モレリア映画祭が終盤に差しかかる24日からは、メキシコシティで第8回メキシコシティ国際ドキュメンタリー映画祭(DocsDF)が開幕。25日からメキシコシティへ移動した。
今年のDocsDFは、国際長編/短編コンペティション、メキシコ長編/短編コンペティション、イベロアメリカコンペティション、TVドキュメンタリー国際コンペティションに加えて、メキシコ国内32州80市180会場で10月中にDocsDF作品上映を行うDoctubreを含む7つのコンペのほか、アルバート・メイスレス、レック・コワルスキー(『ヒトラーのハイウェイ』がYIDFF2003コンペ上映)特集、メキシコ先住民映画作家集団「Ojo de agua(水の眼)」特集など大小10の特集が組まれた。約300作品の上映プログラムと、国際/テレビ局との共同製作を目指した企画ピッチングやレクチャー、共同製作パネル討議などを実施する第6回Docsフォーラムが同時開催され、イベロアメリカ圏ドキュメンタリー製作者が多数集まり、活気づいていた。
広いメキシコシティで上映会場は16カ所に点在していて、効率的に映画を観ることはなかなか厳しく、その点は改善ありと思うのだが、遊牧民のテント「ハイマ(Jaima)」を映画祭用に作り、市内3カ所での広場での野外無料上映をほぼ毎日行うなど、大都市においても手作り感を残しながら、多国籍スタッフが限られた予算の中、ひとつひとつの上映について口コミやソーシャルネットワークを駆使した宣伝を展開し、観客を呼び込んでいる。
メキシコシティ国際ドキュメンタリー映画祭。Jaima(ハイマ)会場風景 ©DocsDF
確かに何かと広場での政治的なデモも含めて、イベントや集会が展開されているメキシコにおいて、街中での野外上映は欠かせない要素のひとつなのであろう。「観客の受けが何よりもいい」と総合ディレクターのインティ・コーデラ氏、芸術ディレクターのパウ・モンタギュー氏は語る。モンタギュー氏によると、第1回は9000人だった総入場者数が今年は50000人。企画の拡大もあるのだろうが、20-30代を中心とした観客層は、毎年確実に増えているそうだ。
スペイン出身で、キューバでも映画を学び、メキシコに移り住んだモンタギュー氏は、世界中の知られざる作家や作品たちの発掘に可能な限り力を注ぎ、国家の情報統制やセンサーシップで国外発信できないようなアフリカ、中東、中欧の国々からの作品応募がインターネットを通じて可能となり、この映画祭へアクセスしてくれることを喜びつつ、「彼らのある意味、命がけの芸術作品を今後も積極的に上映していきたい」と映画祭の特徴を語ってくれた。
メキシコシティ国際ドキュメンタリー映画祭(DocsDF)チーム ©DocsDF
上映プログラムには英語字幕がほぼ皆無なため、私はDocsフォーラムを中心に参加。こちらはアメリカのトライベッカ映画祭やサンダンス映画祭が協力開催していることもあり、英語・スペイン語の同時通訳で開催。公開ピッチングは、イベロアメリカとメキシコ国内共同製作部門のふたつに別れていて、共に国際的なdecision maker(意思決定者)によって、今後、他の国際映画祭でのピッチングフォーラムへの参加資格や参加支援を得ることができる。
そういったピッチを重ねている作品も少なくなく、「8月のウルグアイのDoc Montevideoでも聞いたけれど…」と言われるような、中南米のさまざまな場で同じ作品が企画ピッチされている、という状況はあるのだが、こちら中南米でも、欧米と同じく国際映画祭間での企画ピッチ連携は非常に盛んである。
個人的に“ピッチング”には少なからず抵抗があるのだが、特にメキシコからの企画では、いわゆるテレビ向けの社会派や教養作品だけでなく、私的作品からギィ・ドゥボールに示唆を受けた実験性に富んだ作品などもプレゼンされていて(もちろんテレビ局出身の参加者からは「この映画の商業性をどう考えているのですか?」という質問が発せられるのだが…)、良くも悪くも作品の性質を問わずに無尽に広がっている開かれた製作の可能性や、現在のメキシコ・ドキュメンタリー作品の多様さを目の当たりにできたのは、かなり興味深かった。
10-11月は世界中で映画祭シーズンとはいえ、とにかくメキシコは、年中各地で映画祭が大小問わず開催されている感がある。現在もアメリカ国境近いリゾート地ロス・カボスでバハ国際映画祭が開催中。どうやら映画祭開催は、ここ数年の上昇志向のメキシコにおいて、各市や企業のイメージアップを図るのに好都合なツールとなっているようでもある。
11年目のモレリア、8年目のDocsDFともに、それぞれ目指しているものも土俵も異なるが、参加者たちの声を聞き、顔を見ていると、少し乱暴な言い方でまとめてしてしまうと、メキシコ的な、混沌とした中に映画への熱気が立ち上っていて、イメージ戦略に喰われることなく、作り手と観客の交錯する場としてまだまだ底知れず、ますます躍進していく気概を垣間みた。引き続き、こちらも負けずに熱く注視したい。
Docs Forumにて。アルバート・メイスレス、レック・コワルスキー両監督 ©DocsDF
■モレリア国際映画祭(Festival Internacional de Cine de Morelia)
http://moreliafilmfest.com/
■メキシコシティ国際ドキュメンタリー映画祭(Festival Internacional de Cine Documental de la Ciudad de México)
http://www.docsdf.org/
【執筆者プロフィール】
濱 治佳(はま・はるか)
2001年より山形国際ドキュメンタリー映画祭東京事務局、シネマトリックススタッフ。高嶺剛監督新作『変魚路』製作に携わりつつ、現在、文化庁新進芸術家海外研修員としてアルゼンチンを経て、メキシコに滞在中。12月からキューバに移動し3月中旬帰国予定。