【Report】私と札幌国際芸術祭2014 自作『村に住む人々』上映&鑑賞体験記 text 岩崎孝正

会場:札幌市資料館


札幌市資料館「掛川源一郎の眼差しをめぐって」トーク

北海道旧本庁舎(赤れんが庁舎)、北海道立文学館にて、掛川源一郎さんの写真が展示されている。

北海道立文学館へ、露口啓二さん、大日方欣一さん、楠元亜紀さんと向かった。掛川源一郎さんは1914年生まれの写真家で2007年に没した。土門拳さんらの戦後リアリズムの写真に影響を受けたという。現代的な視点で編集された『gen――掛川源一郎が見た戦後北海道』が有名な写真集だ。赤れんが庁舎では「シマフクロウのイオマンテ」シリーズ、文学館ではバチラー八重子など道内の文学者をとらえた写真が展示されていた。

トークは札幌市資料館で行なわれた(写真8)。大日方さんは掛川さんの投稿雑誌時代についての研究を語った。「初期の掛川源一郎の写真は線の見える写真ではなく、円をえがく構図になっている。また本を読んでいる人をとらえた写真が特徴的だった」と指摘した。楠元さんは、アンリ・カルティエ・ブレッソンやアンドレ・ケルテス、リー・フランドランダー、また国内では桑原甲子雄さん、山田實さん、小島一郎さんなどを引きあいに出し、同時代の作家がいかなる写真を撮っていたのか、またそれと掛川源一郎といかに違っていたのかを指摘した。

写真8「掛川源一郎の眼差しをめぐって」トークの様子

 

札幌の芸術の森美術館

札幌芸術の森美術館は、中心となる会場から少し遠い。だが重要な作家たちがいる。

とくに面白かったのは、栗林隆さんの『ヴァルト・アウス・ヴァルト(林による林)』(14)だ。美術館の一室が和紙によってはりめぐらされていて、私たちはその空間を屈んで歩かなければならない。ところどころに穴が開いていて、首だけ出して覗くと和紙でつくられた白い木々(林)があらわれる。人工による「自然」を現出させて、札幌芸術の森の美術館の林(もしくはあらゆる自然)と対比させる試みとみた。

また、樹木の切り株と木々の葉だけを映しだす平川祐樹さんの映像インスタレーションも斬新だった。画面下に切り株、頭上に木々の葉が投影され、あいだの幹がない仕組みとなっている。見る者は、あいだの樹木を想像せずにはいられないのである。

写真家の松江泰治さんによる空撮の写真も面白かった。また別の自然と風景を見せてくれる。露口啓二さんとは全く別の方法で自然をとらえる試みに驚いた。

旧有島武郎邸に、ひっそりと、りん、りんと鳴る《 鈴》(13)がある。実は作品のガラスドーム内に放射線を感知するセンサーが仕掛けてある。自然や人口の放射線を感知して鳴るのだ。鈴は邪気を払う意味があるという(写真9)。

じつは《 鈴》を制作した三原総一郎さんは福島の浪江町にやってきている。四方さんに紹介してもらった。私はアテンド役となり彼を浪江町へ案内した。福島第一原子力発電所が見える場に到着すると彼は簡易の《 鈴》を取りだして鳴らした。彼は浪江町から離れると、東北各地の「被災地」を見てまわろうと車で転々としたという。これからどのような作品を生み出していくのか、期待は大きい。

写真9、三原総一郎《 鈴》 


チ・カ・ホ特別展示「センシング・ストリームズ」

大通駅から少し歩くとチ・カ・ホ(札幌駅前通地下歩行空間)はある。インフォメーション・センターには関連グッズが充実している。場所に迷ったらここへ来るといい。

目をひくのは菅野創/yang02さんの作品だ。チ・カ・ホの各所にセンサーを設置して、朝から晩まで人の行き交う様子をリアルタイムで計測しているという。センサーはそれを感知して水性ペンでチ・カ・ホへ設置された紙にドローイングしている。一種の機械(モジュール)仕掛けのライブペインティングである。都市の人々と、美術の関係を考えさせられる展示だ。

チ・カ・ホには山川冬樹さんのカヤックが置かれている。「リバー・ラン・プラクティス 石狩湾から札幌駅前地下歩行空間へ遡上する」試みだ。札幌のチ・カ・ホはメムという水脈がある。石狩湾から、かつて水脈のあったチ・カ・ホまで、カメラを据えリアルタイム中継で遡上していく、かつてない試みがなされていた。

そのカヤックの隣に毛利悠子さんの《サーカスの地中》が展示されている。こちらもセンサーが反応して、小さな毛ばたきがぴくり、ぴくりと動き、また起き上がる仕組みとなっている。日常的なものから面白いアートを考えるなと、驚いた。(写真10)

写真10、毛利悠子《サーカスの地中》

さて、「札幌国際芸術祭2014」の見どころはまだまだある。今回は紹介しきれないアーティストたちも多かった。さらに、私が参加したような「連携事業」をふくめるとアーティストたちの数は計り知れない。だが、一度でも展示会場へ足を運んでみれば、必ずいい作品に出合えるはずだ。札幌でよく地下鉄をつかう人は、展示も身近にある。そんな方は是非足を止めて見てほしい。そして札幌市資料館まで歩いてみるのもいい。居心地のいい空間が待っているに違いない。もちろん「札幌国際芸術祭2014」を目的にやって来た方も、からなずいい作品と出会えるはずだ。

■札幌国際芸術祭2014 「都市と自然」
開催中 9月28日まで

公式サイト:http://www.sapporo-internationalartfestival.jp

【執筆者プロフィール】

岩崎孝正 Takamasa Iwasaki

1985年福島県生まれ。新作のドキュメンタリーを撮影中です。