【Review】AVを利用しつつ映画やTVを超える広い世界 ~『劇場版テレクラキャノンボール2013』~ text 佐藤健人

AV監督の意地を賭けた2013

『テレクラキャノンボール2013』がシリーズ最高傑作になったのは、参加メンバー6人全員がAV監督だったことが大きな要因だと思います。(いままではAV男優が参加していた)

老いを感じさせる場面もありながら、きっちり落とし前を着けてくれたカンパニー松尾。
相変わらず、自分の世界観にピッタリな女を捕まえてドキュメントを見せてくれたバクシーシ山下。
思わず目を見張ってしまう詐欺師さながらの口説きのテクニックで、誰よりも可愛い女の子を出演させるビーバップみのる。
人柄のよさが滲み出るアプローチから、カラミになると何気に激しいタートル今田。
相手がとんでもないババアでも、臆することなくナマでハメて、さらにその先の世界にまで挑んでいった梁井一。
イケメンだけど熟女好き、ヘタレなところが玉に傷。ビデオtheワールド最期の新人監督賞受賞監督、嵐山みちる。

それぞれのキャラクターが立っていて、ちゃんと見せ場があるんです。それは、6人全員が、レースに勝ちたいという気持ちだけでなく「誰よりも面白い映像を撮ってやる」というAV監督としての意地を持って挑んでいたからに他なりません。
彼らの意地とプライドに僕は感動した!!この人たちには敵わないと思った…!!!

監督であるカンパニー松尾が最近Twitterで呟いていたツイートにこんな一文がありました。
 
 「僕が見たいのはAVを利用しつつ映画やTVを越える広い世界です」

これはAV監督ビーバップみのるへの激励として送られたものですが、『テレクラキャノンボール2013』(及び、そのシリーズ全作品)はまさしく「AVを利用しつつ映画やTVを越えた」作品でした。

「劇場版」と銘打たれ、映画館で上映されてはいますが、この作品は紛れもなくアダルトビデオ。

公道を使ってレースをしている彼ら。スピードメータにはモザイク処理が施されていますが、間違いなく、全員スピード違反を犯しているはずです。(実際にスピード違反で捕まった人も出る。捕まると-3ポイント)女とセックスするにしても、謝礼を払っているので、これははっきり言って売春じゃないですか? 売春の一部始終が映像で記録されているって、それだけで結構な事だと思います。しかも、女の子によってはナマでやったりしてる。(ナマは+1ポイント)

こんなハチャメチャなもの、アダルトビデオ以外にはあり得ません。
『テレクラキャノンボール』はアダルトビデオの可能性を最大限に活かした他のメディアでは絶対に実現不可能な映像作品なのです。

かつて、作品として優れたアダルトビデオが多くありました。カンパニー松尾の他に、平野勝之やバクシーシ山下、高槻彰などの監督作品がそうです。
しかし、セルDVDが主流になり実質本意な「ヌケる」作品しか求められなくなった2000年代中盤から、平野勝之・バクシーシ山下は仕事を失い(2012年頃から山下は熟女モノの監督として再起しています)、高槻彰は作家性を捨てて爆乳モノの監督にシフトしていきました。もはや、かつてのようなアダルトビデオでしか表現出来ない勢いのある作品は生まれないだろうと、半ば諦めていたところに、カンパニー松尾がやらかしてくれた訳です。

『テレクラキャノンボール2013』は、エロ重視、コストパフォーマンス重視なものしか作られない現在のアダルトビデオ業界への強いメッセージのようにも思えます。
アダルトビデオにはまだまだ可能性がある!!!
他のAV監督たちもカンパニー松尾に続け!!!!!!!!


【映画情報】

 『劇場版 テレクラキャノンボール2013』  
(2014年/132分/日本/カラー/16:9/HDV
※R-18指定 *18歳未満の方はご入場出来ません。 

監督:カンパニー松尾
出演:神谷まゆ、新山かえで、仙台&札幌の素人20人 カンパニー松尾、バクシーシ山下、ビーバップみのる、タートル今田、梁井一、嵐山みちる

[物語]
6人の男達が東京から仙台、青森を経由して札幌まで、車3台、バイク2台でレースしながらテレクラやナンパ、各種出会い系を駆使して現地素人をハメ倒す痛快セックスバトルドキュメント。
最後、優勝者に贈られるボールガールには、2013年で完全引退したAVアイドル神谷まゆと、奇跡のカラダを持つ新山かえでの2名。
果たして狂気のデスレースを制するのは誰か?
史上最強、最悪の抱腹絶倒ドキュメント、ここに誕生。

【上映情報】

6月16日(月)から6月19日(木) 連日19:30 
名古屋 アメカル映画祭 @矢場町spazio rita
6月21日(土) 19:00 
新宿ロフトプラスワン イベント上映
6月21日(土)19:30 
四谷OUTBREAK ライブハウス上映
6月21日(土)から27日(金) 連日20:00 
大阪 第七藝術劇場
6月22日(日)から 連日20:30 
ポレポレ東中野
※連日上映後のトークショーあり! 詳細はポレポレ東中野HPにて
※6/28『劇場版テレクラキャノンボール2013』公開記念オールナイトは完売
7月18日(金)19:00 
沖縄Output
7月19(金)から21(祝)連日レイト上映 
京都 みなみ会館
7月21日(祝)08:00 
青森ROCK FESTIVAL 夏の魔物 イベント上映

【執筆者プロフィール】

佐藤健人(さとう・たけと)
映像エッセイスト。代表作に『もここ』(イメージフォーラムフェスティバル2008奨励賞)、『4月/April』(よなご映像フェスティバル2011グランプリ)など。
初のプロデュース短編映画『もここの初恋』(頃安祐良監督)が近日どこかで上映予定。