【Report】私と札幌国際芸術祭2014 自作『村に住む人々』上映&鑑賞体験記 text 岩崎孝正

会場:札幌芸術の森美術館

札幌初の国際芸術祭である「札幌国際芸術祭2014」を見てきた。というのも、私の映像作品『村に住む人々』(14)が、連携事業「自然史――北海道/福島/徳島」+「福島の光景」展で上映されるという、初の機会を得たのである(私の映像作品である「福島の光景」は、CAI現代美術研究所で7月19日~8月5日まで展示)。チ・カ・ホ特別展示「センシング・ストリームズ」の出展作家である露口啓二さん以下、有志のメンバーの協力のもと実現した。なによりうれしいことであった。

また、芸術祭に出品しているアーティストたちの作品を見てまわろうと考えた。私は札幌に一週間ほど滞在した。ここに書くのは体験記である。アートに無知を承知で書かせてもらう。上映会の様子から、上映後のクロストーク、札幌国際芸術祭の見どころなどを少しでも伝えられればと思う。



CAI現代芸術研究所にて
「自然史――北海道/福島/徳島」+「福島の光景」展と『村に住む人々』(14)の上映会

さきにも書いたが、7月30日、札幌国際芸術祭2014の連携事業「自然史―北海道/福島/徳島」+「福島の光景」展で上映会を開いてもらった。映像作品の題は『村に住む人々』(14)だ。3月11日の津波により激災地区となった福島県相馬市磯部に住んでいた父親、母親、親しい友人たちを追うドキュメンタリーだ。磯部は私の故郷で、そこで18歳まで育った。はじめてビデオカメラをあつかう私が、名取洋之助賞写真家の山本剛士くんとともに取材をするところから物語ははじまる(山本くんとは古い友人である。彼の提案で3・11後の取材を決心した)。

私は「被災地」となった村を映像で記録をしていた。はじめはドキュメンタリーにする気など無く、あくまで記録として撮影をしていたのだが、数年たって映像が貴重になると思い作品化した。このような上映会につながったのは幸運であり、また何か縁があったのだろう。何よりも露口さんがいなければ、また露口さんを紹介していただいたキュレーターの四方幸子さんがいなければ上映会は実現しなかった。

平日の午後2時からにもかかわらず、上映会はお客さんが集まり盛況であった。カンパも集まった(今後の福島取材に役立てることを約束します)。上映後は質問も飛びかった。見ていただいた札幌のみなに感謝をしたい。

その後は露口啓二さん、写真批評家倉石信乃さん、札幌国際芸術祭のアソシエイト・キュレーター四方幸子さん、それと私のクロストークが行なわれた(写真1)。私は四方さんから「映像作家」「新進の映像アーティスト」と紹介され、驚いた。映像を撮っていながら、今まで私は「映像作家」を名乗っていなかった。それには理由がある。映像作家であり映画監督の松本俊夫監督が「今の若手は映像を撮るとすぐ『映像作家』と名乗るが、それは甘い。作家になるには研鑽を重ねなければならない」というようなことを語っていた。それを聞いて、私は「映像作家」を名乗れなかった。だが、肩書きは必要だし、これからも映像を撮っていくので「映像作家」と今回は名乗らせてもらおう(以前、私へむかって「(肩書きは)映像作家でいいじゃん」と言った映画批評家の三浦哲哉さんの言葉もあるし)。肩書きはあくまで肩書きだし、気にする必要はないだろう。

さて、クロストークは四方さんからの作家紹介ではじまり、震災後の福島を中心としながら、露口さんが継続している「自然史~」シリーズに話題がうつる。また倉石さんは美術家・映画監督の藤井光さんと、美術家・美術評論家の黒瀬陽平さんのSNS上の論争の話題に触れ、ディディ=ユベルマンとクローズ・ランズマンをめぐる論争、つまりユダヤ人虐殺という一種の最悪のディザスターと、福島の原子力災害、津波災害における表象不可能性をどう考えるのか、という問いを露口さんと私へ投げかけた(とても難しい質問であった)。

有意義な時間だった。上映会もトークも初であったが、わりと緊張しなかったのが不思議だった。札幌のみなのおかげに違いない。

写真1『村に住む人々』上映後のトークの様子。左から四方幸子さん、露口啓二さん、私、倉石信乃さん

 

札幌市資料館

翌日は札幌市資料館へ足をはこんだ。

「コロガル公園inネイチャー supported by札幌丸井三越」(写真2)、「都市空間のサウンドコンペティション」の優秀作の展示、「とくいの銀行 札幌」(写真3)、「サッポロ・エホン・カイギ」(写真4)などが、資料館の内外で催されている。

写真2「コロガル公園inネイチャー supported by札幌丸井三越」

外は「コロガル~」で遊ぶ子どもたちの声がひびいて、中ではサウンドコンペティションの優秀作品が音を奏でる。また資料館内には、札幌市資料館内をリノベーションするアイデアコンペティション優秀アイデア作品展もあった。狭い視野で世界を見がちな自分を、諌めるような空間があった。知見がひろがるのを感じた。建築家の思考はとくに被災地で役立つのではなかろうかと勝手に考えた。

なかでも「コロガル~」は、 2012年にYCAM(山口国際情報芸術センター)で開発され、今回は、北海道在の建築家・五十嵐淳とYCAM InterLabのコラボとして初めて屋外で制作されている。ふつうの美術館内で行なわれるアートイベントでは、このような外での試みが難しいらしい。美術館外に作品をつくれるのは、さまざまな関係機関の協力のおかげだろう。

「コロガル~」のまわりには椅子が置かれていて、親御さんたちが子どもたちをどのように遊んでいるか眺められる仕組みとなっていた。札幌市資料館はとても癒される空間となっている。カフェもあり、いきとどいた配慮がすばらしい。

写真3「とくいの銀行 札幌」

写真4「サッポロ・エホン・カイギ」

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