【Report】私と札幌国際芸術祭2014 自作『村に住む人々』上映&鑑賞体験記 text 岩崎孝正

会場:モエレ沼公園

北海道立近代美術館

北海道立近代美術館は、不織布で全面赤のフロッタージュされた岡部昌生さんの作品をはじめとして、スボード・グプタさん、アンゼルム・キーファーさん、畠山直哉さんの写真などが展示されている。

岡部昌生さんはCAI現代芸術研究所の「北海道/福島/徳島」+「福島の光景」のトークを聞きにきていた。9月13日(土)に札幌市資料館で「札幌で語る〈近代〉」という、岡部さんが語るフロッタージュプロジェクトがある。岡部さんは福島各地の石碑や、防波堤などをフロッタージュした。講師は港千尋さん、菅啓次郎さん、岡部昌生さん、ゲストは佐藤友哉さんである。札幌在住の方、またはそうでない方も、是非とも足を運んでいただきたい催しだ(9月6日にも、北海道立近代美術館講堂で岡部昌生さん、畠山直哉さん、聞き手・港千尋さん、司会は札幌国際芸術祭のアソシエイト・キュレーター飯田志保子さんの関連トークがある)。

インドの作家であるスボード・グプタさんの作品は、単なる日用品の集積(皿、鍋など)かと思いきや、遠くから見るとキノコ雲に見える。別冊「Switch」のキャプションによれば「国内の急速な近代化や都市化に伴う消費活動などをテーマとした作品」らしい。インドふくめ東南アジアの経済状況に思いを馳せる、いい機会を得た。

アンゼルム・キーファーさんの作品は、つくる過程にカメラが密着した『あなたの都市の上に草は生える』というドキュメンタリーがある。未見だが今回DVDがチ・カ・ホのインフォメーション・センターや会場の各地で販売されている。興味のある方は是非手にとって欲しい一作だ。

石炭石鉱山の発破の瞬間をフィルムカメラでとらえた『BLAST』で有名な畠山直哉さんは、今回は自身の故郷である陸前高田の被災地の写真ではなく2000年代の写真を展示していた。ドイツとフランスの炭鉱跡らしい。こんどはぜひ陸前高田の写真を見たい、と個人的に思った。

また中谷宇吉郎さんの人工の雪の結晶が写真で展示されていた。中谷さん は北海道大学でも研究しており、北海道大学総合博物館には、博士の研究室を再現した部屋もある。雪の研究者で有名な方だ。滞在期間中の札幌は真夏日が続いたが、展示を見て少しだけ涼んだ気がした。

 

モエレ沼公園

モエレ沼公園までバスで向かった。札幌の都市部から少し離れた場所にモエレ沼はある。

美術館内では、札幌をはじめ国内外の樹木にセンサーを設置して音(生体電位のデータ)を聞く試みがなされている。坂本龍一+YCAM InterLab「フォレスト・シンフォニー in モエレ沼」 supported by LOUIS VUITTONだ(写真5)。モエレ沼にはチ・カ・ホの「センシング・ストリームズ」展の一部でありながら坂本龍一+真鍋大度「センシング・ストリームズ―不可視、不可聴」も展示されている。(写真6)

吊るされたスピーカーからひびく音楽は、われわれの感覚をあらたに呼びおこす。樹木の生体電位のデータ音は、あらゆる場所に音楽があることを教えてくれる。たとえば、これまで聞いていた街の雑音が、まるで別の音に聞こえることもあり得るわけだ。音楽はあらたな知覚を起動させるスイッチを押してくれる。私にとって音楽は新しい言葉の宝庫だ。

モエレ沼は「フォレスト・シンフォニー in モエレ沼」の「特別展示枠」に竹村真一さんの「触れる地球」がある。また常設展ではあるが、彫刻家であるイサム・ノグチの展示がある。モエレ沼公園はイサム・ノグチが設計しているという。彼の自然にたいする貢献を、展示を見て恥ずかしながらはじめて知った。

写真5 坂本龍一+YCAM InterLab「フォレスト・シンフォニー in モエレ沼」 supported by LOUIS VUITTON

写真6 センシング・ストリームズ—不可視、不可聴

 

500m美術館企画展示「北海道のアーティストが表現する「都市と自然」―「時の座標軸」―」

速足で歩いてしまうとすぐ500mは過ぎてしまう。駅の地下をたんに通り過ぎることも出来る。だが、駅の地下歩道にならんでいる作品にふと目をとめてみると、美術のより奥深い世界を知ることが出来る。札幌の中心部・大通の地下街にある500m美術館は、速足で通り過ぎるにはもったいない展示が盛りだくさんだ(写真7)。

展示は地元である北海道出身の作家がほとんどだ。なかでも面白かったのは、藤木正則さんのパフォーマンスである『レッドテープ』(92)だ。バスの車内にいる人々から、公園にいる人、また街中にある電柱を、赤いテープでぐるぐる巻きにしてしまう試みだ。思わず「ああ。そんなことをしてはいけない」と感じてしまうことを(平気で)してしまう。驚きとともに常識という概念が覆された。

また、模型の中を行ったり来たりする小型カメラをつかい、プロジェクターでその模型の作品内を投影する、伊藤隆介さんのインスタレーションが面白かった。はじめ投影された映像しか見ていないと、それが模型内の小型カメラによるものとはわからない。たんに投影されている映像として見てしまう。じっくり模型に目を凝らすと、なかで小型カメラが動いているのがわかる。作品はどうやら札幌の象徴的な場を模型化しているらしい。何から着想得たのかわからないが楽しい仕組みだった。

宮永亮さんの波をあつかった映像作品『WAVY』や、神谷泰史さんの音をあつかったインスタレーション、また北海道の道路のヘコミを模型化する谷口顕一郎さんの作品も刺激的だった。他にも素晴らしい作品が並んでいるので、是非足を止めて見ていただきたい。

写真7 札幌大通地下ギャラリー 500m美術館

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