「右も、左も、中もない」
——ノブエさんに葛藤はありますか? こうでいいかなとか、あいつらは動いてくんねえなとか……。わたしにとっては映画ではノブエさんの葛藤は見えず、映画評の最後に、『相互扶助論』と賢治をあげ、「美しい魂をみた」と率直に受けとめました。
ノブエ 葛藤はないですよね。人間、4年も経つと忘れていくし、仕方ないことではあるんですけど。現実は変わらず、チェルノブイリの例からしても、何年後に症状が出るかわからず、がんだけが被害じゃないし。この4年間で勉強しながら、みんな気にしているけど、表に出していえないんですよね。「放射能がこわいから食べ物に注意している」とか、「西日本から野菜を取り寄せてる」とか。口にすると、「まだそんなこといってるの」ってなっちゃう。線量計を持参して福島に行くと、やっぱり値が高いんですよね。ここで生活するのは厳しいよなと。でも、「ここで生きる」と決めた人は、注意しながらもそこで生活します。そういうことに対し、オープンでないといけないから、ブレはないし、葛藤もないんです。いろいろやっていくなかでは悩みなど、たくさん出てきますが。
——なるほど、そうですよね。ノブエさんにお会いする前は、高校生くらいからの運動歴の長いおじさんかな、と考えていました。作品で、ご家族関係など少々触れられていましたが。お答えいただける範囲で、お聞きしたいのです。
ノブエ 運動歴は、そうではないですね。右も、左も、中もないとおもっていて。幼少期としては、母親が途中で(離婚により)いなくなり、父親も20歳過ぎに亡くなっていて。高校までは尾道から2時間くらいの県北の田舎にいて。小学校から高校まで、新聞・牛乳配達をしていました。小遣い稼ぎというか、親に学費や給食費などのお金を出してもらったおぼえがなくって。小学校時代の記憶まではありませんが、中学校になって部活でユニフォーム代などが必要な場合でも、修学旅行でも、お金を出してもらった記憶はありません。大学受験の費用なども、自分で捻出しました。
——小学校からですか! また、工場でけがをされたエピソードも作品に登場します。
ノブエ 労災のおりないバイトで、労災を出すと保険料の会社負担があがっちゃうから。正社員でなく、時給はいいバイト。原発事故の除染作業と同じです。
——では、そんなノブエさんを幼少期から支えてきた1つが音楽なのかなと。
ノブエ いや、そんなことない。音楽への関心が深くなったのは、CDショップをはじめてからで。
「本当に幸せな生き方ってなにかなあって考えると……」
——すると、何かに支えられるでもなく、すっと立っていらっしゃったということですか?
ノブエ 結局、まわりの人が支えてくれてるんじゃないかとおもって。自分は動くけれど、1人じゃ当然、何もできないわけで。まわりの人が、今日もそうですけど、ボランティアの人がいろんなつながりで参加してくれてますけど。まわりの人がいるんですよね。そのときに。
——小学校のときから?
ノブエ 当時は自立してないから、まだわかんないですよね。自我にも目覚めてないし、社会のこともそんなに考えてないし。
——二階堂和美さんのコメントがあって、今度はミュージシャンがお店を救うシーンなどを拝見したときに、「ノブエさんの周囲の人たちには、一点の曇りもないな」とおもいました。
ノブエ 自分で分析したことはないからな。みんな街で仕事のなかで生きていて、子どもは遊ぶのが仕事で、お母さんは子どもを育てるのが仕事で。みんなちゃんと生きてて、さっきいったように右も左も真ん中も自分にはなくて、意見はいいあうべきで。そして、本当に幸せな生き方ってなにかなあって考えると、いろんなことに手を出していくんですよね。これ、間違いだな、と。それを気づかせてくれたのが、3.11だとおもうんですよね。
「アーティストの感性はピカイチ」
——そういえば、チケットの料金設定も特徴的ですよね。
ノブエ 3.11前のライブでも、野外や広い場所が会場の場合、親子できたら一般の方の半額以下。一般が4,000円なら、親子で2,000円。そうすれば親子がきやすいし、何千円も払っても子どもの体調や集中力によって帰らなければいけないので、定価をもらうのもあれだし。集客も多くみえるしね(笑)
——(笑)
ノブエ ルールを教えてあげれば、子どもも大人しくしなければいけないときには大人しくするし。野外なら好きにさせますけど。ステージに上って遊んでもいいよ、とか。
——「ノブエしゃん、ノブエしゃん」と慕う女の子がめちゃくちゃかわいかったですね。
ノブエ 移住してきた子どもで。子どもたちとも仲よくなるし、生活についても伝えるし。保養で短期間でも、年齢があえば。小学校3年生以上になると、難しいですけどね。来週も子どもたちがきますけど。
——最後に、映画、特にドキュメンタリー映画好きのユーザーに、お伝えになりたいことはありますか?
ノブエ 自分の映画ができたからではありませんが、ドキュメンタリーって、いいですよね! 現実をちゃんとみることができて、自己発見ができて、考えさせられることも多いし。フィクションでなく、現実ですからね。
——もっと観たい、という感じでした。
ノブエ 原発とはポスターにも書いていませんが、テーマはそうなんですよね。
——観る人は豪華なミュージシャンのラインナップがあるので、そのファンがいちばん多いかもしれませんね。このミュージシャンの人間性をファンはわかっているでしょうけれど。
ノブエ 別に、めちゃめちゃ活動しているわけではないし。ここに三宅洋平さんなどが入るとちがうんでしょうけれど。でも、みんな(なにがおかしいかについて)おもうことがあるんですよね。アーティストって、絵を描く人でも音楽でも、感受性がピカイチじゃないですか。坂本龍一さんにしても。そんなミュージシャンが、自分たちより問題などについて気づいていないはずがない。だから、そういうミュージシャンも発信しつつ、イキイキやってくれているから、自分たちももちろんCDを売り、ライブを企画するんです。ライブを観ることでそれがお客さんに伝わる。ドキュメンタリーも同じことなんじゃないかな。
——音楽や人の美しいありようというか……。
ノブエ そういうことかなあとおもいます。
——上映が盛り上がることを楽しみにしています。お忙しいところ、ありがとうございました。
▼page3 田中トシノリ監督篇 に続く