「ノブエさんのドキュメンタリーにはしたくなかった」
——先ほどノブエさんにおたずねしたら、「記録としてなんとなくカメラがまわっていて撮られている意識なく、完成直前に映画になることを知った」とおっしゃっていましたが、どのあたりから計算なのでしょうか(笑)。お2人の関係性で、このように?
田中 ええとですね、そのくだりを毎回いろんなところでいっていますが、ノブエさんはけっこう記憶が飛んでいます(笑)。僕がいわずに撮影はありえず、ずっとカメラをまわしているわけですからね。関係性の部分もあるんですけど。
——では、本当のきっかけは?
田中 僕はロンドンで3年くらい、映像製作の仕事をしていました。3.11が起きた際、そういうことをしている場合じゃないとおもって、日本に帰り、東日本から避難・移住する人の支援をしようと考えました。それで地元・尾道ですでにそのような活動をしている人ということで、ノブエさんを紹介されたんです。僕とノブエさんのおもいには近いものがあって、多くの人に知ってもらうきっかけとして、まずは記録を始めました。それで、ノブエさんを知っていくうち、ミュージシャンから慕われる音楽イベンターであることもわかってきて。それで、すごくおっきな作品になるんじゃないかと感じました。ノブエさんの芯の部分が伝われば、長い時間がかかっても、音楽と震災以降の日本や家族のありかたも伝わるんじゃないかともおもって。その時点でノブエさんに映画化の意向を伝え、ミュージシャンを紹介してもらったんです。EGO-WRAPPIN’を紹介してもらったり、ノブエさんからオーサカ=モノレールの映像をもらったりしました。
——わたしは作品を拝見し、ノブエさんが無口だからまわりのミュージシャンなどに語らせるという手法なのかと考えたのですが、いかがでしょう?
田中 そうですよね。ノブエさんて、行動で示す人なんですよね。考える前に動くし、動きながら考えて。彼の行動で示す部分を強調したかったのと、しゃべることで情報が逆に少なくなってしまうのかなと。言葉は情報を限定しますよね。受け取り手の自由度を高めたかったんです。この映画にとって、ノブエさんがどういう存在かとかキャラクターとかは重要でなく、ノブエさんにあこがれてほしくないし、ノブエさんだけが特別な存在とおもってほしくなかったんです。僕もドキュメンタリー好きですが、ノブエさんのドキュメンタリーにはしたくなかったんです。
——なるほど。でも、観て、結果的には、ノブエさんのキャラクターに惹かれはしました。インタビューを経て、彼の美しさは作品どおりと感じたんです。
田中 ありがとうございます。
「物語の力によって
『いのちを肯定する』というメッセージを伝えたい」
——ノブエさんもおっしゃっていましたが、3.11がきっかけでも、「福島」を押し出さず、「右も、左も、真ん中もない」。観た人が普通に幅広く母子の気持ちが理解できるような作品として完成されていますが、意識してされているんですか?
田中 そこをいちばん考えましたね。3.11以降、たくさんのドキュメンタリーができて。1つはそういうなかに埋もれてしまうのはよくないなとおもったんですけど、僕がつくりたいのはそういうものじゃない。反原発の軸を超えた、物語のもつ力みたいなものなんですかね。そういうものを借りたかった。
——そういう意味では、すごく物語や文化の力が表れていました。すばらしいドキュメンタリーも多くありますが、ほとんどは「アンチ」を唱えていて、観る人によっては違和感を抱くのではないかと。そのなかで、助け合いの自然な大切さが伝わるようになっているのがすごいなと。
田中 アーサー・ビナードさんの「いのちの肯定」のように、何かの賛成でも反対でもない。ただ人間として、シンプルに、まっとうに生きている。ノブエさんをとおし、「いのちを肯定する」ということが伝わればと願っています。
——最後に、ドキュメンタリーやアートシネマを愛する『neoneo』読者に、お伝えになりたいことはありますか?
田中 『neoneo』はマニアックですよね(笑)。ドキュメンタリー好きの人にとっては、この映画はちょっとイラッとするんじゃないかな。僕は、どの映画もそうですが、たたかれるときもあるわけです。「なんだ、この陳腐なつくりは」とか、「被写体にもっと寄れ」とか、技術的なこととか、海外でもいわれます。僕が好きな監督はゴダールで、あの、映画をこわした、とらわれていない感じが好きです。なので、『neoneo』読者には、いろんな感想を聞かせていただきたいですね。いちばん観てもらえるのは、ミュージシャンたちのファンだろうと考え、そのためにも、やはり「物語」を意識しました。
——「物語」の力が発揮されることを祈っています。お忙しいところ、ありがとうございました。
写真は全て2014©映画「れいこう堂」製作委員会
【映画情報】
■映画公式サイト→http://superlocalhero.com
■ neoneoレビュー
【Review/Report 】音楽で人を包む、尾道の『スーパーローカルヒーロー』text 小林蓮実
【監督プロフィール】
田中トシノリ
1981 年、広島県福山市生まれ。映画作家、福山大学非常勤講師、NPO法人iD尾道 副代表理事。イギリスへ留学しCavendish College Londonにて映像製作を学び、映画、ドラマ、CM、MV など製作。約3年間過ごした後、2011年11月に帰国し広島県尾道市に移住。長編ドキュメンタリー映画『スーパーローカルヒーロー』(2014)製作・ 監督し、第30回ワルシャワ国際映画祭(ポーランド)出品、カメラジャパンフェスティバル2014(オランダ)オフィシャルセレクションなど、国内外での 上映が続いている。