テレビ番組を映画にする、ということ
——では、編集についてもお聞きしたいと思います。1年間で、素材はどのくらい溜まったんですか?
真鍋 40分のテープで600本以上、500時間近く回っていますね。2ヶ月に1回ぐらいは、いろんなことが次から次へと起きる日があってそれを僕は「特異日」って呼んでいるんですけども、そういう日は、1日10本ぐらい回っちゃうんです。あまりに多くて、ノートにメモをつけていない日も、カメラマンだけで行ってる日もあり、僕はラッシュを全部は観られなかったんですよ。11月ぐらいまではけっこう濃厚に見ているんですけど、あとは時間が足りない、という話になってここと、こことを観ようっていう感じです。
編集マンは全部を見ているんで、カメラマンも含めて「何が面白かった?」「何が心に残っている」という話をみんなに出してもらって、俺はこれがよかった、僕がこれがよかった、とわいわい言いながらシーンを絞っていきました。映っている子供たちの家庭の事情などもあるので、学校と相談したりもしまして、編集も「みんなの学校」でした(笑)。
——真鍋さん的に、映画にする時にここは見せたい、というポイントはありましたか?
真鍋 3回(テレビ版2回と映画)も編集している間に僕の思いも変わっていったので、何がうまくいったのかは分からないところもあるんですが、最初の47分版の時は、とにかく出来事を詰めこんで、コンセプトとしては、校長がこんな思いを持ってやっていることが地域に広がって一つの形になった、というふうに描きました。2回目に75分版を作った時は、何故セイちゃんやユヅキが学校に行けるようになったのかを、周りの子どもとの関係の中で説明するようなつもりで作ったんです。今回の映画では、そのあたりのストーリーをもう一回ブラッシュアップして、よりよく伝わるようにしようと考えて、メッセージを込めました。「地域も変わる、そこで社会も変わる!」みたいな。映画化の時から参加してくださった秦岳志さん(編集マン。佐藤真『OUT OF PLACE』などを編集)が、いい予告編を作って下さったんですけど、「最後はそれを社会に拡げていこう!」みたいなことが、映画として新たに出したコンセプトですね。
——映画にする、という作業は、テレビ番組の編集とは違いましたか?
真鍋 一般論になるかどうか分からないですけど、僕は映画ということで、余韻を持たせるようなイメージで取り組んだんですよ、尺を長くして観た人が考える間を作っておこう、とか。そうしたら秦さんに、僕が映画的にこういうもの、と思ったシーンはほとんど切られてしまいました(笑)。「もっと話、話で繋いでいってもいいんじゃないですか?」って。ロングショット一つでもちょっと長めにとか、反芻する時間的余裕が映画には必要だとか、勝手に思い込んでいたことを、あまりそこは考えなくていいですよ、とか言われて。テンポとしては、元の47分に近いものになりました。ショットを長くしていた理由は自分なりには説明もできるつもりが、元々必要なかったと…。「映画ってそんなもんなんですか!」という驚きがありました。
全体の尺を長くすることで、伝える事が可能になったこともありました。修学旅行のシーンは最初のテレビ版では無かったんですけど、尺が伸びた事で、彼だけでは描くのが難しいマアちゃんを、クラス全員とのかかわりでみせる事ができたりね。
——はじめにこういった問題を提示したい、という真鍋さんなりの意識が、映画を作るうちに変わっていった部分はありましたか?
真鍋 それこそ最初は、橋下知事の教育改革には断固NO!みたいな、左側から飛んでくるようなイメージで入った部分がありましたし、僕自身は、教育基本法が変わる時も、ホンマにこれでいいのか?みたいな特集をニュースで作ってきたんですが、そういうイデオロギー的な要素は、取材をしている間に出す必要が無くなったなと思いました。イデオロギーを持ち出さなくても、十分に何かが伝わる世界が撮れている、と思えたので。
どうやってお客さんに広く見てもらうのかということは、1回目の放送の時からずっと意識していました。僕自身が番組を「障害者の子が頑張っている」とかいうラベルを貼って観られるのがイヤだったのもあるのですが、要は、みんなそれぞれ困っていることがあって、困っている自分なりの理由を持っている、ということを普遍的に感じてもらいたかったんです。
——映画にすることで、全国に大空小学校のことを伝えることが可能となりました。それについて、何か思う事はありますか。
真鍋 大空小学校では、「この学校に障害という言葉はありません、みんながそれぞれ困っている事があるだけです」と言われます。障害という言葉は、「セイちゃんは落ち着いて座っていられないことを今悩んでいる」というふうに置き換えられていくんです。そうすると「この子の障害、何やったっけ?」といった見方に意味が無いことが分かってくる。あとは、どうすべきがいいのかを考えるだけになるので、その結果、大空小学校はいろんな人が行きやすい学校になっていますよね。セイちゃんやユヅキは前の学校には全然行けなかったのに、彼らは今、毎日機嫌良く学校に来ている。毎日機嫌良くいられる場所があることが、どれだけ大変で大事なことか。そういう場所を地域や社会が支えていくものだ、という事も含めて、社会に向かって問いたいんです
映画には、大空の成績がいいという話は出しませんでしたが、それには理由があります。なんで成績がいいのかがはっきりしないこともありますが、成績を高めるためという理由で、大空の教育を他が真似することを避けてもらうためです。それではうまくいかない気がするのです。そもそも英語を小学校1年生からやらせるとか、今教育改革で話し合われている方向が、果たして良い社会をつくることに貢献するのか。それよりも、こんな学校が増えることの方がよっぽどハッピーじゃないのでしょうかって、問いたいんです。少なくとも僕にとってはハッピーだと信じられる出会いでした。大空小学校のやり方は、そのハッピーに加えて、なんでかよくわからないけど成績もいいんだって!って、そのくらいこっちが言っておいて、あとは自分で考えてねって感じです。
テレビマンとしていえば、本当はゴールデンタイムで全国放送をさせてもらえれば、映画を作るよりも早く、その事が伝えられると思うんですけどね。残念ながら今のテレビはなかなかそのようにはならない。今回は映画という形で、地道であっても力強くその思いを伝えることにしてみました。
【映画情報】
『みんなの学校』
(2014年/日本/106分/BD・DCP)
監督:真鍋俊永 ナレーション:豊田康雄 企画:迫川緑
プロデューサー:中尾雅彦、加藤康治、兼井孝之
撮影:大窪秋弘 撮影助手:堀貴人 編集:北山晃
編集協力:秦岳志 整音:中嶋泰成 音響効果:萩原隆之
題字:谷篤史 製作:関西テレビ放送 配給:東風
公式サイトhttp://minna-movie.com
公開中:渋谷 ユーロスペース
http://www.eurospace.co.jp/index.html
3月7日(土)より公開:大阪 第七藝術劇場
http://www.nanagei.com/
3月14日(土)より公開:愛知 名古屋シネマテーク
http://cineaste.jp/
3月21日(土)より公開:横浜 シネマ・ジャック&ベティ
http://www.jackandbetty.net/
【監督プロフィール】
真鍋俊永 (まなべ・としなが)
1969年徳島県生まれ。1991年関西テレビ入社。14年間、報道カメラマンとして阪神大震災などのニュース取材やドキュメンタリー撮影を担当。2005年報道部へ移り、大阪府政キャップ、整理デスクなどを担当。撮影した主な作品『人生はこれからだ~93歳の高校生』(1996)、『透明な祝祭~社会学者・宮台真司と歩く思春期の闇』(1997)、『神戸六甲に吹く風は~阪神大震災から5年』(2000)、『パンダと異人館とホームレス』(2002)、『遥かなるアテネ 五輪選考に挑んだ彼女たちの闘い』(2004)など。『みんなの学校』はテレビドキュメンタリーとしても映画としても初演出の作品。