【Interview】農家の人々の気持ちに寄り添える映画作りを目指して——『天に栄える村』原村政樹監督インタビュー 

原村正樹監督

サクセス・ストーリーでは終わらない

——天栄米は震災後も国際コンクールで金賞を受賞するなどして、現在でも米作りは続いています。天栄村の、あるいは福島の農業の現状については、どのようにお考えですか。

原村 これで良かったね、なんて簡単には言えません。この原発事故というのは、現実はそんな生易しいものではないのです。

僕らはたまたま原発事故の影響を受けた天栄村の人を震災前から撮っていて、気持ちとしては脱原発的な考えですが、そのことを正面切ってこの映画に入れることはしませんでした。僕は運動家ではないし、ナレーションで煽るようなことは一切入れていません。ある農家の方がたったひと言、映画の中で「原発に怒りを覚えますね」と言ってくださった。そこで救われているんです。

——福島の人が「放射能に負けずに頑張っている」ことを描くことで、原発推進の人たちや、利用されてしまうのではないか、という危惧はありましたか?

原村 「プロメテウスの罠」という本で小山良太さん(福島大学)が書いていたけれども、福島の人たちの、自分たちは安全だ、大丈夫なんだということを知ってもらいたい気持ちが、逆に原発を推進する人たちと共鳴してしまう部分がある。これは確かにそうなんです。そこをどのように描いたらよいかは、この映画を作る上で、ひとつの大きなテーマでした。

僕の中でも葛藤がありました。東電や国に抗議をしないで、黙々と自分たちの土地で安全な作物を作っていることを伝えるのは、一歩間違えれば「原発は安全なんだ」という目線になり得る。そのようにだけは絶対にしたくない、という思いがありました。でも、本当いうと怖かったです。

例えば、被災した人たちや、避難している人たちのやるせない気持ちを描く方法もありますよね。そちらを描けば、原発をやめてほしい、というメッセージは出しやすい。それも福島の現実です。しかし、天栄村で米作りを続けているのもまた、福島のひとつの現実です。僕はそちらの現実を描きながら、ゼオライトだのカリウムだの、農家にそこまで苦労をさせるのか、という目線を少しでも感じてくれるならば、それでいいと思っています。

——『天に栄える村』は、ジャーナリズムとは違った視点で震災後の福島を描いた記録映画だ、という見方もできると思います。そのような視点について、原村監督ご自身はどのようにお考えですか。

原村 今の日本では、都会の人たちの多くは、お金を出せば食べ物が食べられる、と思っています。でも、そうではない。工場だったら生産できるけど、農家の人たちは、生き物を相手に、自然と対峙しながらお米を作っている。そのような暮らしを代々続けてきて、原発事故でこの土地をダメにしたくない、未来に引き継ぎたい思いがあるわけです。

その思いを改めて認識するきっかけが、たまたま原発事故だった。それは、彼らが耕作放棄田を再び耕そうとする気持ちと同じことなんです。そのような、土に生きる人たちの百姓魂というか、気持ちを伝えるのが僕の役目だと考えています。

もうひとつ、僕の中で百姓魂を伝えたいというのは別の意味があって、単純に「こんなひどい目にあって」という嘆きとか怒りとかを伝える映画では終わらせたくなかったのです。怒りながらも、彼らはどのような日常を生きるのか、あるいはどのような生き方をしているのか。そこが見たくて、僕は吉成さんたちを撮っていたのだと思います。原発事故に対して、というよりは、暮らしの試行錯誤をしている姿に対して興味を持ったんですね。

僕は2011年5月の時点で、テレビ番組(※1)だけではなくて、映画にもしようと決断をしました。そもそも世界で初めてこのような湿潤地帯で放射能汚染が広がって、それでも彼らがお米を作ることは、人類史上始まって以来のことなんです。そこに記録者として立ち会って、歴史的な資料として未来に残さなくては、という思いがありました。実は、これが一番の出発点です。

2011年の8月に、吉成さんが東京の若いお母さんたちのところに行って講演するのを撮影した時、話を聞いた人たちが「福島の人たちがこれだけがんばっているのだから、私たちも勇気づけられて、頑張らなきゃいけない気持ちになった」と言ったんです。それを聞いた時に、あ、そうだなって思いました。僕自身はガムシャラに撮影してきて、勇気づけられたかどうかは分からないけれども、天栄村の人たちはすごいなって純粋に思いました。映画って、やっぱり感動だと思うんですよ。テレビのように、どんどんカットが変わってストーリーで追いかけていくよりも、何ともない、説明のない描写の中に感じるものってあるじゃないですか。そういう意味では、だいぶナレーションは減らしたとは思うけど、まだ多いかな……そのような映画を目指したかったように思います。

※1 原村監督は同じ天栄村の人々を主人公に、NHK・ETV特集「原発被害に立ち向かうコメ農家」(2011年12月4日放送)も制作している。

【映画情報】

『天に栄える村』
(2013年/日本/カラー/106分)

監督 編集:原村政樹  語り:余 貴美子  
撮影:中井正義 今野聖輝 藤江潔 木村光男
音声:山谷明彦 西島房宏 今野聖輝 細矢知里
助監督:細矢知里
編集協力:四宮鉄男
映像提供:NHK
撮影協力 天栄米栽培研究会
企画製作:桜映画社

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『天に栄える村』公式サイト http://www.sakuraeiga.com/tensaka/

【監督プロフィール】

原村政樹(はらむら まさき)
1957年千葉県出身。上智大学卒業後、フリーの助監督として記録映画、テレビ番組製作に携わる。1985年桜映画社入社。『海女のリャンさん』(2004年)、『いのち耕す人々』(2006年)、『里山っ子たち』(2008年)、NHK・ETV特集『原発事故に立ち向かうコメ農家』(2011年)、 NHK・ Eテレ『日本人は何をめざしてきたのか 第8回山形・高畠 日本一の米作りをめざして』、BSプレミアム『新日本風土記』(2014年)ほか。