【連載】ワカキコースケのDIG! 聴くメンタリー 第2回『東宝SF特撮映画予告篇集』


|本盤はアンソロジー(企画もの)のはしり

収録されているのは、

<A面>

1「ゴジラ」
2「ゴジラの逆襲~空の大怪獣ラドン」
3「大怪獣バラン」
4「キングコング対ゴジラ」
5「宇宙大怪獣ドゴラ」
6「怪獣大戦争」
7「怪獣総進撃」
8「ゴジラ対ヘドラ」
9「地球攻撃命令ゴジラ対ガイガン」

<B面>

1「地球防衛軍」
2「宇宙大戦争」
3「妖星ゴラス」
4「海底軍艦」
5「美女と液体人間」
6「電送人間」
7「ガス人間第1号」
8「緯度0大作戦〈日本語版〉」
9「緯度0大作戦〈英語版〉」

モスラやメカゴジラはいないの? と気付く方は鋭い。実は『続・東宝SF特撮映画予告篇集』もリリースされていて、こちらは僕、未入手。

聴くとね、そりゃあ燃えます。例えばA1の「ゴジラ」。あのズシンズシン歩いてくる地響きと金属的な咆哮が鳴ると同時に、伊福部昭の不安を煽るスコアがせり上がる。逃げ惑う人々の叫び声とビルの倒壊音が響いたところで、志村喬(山根博士)の「ゴジラに光を当ててはいけません。ますます怒るばかりです!」と警告する声。音だけでもワクワクさせる劇的な積み立てが、よく出来ているのが分かる。

作品を追うごとにナレーションの調子や音楽が次第に垢抜けていくのも、手に取るように。「ゴジラ対ヘドラ」で、音を歪ませたサイケ調エレキギターが飛び出すまでになると、急に古く感じられる皮肉も併せて。
B面はゴジラ以外の特撮作品。5~7の〈変身人間シリーズ〉では、うら若き娘の叫び声、ピストルの銃声、パトカーのサイレンが、ミステリー3点セットのように興趣を高めていて、同シリーズの〈犯罪+特撮〉を狙ったユニークさがよりクッキリ際立つ。

こうして音を資料的に並べるとアンソロジーとして成立しているところが、「聴くメンタリー」の定義に適うなあと思う次第だ。おはなしレコードの亜種としても楽しめるし。

そういうわけで、しばらくは気分よく聴いていた、のだが。ちょうどタイミングよく、今年2月に日本映画専門チャンネルで「ゴジラ予告編集 昭和前編・後編」が放送された。見てみて、イヤになってしまった。だって予告編はやっぱり、見るほうが面白いんだもん。見せるつもりで作っているんだから、当たり前だけど。

そこが「聴くメンタリー」の限界であり、宿命ではある。レコードで音だけでも自分のコレクションにできる、という喜びを人々に与えたものの、ビデオが発達して映像ソフトが充実した途端、あっさりとお役御免に。メディアが進化する途上での、ほんの一時期だけの、つなぎのコンテンツに過ぎなかったのだと改めて思う。でもまあ、僕はその儚さにほだされてしまっているわけで。


|“聴く予告編”ならではの、そこはかとない面白さ

ところが、気を取り直して番組とレコードを見(聴き)比べてみると、音と絵のバランスが面白い。

唐突にセリフが抜き出されているところは俳優のクレジットを出すタイミングだし、怪獣の鳴き声だけ響いて様子がよく分からない……ところは、怪獣同士が戦う姿とともに〈ゴジラが勝つか? コングが勝つか? 世紀の大決斗〉といった煽り文が画面上に躍る、いちばんの見せ場だったりする。

ちなみにどうもこのLP、完全にオリジナルの音源ではなく、修正しているようだ。先に挙げた「ゴジラ」の場合だと、最初の地響きと咆哮が聞こえるのはレコードのほうだけなのだ。後で付け足していると考えていい。ここらへんには、予告編すらソフトや録画で繰り返し見られる時代が来るとは思わず、どうせ気付かれないと油断している、「聴くメンタリー」独特のおかしみがある。

それに。アーカイヴの価値云々からいったん離れて再び聴いてみると、思わぬ発見もあった。
なにしろ東宝特撮映画は、ゴジラやライバル怪獣の鳴き声や口から吐くエネルギー線、宇宙船の飛行音など、現実には無い音を作りこんだ音響デザインの創意のオンパレードだ。見れば映像(具象)と一体化して馴染むものが、レコードだとそのひとつひとつが奇想天外で、妙に生々しい音として、独立して耳に入ってくるのだ。

もしもゴジラを見たことがありません、という若い音楽家がこのLPを聴いたら。
俳優のセリフ、オーケストラ、奇抜な音響。およそ相容れない3要素がぶつかり合いながら、モンスター襲来という異常状況を構築している一種の実験音楽、ミュージック・コンクレートと捉えて、東宝の怪獣と全く関係ないイメージを発想するんじゃないかな。そう想像してみて、楽しかった。

文・画=ワカキコースケ

 

|音源情報

『東宝SF特撮映画予告篇集』
1983/MONO/¥2,000(当時の価格)
ALTY(発売元:アポロン音楽工業)

 

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|プロフィール

若木康輔 Kosuke Wakaki
1968年北海道生まれ。本業はフリーランスの番組・ビデオの構成作家。07年より映画ライターも兼ね、12年からneoneoに参加。今まで皆無と思われる切り口なため、一体どれだけ読んでもらえるか未知数でしたが、初回の反応が予想よりも良くてホッとしました。多謝! 今回は素材ものでしたが、次回からはまた現場の生々しい音源ものをお送りする予定です。http://blog.goo.ne.jp/wakaki_1968