しかし、カウンタックにもいろいろあるのだった
さて、もう一つの謎は、発売年。ニッコーは現在解散しているので、問い合わせることができない。
これがややこしかった。以下しばらく、ややこしいことをママ書きますので、斜め読みしてください。
スーパーカー・ブームが巻き起こったのは、1970年代半ばから後半にかけてだ。
まずはその頃にラジオコントロール模型が発売され、関連レコードも出たと考えるのが自然。しかし、どうも少し後、82年以降と考えたほうがいいのか、と思われてきた。表面には「LP500」とあるのに裏面では「LP500S」となっている。カウンタックLP500の市販タイプであるLP500Sの発売は、82年だからだ。本物の登場する前に、わざわざSを付け足すとは考えにくい。
それに男の声を演じているのは、実は内海賢二だ。テレビアニメ草創期から活躍した声優レジェンドのひとりである内海さんだが、広くおなじみの存在となった則巻センベエ役の『Dr.スランプ アラレちゃん』の放送が始まったのは、81年からなので。僕の仕事の経験からすると、他業種メーカーの方は、バチッと代表作のある演者の起用を好むものだ。
と、一旦は納得したところで、もう少しカウンタックの勉強をしようと、13年にリバプールというビデオメーカーから出たDVD『ランボルギーニ・カウンタック レッド&ブラック』を見た。レッドとブラック、2台の走行をたっぷり撮影した約1時間のソフトで、視聴者に疑似ドライブ体験してもらうコンセプトは、玩具レコードと同じだ。
レッドは、74年に誕生した最初の市販モデル、LP400をカナダの石油王ウォルター・ウルフが特注した稀少タイプであるウォルター・ウルフ・スペシャル。
ブラックは、なんと世界に1台しかないというLP500R。ブラックに白いラインのカラーリングが特長的……あれ、それじゃあピクチャーレコードのカウンタックと同じではないの?
しかもウルフ・スペシャルは、スーパーカー・ブームの頃、LP500Sと呼ばれていたらしい。え?……え?
どうも、音楽レコードの常識(ジャケット写真と演奏者は同じ)で捉えたのが、混乱のもとだったみたい。
ピクチャーレコードの黒いカウンタックは、LP500とありつつ、実際はスーパーカーブームの時に日本中をイベントでツアーしたLP500R。
裏面に車両データが記載され、内海さんが語っているのは、当時はLP500Sと呼ばれていた、LP400改のウルフ・スペシャル。
こんな風に別物だと考えれば、ようやく辻褄は合ってくるのだ。玩具レコード、がきんちょ相手に手を抜けるところは抜いたな! 約40年後に粗探しされる運命にあるとは、思ってもいなかったろう。
ここまでが、クルマに気がいかない人間の限界。もうちょいで「魂の限界」と言えるまでカウンタックの写真を色々と見比べてみたのだが、みんな同じに見える。ザクとシャア専用ザクほどの違いも発見できなかった。ご専門の方、上記の推論が違うようであれば、ぜひご教示ください……。
本物はかっこよく、ガソリンスタンドにいる姿はやや物哀しく
今回の文章をある程度まとめたつい先日。六本木のガソリンスタンドに、本物のカウンタックが停まっているのを見つけた。
なんてタイミングが良い! シルバーのボディをしげしげと眺め、こうして間近で見ると幅が広くてやたらと車高が低くて、ホント、かっこよさとヘンさが同居してる車だよなあ……と感じ入った。ヘンさに恒常性があるのだ。流行と関係ない。だから、いつまでも未来的。後ろのプレートまで見たので、これは85年からのモデル、5000QVと分かりました。
しかし、持ち主も、ガソリンスタンドの店員もいなかったのに、写真は撮らなかった。ボンネットに置きっぱなしの化学ぞうきんや、ボディのあちこちに残った洗剤の白い泡が、(今はちょっと……)と訴えていた。
フレデリック・ワイズマンのドキュメンタリーなんかで、モデルやダンサーがオールヌードで楽屋にいる場面があっても、まるでエロティックには見えない。あの感じに近い。
お化粧してる最中を覗いてしまい、かえってゴメンナサイ。
カウンタック、あなたはやはり、人前で走り異彩を放ってなんぼだ。日本の公道、しかも東京の狭いアスファルトを駆るあなたの姿は、率直に言ってそんなにはイケてない。スーパーモデルが吉野家のカウンターでサラダを食べているぐらい浮いている。かえって滑稽に見えてしまうから、僕は目を逸らすことが多かった。
でも、それでも、あなたは今日も、電信柱だらけの灰色の道を往く。
今度あなたを見つけた時は、僕は立ち止まり、じっと耳を澄まそう。ブワオォォウオゥゥウゥウワオーと唸るエンジン音のなかに、私のほうが正しい、なぜなら美しいからだ、と胸を張るあなたのプライドを感じよう。
※盤情報
「ランボルギーニカウンタックLP500S」
発売年不明/価格不明
ニッコー
【ごあんない】
2/13 『DIG!聴くメンタリー』が初のイベント化!
13日の金曜日、昭和の歴史的瞬間の音源、あの偉人の声etc.がレコード墓場から甦る!
【News】2/13(金) 「ワカキコースケのレコード墓場~みんなで聴こう!昭和のドキュメンタリー~」
[出演]ワカキコースケ(若木康輔/ライター)
[ゲスト]岡映里(作家『境界の町で』)
清水浩之(短篇映画研究家・映画祭コーディネーター)
[日時]2015年2月13日(金) 開場・19:00 開始・19:30
(約2時間を予定)
[会場]新宿CafeLiveWire
(アクセス・料金システムは下記)
(詳しくはこちら)
【執筆者プロフィール】
若木康輔 わかき・こうすけ
1968年北海道生まれ。本業はフリーランスの番組・ビデオの構成作家。07年より映画ライターも兼ね、12年からneoneoに参加。
今回はエンジン音を繰り返し聞きながら、車とロックの縁についても考えました。サーフィンと同じ位ホッドロッドに乗る若衆もお客にしていたザ・ビーチ・ボーイズ。パンクの元祖MC5は、自動車工業都市デトロイトの街に響く騒音から生まれ、ソニックユースはアンプを歪ませバイクの走行音を模した。特に再発見できたのは、クラフトワーク74年の出世作『アウトバーン』。戦後ヨーロッパの建設の時代が一段落し、スーパーカーが誕生した頃。昔はバカみたいと思ってた、車の走る音をシンセで再現するアイデアには、環境雑音への明晰な批評があったのでした。
http://blog.goo.ne.jp/wakaki_1968