他
大阪:シアターセブン、逗子:CINEMA AMIGO、松山:シネマルナティック、
神戸:アートビレッジセンター、広島:横川シネマ、大分:シネマ5、
山形国際ドキュメンタリー映画祭などで上映。
最新情報は公式HPにて:http://hyoteki.com/
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【執筆者プロフィール】
真喜屋力(まきや・つとむ)
沖縄県生まれ。1992年に『パイナップルツアーズ』で映画監督としてデビュー。その 後、東京のBOX東中野の創立に携わったのち、フリーの監督となる。2005年、沖縄で桜坂劇場のプログラムディレクターに就任。現在フリー。沖縄在住。