『イヌミチ』について
――先ほど学生たちと映画を撮ることについてお話を頂きましたが、今回の『イヌミチ』も学生たちと撮った映画ということになりますね。『イヌミチ』はそうした学生たちと撮る映画の集大成という側面もあると思いますが、今までのものと今回とでは何か違いはありますか。
万田 学生たちと撮るということに関していうと、今まで映画美学校のカリキュラムの中で、3本撮ってきたんですけど、『イヌミチ』の場合は各製作パート(撮影部とか、照明部とか、制作部とか)のトップにプロの方を呼んで、学生たちがその下につくっていう体制を取ったんですね。なので、商業映画に近い形で撮影できました。だから、今回はあんまり学生たちと一緒に作ったっていう意識がこれまでと比べて強くはなかったですね。学生と一緒にということに関してはね。いつもの仕事のスタンスに近かった。
もう一つは、『接吻』から7年間短いものを撮りながら、学生たちと付き合っていく中で、僕自身の中で『接吻』の時とはちょっと違う芝居に対する考え方とか、人をどうやって動かしていくかっていう方法みたいなものを実作の中で試してみるという機会だったということですね。ただ、そのことは、学生と一緒に作っているということとはちょっと別のことでしたね。
――今回はフィクション・コースに加え、脚本コースとアクターズ・コースとの合同で制作されました。メインに使う役者はアクターズ・コースの中から選ぶという制約が決まっていたわけですが、映画をみるとぴったりハマっていました。キャスティングはどうされたのでしょうか。
万田 決まり事として、アクターズ・コース1期高等科から役者をキャスティングするっていうのがあったので、一応学生たち全員をオーディションしました。特に誰がどの役とていうことをあらかじめ決めずに、脚本の中の一部を読んでもらって、終わったあとに、オーディションに立ち会ったフィクション・コースの学生たちに意見を聞きました。もちろん僕自身もこの人とこの人どうかなっていう気持ちはあったんですけど、それは言わずに、まず学生たちに聞いていきました。学生たちから主演二人の男女の様々な組み合わせが出て、その意見を参考にしながら、最終的には僕が決めました。
メイン以外の他のキャストを高等科の中から全員当てなきゃいけないという縛りはなかったんです。なかったんだけど、でもまあ、当てようと思えばみんな当たるのと(笑)、あとは、オーディションの時に皆一様に面白かったんだよね。だから、これだったら他から誰かつれてくる必要ないから、全員当ててみようよって。で結果、全員にうまいことハマりましたね。
――本編では決定稿よりも主人公の会社の場面が増えており、出てくる人が増えていたのでアクターズ・コースを全員使うという縛りがあったのかなと思ったのですが、そうではないということですか。
万田 当初シナリオではトップシーンは喫茶店のシーンだったんですよ。それはずっと残ってたんですが、結局撮影のスケジュールの問題で、喫茶店はやめることになって。じゃあ、その喫茶店で話されているほぼ同じ内容を、主人公(響子)の職場に持ってきて、職場の話にしようよ、職場紹介のシーンにもなるし、ということで合体したんです。元々その喫茶店のシーンにでてくるお友達の役を、今度は職場の同僚っていう役に変えてやってもらったんですよ。
――決定稿ではモノローグが多かったのですが、本編では少なくなっていて、部分的にここだというところが使われていたと思います。そのあたりはどのようなお考えだったんでしょうか。
万田 脚本打ち合わせを(映画美学校講師の)高橋洋と脚本を書いた伊藤(理絵)さんと三人で何度かおこなったんですけれど、その中でモノローグを全部はずしてみるとどうなるかやってみよう、ということになったんですね。僕自身もモノローグちょっと多すぎるな、全部を説明し過ぎるよね、という気持ちもあったので。それでもどうしてもこのモノローグだけは必要だよねっていうのを残して、撮影稿に直していったっていう経緯ですね。
――モノローグを芝居に、動きに置き換えるということだと思うんですけど、モノローグをどうするかという判断をした時には、まだ芝居をつけていない段階ですよね。どうやって判断したのでしょうか。
万田 1回モノローグありのホン読みをやって、確かその後にモノローグなしのホン読みをやったかもしれませんね。ホン直しの時に何人か、脚本コース、フィクション・コースの子も立ち会わせて、である程度役を振ってやったんですよね。それはまぁ、高橋洋がやりたがっていて、やったんです。僕はねぇ、ちんぷんかんぷんでした(笑)。
――高橋(洋)さんは、(シナリオを声に出して)読んでみろということをよくおっしゃられますよね。
万田 声に出して読むのはわかるんです。僕も自分でも音読する。でも、ホン直しの前に何人かの人たちに役を振ってホン読みをしてみる、ホン読みすることでそのホンの無駄な部分、必要な部分をつかんでいくっていうのが、僕はできなくて。高橋君とかあとは西山(洋市)君ですよね、映画美学校でいうと、西山君もホン読みを大事にする人なんですけど。僕はホン読みをどう扱っていいのかわからなくて。『イヌミチ』の時は高橋君にお願いしたんです。
――万田さんは映画を台詞からというよりは動きを作ることから発想するという感じなのでしょうか。
万田 そうなんです。動かないとわからないんですよ。
――月刊シナリオの縣談で、万田さんは最初脚本について「わからなかった」とおっしゃていましたが、その後脚本の伊藤さんとはどういうお話をされていったんでしょうか。
万田 最初、ホン読んだ時にね、ちょっと僕はどこをどういう風に面白がっていいのかわからない脚本だったんですね。ただ、脚本コースの三人の講師が三人ともが一番これが面白いと推してる脚本だったんで、そうすると僕にはわからないけど面白いものがあるんだっていう、あるんだよねきっとっていうのがあったんで。だから最初、伊藤さんには失礼な話だったんですけど、「この脚本の面白さを伊藤さんの言葉で聞きたいんです。教えて下さい」と言って答えてもらいました。それを聞いてもまだつかめない所がありましたね。