【連載】ワカキコースケのDIG!聴くメンタリー 第8回「ランボルギーニカウンタックLP500S」

※連載に、間があいてしまいました。書く時間をイベントの準備に当てておりまして……。そう、この連載がイベントになります! 「ワカキコースケのレコード墓場」と銘打って、2月13日、金曜日の夜に新宿Live Wireで行います。いよいよ、連載で紹介してきました聴くメンタリーの数々を、実際に耳にして頂く機会の到来です。

会場の場所や内容など、詳しくはぜひこちらのニュース記事を。
http://webneo.org/archives/28961

 

 

 

スーパーカーのエンジン音を聴いてみましょう

廃盤アナログレコードの「その他」ジャンルからドキュメンタリーを掘り起こす、「DIG!聴くメンタリー」の時間がやってまいりました。DJはワカキコースケ。みなさんを、しばしドキュメンタルな音の世界へご案内いたします。よろしくお付き合いください。

前回、LP2枚組『梵鐘』を取り上げたところ、今までの連載でいちばん感想の声を頂けた。
梵鐘は、生活の中でどなたでも耳にする機会がある。それがわざわざ市販レコードになっていたという、ストレンジな意外さ。しかし、収録されているのは鎌倉、京都、奈良などの名鐘なので、音のみをじっくり鑑賞する必然性は実はあると気付かされる。そんなところを、面白がってもらえたらしい。

気を良くして、ふだん身近にあるモノが出す音つながりで、今回は自動車の走行音レコード。
ただし『梵鐘』と同様、主役はそこいらのクルマじゃあないぞ。スーパーカーだ。「ランボルギーニカウンタックLP500S」だ。






さっそく聴いてみる。
冒頭、コツコツコツ……と靴音が響く。そして、男性のモノローグ。

「俺の車は、ランボルギーニカウンタックLP500S。さて、まずは走ってみようか」

いきなり、非常に自慢げだ。オーナーになった男が、ついに手に入れた憧れのマシンを披露してくれる設定らしい。
ご丁寧に、ドアを閉める音、キーをまわす音が続いた後、

ヂリリリィィ……
ブズゥワオオゥ……ドゥドゥドゥドゥドゥ……ブワオオオウ……ドゥルドゥルドゥルドゥル……ブワオォォウオゥゥウゥウワオー

おおう。運転免許無し、クルマ関係に全く興味いかず、道を走るトヨタとホンダの判別はおそらく生涯つかない。そんな僕ですら、この始動音がかなりゴージャスなのはすぐ理解できる。

街中で耳にするエンジン吹かし音は大体、甲高くてがさつで、嫌いだ。なぜいつまでたっても静かなエンジンが発明されないのだろうと、フシギに思ってさえいる。ところがこれは、重い低音がどっしりしていて、音楽としても高度にすら感じられる(それこそ、これがほんとのメタル・ノイズ)。そういえばF1などのレースも、テレビで見たりするぶんには、うるさいとは思わない。

男はカウンタックを走らせながら、
「生産国、イタリア。デザイン、ベルトーネ社マルチェロ・ガンディーニ。エンジン、ミッドシップマウント、水冷V型12気筒。ダブルオーバーヘッドカムシャフト、4000㏄……」
と、うっとりした口ぶりでマシンの履歴を語る(という設定によって、データがナレーションされる)。

12。聞いたことがあるぞ。ふつうの乗用車なら3~4つで済むらしいシリンダーの数が12もあるので、それだけエンジンの回転数が上がり、馬力も増す、というやつだ。
一時はどのF1マシンも搭載していたV12で公道を走る贅沢。なおかつ、デザインは(今でも)未来的・先鋭的。なるほど、これがスーパーカーか! 今頃になって基本定義が呑みこめた。



音楽とは異なる市場で売られるレコードだった

内容の紹介自体は、まあ、これでほぼ済んでしまった。後半、男は仲間と合流し、貸し切ったサーキットでフェラーリやポルシェなどと一緒に走る(という設定で、デモンストレーション走行の録音になる)。ゴージャスなエンジン音が複数になる。あいにく聞き分けがつかない。約6分ほどで、全編が終わる。

僕の興味はやはり、そもそもこのレコードは一体どういう成り立ちなんだ? クルマが走る音が市販の商品になるってどういうことだ? に向けられる。

シングル盤と同じサイズで、
33回転。写真を盤の表面に刷り込んだピクチャーディスクは、なかなかカッコイイ。ただ、マテリアルとしては正味、大変に安い。
ビニールコーティングして溝を刻んだ盤は片面だけで、裏はなんと単なる厚紙なのだ。レコード会社が作ったものとは、とても思えん。パッケージのないハダカの状態を入手したので、発売年も不明。







しばらく首を傾げてから、アッと了解した。企画制作とクレジットされている株式会社ニッコーは、ラジオコントロール模型メーカーのニッコーのことだった。
僕の実家は玩具店なので、こういう関連玩具があったことを覚えている。例えば、女児向けのぬいぐるみシリーズの場合、キャラクターがみんなでピクニックに出かけるようなミニストーリーを収録したカセットテープがあったりした。

つまりこれは、自社のラジオコントロールを買ってくれる男子向けの関連玩具なのだ。うちが札幌の問屋から仕入れていたメーカーはもっぱら田宮模型だったので、ニッコーの存在を思い出すまでに時間がかかった。

そうなると、男がカウンタックを走らせる途中で
「さあ、次はキミの番だよ?」と聞き手をうながす演出も、スルスルと理解できる。
本物のマシンの音を味わった後は、さあ、いよいよお年玉か、お小遣いを溜めるかして買った自分のカウンタックを存分に走らせてくれたまえ、ってわけだ。オーナー&ドライバーなりきり気分をあげてくれる、盛り上げ用レコード。その役目はすぐにVHS、そしてDVDが取って代わったのだが。

玩具店で売られていたレコードに、連載の1回目で紹介したような雑誌の付録ソノシート。
異なる市場で流通していたブツが、音楽市場の傍流で生きていたものと一緒に買い取りに出され、今は同じ中古店の片隅で、静かに過ごす。聴くメンタリーは、なんとなーく、人生の晩年に似ている。

▼Page2 につづく