【リレー連載】ワールドワイドNOW★メキシコ発/モレリア国際映画祭とメキシコシティ国際ドキュメンタリー映画祭レポート text 濱 治佳

morelia 01モレリア映画祭のメイン会場

日本で山形国際ドキュメンタリー映画祭が閉幕し、東京国際映画祭が始まった頃、メキシコではモレリア国際映画祭(Festival Internacional de Cine de Morelia) が10月18日〜27日に開催されていた。モレリアはメキシコシティから車で4時間。世界文化遺産にも登録されたコロニアルな都市風景が広がるミチョアカン州の州都。メキシコの国際映画祭と言えば、日本ではグアダラハラ国際映画祭の認知度が高いかと思うが、メキシコでは若手監督を中心に、近年モレリア映画祭の評価はグアダラハラを上回るようだ。

グアダラハラの、より商業的でマーケット色を強める志向に対して、より作家性に特化しているモレリア、という評判を様々な人々から耳にして、私も高速バスに乗りこみ、10月21日からモレリアへ向かった。

「何よりもこの映画祭の特色は、メキシコ映画、そしてメキシコ映画監督たちが映画祭の主役なのです!」と映画祭の総合芸術ディレクターのダニエラ・ミッシェルが力強く語るように、モレリア映画祭のメインとなる公式コンペティション部門は、メキシコ作品のみで、長編フィクション(12作品)、長編ドキュメンタリー(10作品)、短編の各部門とミチョアカン部門(計43作品)で各3〜4回上映。各部門とも審査員は国際審査員で構成され、メキシコ映画界にありがちな内輪メンバーで審査が偏らないように心がけているとのこと。今年は、日本でもおなじみのクリス・フジワラ氏も短編部門審査員のひとり。

コンペだけではなく、これまでなかなかフォーカスを当てられてこなかった、メキシコ作品や映画俳優などのメキシコ映画史の発掘も積極的にプログラミングされている。特集のひとつ、ブニュエルの『エル』でも主演しているアルトゥーロ・デ・コルドバ特集は、今回の映画祭のために修復されたフィルムを含む13本を上映、好評を博していた。ほかにもタランティーノ、ホドロフスキー、ブリュノ・デュモン、ロバート・ロドリゲス、ジョン・セイルズをゲストに迎えた小特集、6つの特集やワールド・プログラム、特別上映などを合わせると、上映作品は400本ほどの重ボリューム。

ミシェル氏によると、最初は4人で始まったオフィスも、今は40人を抱える大所帯。オフィスもメキシコシティとモレリアにあり、映画祭期間以外には、ミチョアカン州での上映活動(シネクラブ)やワークショップなどを年中稼働させながら、ミチョアカンでの映画人育成にも積極的だ。今年からコンペ応募条件の初監督作品、監督第二作品という条件が解除されたそうで、ベテラン監督のプレミア上映が行われる日もそう遠くなさそうだ。

メジャー系映画を中心に上映している大手シネコン(メキシコ国内各地だけではなく中南米を中心に、インドにも進出している)Cinépoliceがメインスポンサーの映画祭ということもあり、映画祭会場はメイン会場となる中心地と少し郊外のCinépolice2つを含めた全6会場。他の4会場は、メキシコ独立運動の英雄ホセ・マリア・モレーロスの生家(モレリアという地名の由来)を改造した博物館など徒歩で回れるようになっていて、そういったコンパクトさは山形サイズ。

morelia 03モレリア映画祭。劇場をプレスオフィスとトークイベント会場として利用。

中南米の映画祭の多くは、「国際」を謳っていても、やはりスペイン語圏参加者がその多くを占めるので、英語字幕付き上映はかなり限定的な場合がほとんどだが、こちらモレリアは、北米・ヨーロッパの映画祭へのメキシコ映画の売り込みを映画祭のひとつの中心的な目的に据えているので(アジアへの視点はあまりないようで残念なところ)、メキシコ映画上映には、特集上映も含めて英語字幕が付く。逆に非メキシコ映画は、ほとんど英語字幕なしの上映。

先のミシェル氏は「海外映画祭のディレクターにウォン・カーウァイの新作を見せるためにこの映画祭をやっているわけではないから」と述べる。まあ、一理ある。学園都市ということもあり、地元の学生を中心とした若い観客層に、メキシコシティなど国内各地からの映画関係者、海外映画祭関係者などで、朝から晩まで盛況な入りをみせていた。

8作品を鑑賞した長編ドキュメンタリー部門は、作品の質やテーマもさまざまで、正直、頭を抱えてしまう作品をもあったが、特に大賞も受賞した『El cuarto desnudo(裸の部屋)』(監督 Nuria Ibáñez)に、大いに引き込まれた。さまざまな理由で心の傷を負った子どもたちのケアを担当する医師と、子どもたちまたはその両親との室内での問診を静逸なカメラが追う。自傷行為や校内/家庭内暴力など、子どもたちの発露の背景には彼/彼女らが負わされた社会的暴力や精神的苦痛が見え隠れし、加害者である大人たちも被害者でもあったりする。現代社会に蔓延する普遍的なストーリーが浮かびあがり、訴えかける。
foto1              大賞作『裸の部屋』©Morelia International Film Festival (FICM)
morelia 05            授賞式での、Nuria Ibáñez監督 ©Morelia International Film Festival (FICM)


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