星座にギリシャ神話を当てはめたのが、現在広く伝わる物語
本番で語られる内容は、以下の通り。
〈A面 春の星座〉
[説明]北斗七星と、おおぐま座。こぐま座。こぐまのしっぽにあたる北極星
[ものがたり]月の女神に使える侍女カリストとその息子アルカスが、おおぐま・こぐまの姿になる
[説明]アルクトゥールスと、うしかい座
[説明]スピカと、おとめ座
[ものがたり] 農の女神デーメーテール。娘が黄泉の国の妃に。娘が冥界に戻らなければならない4ヶ月の間、悲しみにくれる。そのあいだが冬
[説明]星の色はなぜ違うのか。色の違いは温度の違い
[説明]からす座
[ものがたり]嘘つきのからすが、嘘つきのためアポロンの怒りを買う
[説明]しし座
〈B面 夏の星座〉
[説明]アンタレス、さそり座
[ものがたり]さそりが傲慢なオリオンを刺した功績で星空に上げられる
[説明]いて座
[ものがたり]馬人で弓の名手ケイローンがさそりを追う
[説明]夏の天の川、ガリレオの発見
[説明]夏の大三角形、アルタイル、ベガ、デネブ
[説明]はくちょう座
[ものがたり]親友の少年パエトンを探すキクヌス、白鳥の姿に変えられ星座になる
[説明]わし座
[説明]こと座
[ものがたり]アポロンの息子であり竪琴の名手オルフェウスとエウリディケとの悲恋
[説明]こと座のベガは織姫、わし座のアルタイルは彦星でもある
[ものがたり]織姫と彦星
[説明]ヘルクレス座と球状星団M13
ここでのものがたりはもっぱら、ギリシャ神話をもとにしている。
古代メソポタミアの人々が、時間や季節を知るために目印にした星のつらなりに、身近な動物や物語の人物を当てはめた。これが星座のはじまり。
やがて、その地方の文化が征服・吸収されるうちに、すでに広まっていた古代ギリシャの神話と結びつき、神話の神々を当てはめるエピソードのほうがメジャーになった。
おおまかに言うと、こういう流れらしい。神話と星座の関係は今ではもう、こうして勉強しないとどっちが先で後なのか、よく分からなくなっている。
それにつけても、人間的な感情の起伏に富んだ神々が、あれこれ騒動を起こしたすえに(もっぱら主神ゼウスによって)「夜空に上げられて星座になる」おはなしの多いことよ。
直感で書くのだが、これって、人気のある俳優やタレントが、プライヴェートの劇的なエピソードなどでいよいよ特別視され、「スター」と呼ばれていくプロセスと似ていないだろうか? ギリシャの人々が語り継ぎ、想像をたくましゅうしてきた神々を星座に当てはめる(=毎晩のように頭上に現れてもよい、それだけのスペシャルな偶像だと認める)行為は、「スターの殿堂入り」みたいなものだと考えると、僕なんかはずいぶん腑に落ちるのだ。つまり、現代のゼウスとは我々大衆のことに他ならず……いや、寄り道でした。
現実音がなくても、これも聴くメンタリー
ナレーションは、まず、星座や有名な星について宮内幸平が語り、まつわるものがたりを小原乃梨子が朗読していく順番。
宮内さんといえば『アルプスの少女ハイジ』のアルムおんじ、『一休さん』の和尚。小原さんはもちろん、『ヤッターマン』のドロンジョ、『ドラえもん』ののび太。お世話になったことない人、いないでしょう。当時すでに、かなりの好キャスティングだ。
耳にすると、やっぱり、実力者は違いますね。安定感が。
おなじみの人が演じている楽しさはすぐ忘れ、スンナリと〈耳で聴く星々の神話の世界〉へと誘われる。
本盤が発売された79年(僕は小学6年生)前後も、天体観測の人気はまだまだ根強かったと記憶している。『宇宙戦艦ヤマト』以来のSFブームで、みんな宇宙に興味あったし。
しかし、大人やお兄さんの天体望遠鏡を覗かせてもらう子どもが、まずやるのは、UFOがいないかどうか探すことだった。星座、あとまわし。
せっかく将来の天体人口を支える稚魚が多く育ちつつあるのに、オカルトやファンタジー方面にゴッソリ持っていかれてはたまらん。そういう危機感が、天文の世界には相当あっただろうと思われる。
そこを踏まえれば、アニメの人気声優を立てることで、天体ファン以外の子にも興味を持ちやすくし、実際の星に関心を向けさせたい制作者の意図はとてもよく分かる。ライナーノートの解説は、ものがたりに登場するアルクトゥールス(アークトゥルス)やスピカ、アンタレスなどが実際はどんな星か、地球から何光年離れているかなど、レコードの内容を補完するように、かなり専門的だ。
ドキュメンタリー映画に置き換えると、情操教育用の科学映画を見るのに近い印象。
現実の音は一つも入っていないけれど。うん、これも立派に聴くメンタリーだ。
ただ、プラネタリウムを疑似体験するレコードの、当時の価値は理解できたとして。
NASAがハッブル宇宙望遠鏡を打ち上げ、天体写真の歴史が変って以降のプラネタリウムには、果たして存在意義はあるのだろうか。昔のようなスライド上映では素朴過ぎて持たないのではないか。そういう疑問は残った。
僕は北海道の道南地方の生まれ。北斗七星は肉眼で数えられ、街頭の届かない山の中まで入れば、うっすら天の川が見られたぐらいの田舎で育った。それでも、そこからいきなりハッブルの写真を見るショックは大きかったからだ。
見上げてごらん夜の星を
「宇宙のこと考え過ぎて怖くなれ」
今年の上半期屈指のテレビドラマ『問題のあるレストラン』(フジテレビ系)で、シェフが、にくったらしい子にかける呪いのことば。
これ、もう、脇の下がキューッと縮むぐらい分かるんだ。
NASA提供の写真をふんだんに乗せた野本陽代『カラー版 ここまで見えた宇宙の神秘』(01・講談社+α新書)という本を10年以上前に買ったのに、未だにまともにページを開けない。馬頭星雲やら超新星出現やら。それでもって、膨張し続けてるとか、いずれ収縮を始めるとかさ。ちょっと、宇宙、やめて……という気分になる。ブラックホール? もちろん、大嫌い。
このへんの落差はどう埋まっているのだろう。多少勇気を出して、五島プラネタリウムを引き継いだ、コスモプラネタリウム渋谷に行ってみた。プラネタリウム自体、かなり、ひさしぶり。
複数の番組があるなか、僕が見たのは「シンフォニー・オブ・ユニバース ~第2番 天の川から銀河系へ~」(14)。
ありがたいことに、怖い思いをすることはなかった。日没の実景からCG映像、満天の星へと段階を踏んでくれる、親切な展開だった。解説員のおねえさんの説明もソフトで。
こうなると、星座の役割は昔とは違うのだ、と分かる。
宇宙望遠鏡ならとてつもなく星が沢山見える状態でも、星座になるような星はひときわ明るい。宇宙について観測し、学ぶためにも、星座は目印としてまだまだ有効なのだと納得できた。
本盤がCDで復刻されることはおそらくもう無いだろう。が、内容は、古くなっていなかった。
そうは言っても、実際の星空はそうなかなか見られない……と思っていたのだが。
今回の参考書にした、駒井仁南子『ガールズ・スターウォッチング・ブック 星空がもっと好きになる』(11・誠文堂新光社)には、こんなことが書いてあった。
「新宿や渋谷でも明るい星がビルの合間から見えます。少し灯りを避けるともう少し見えます。手をかざして建物の灯りをさえぎるだけでもずいぶんちがいます。少し怪しいたたずまいになりますが、筒のようなもので空を覗くように見ると、もっと見やすくなります。手で筒を作ってもいいでしょう。都内でも閑静な住宅街へ行くと北極星もしっかり力強く輝いています」
なんてうれしいアドバイス! 張り切って夜中の星空ウォッチングに備えたのだが、今回の原稿を書き終わるまで、花冷えの雨が続いてしまった。
まあ、これからの楽しみがひとつできただけ、よかったです。
※盤情報
『四季の星座《春・夏編》』
1979年/2,000円(当時の価格)
キング
【ワカキコースケ(若木康輔)】
1968年北海道生まれ。本業はフリーランスの番組・ビデオの構成作家。07年より映画ライターも兼ね、12年からneoneoに参加。今回も、なしくずし的に星について勉強しました。中学生の時以来。『星空がもっと好きになる』は見つけてよかった。入門編のお手本だ、と感じるほどビギナーをやさしく案内してくれる本なのでオススメです。「星を見るときに聴きたい音楽」なんてコラムがあるのも楽しい。僕はぜひ、ザ・ドリフターズの「アップ・オン・ザ・ルーフ」をマイリクエストしよう。♪世界がぼくを押しつぶす 他の誰とも会うのがキツい そんな時は屋根の上にのぼるんだ……
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