【Interview】わたしを魅了した“赤浜魂”〜『赤浜Rock’n Roll』小西晴子監督インタビュー


編集で見えてきた もうひとつの大槌のすがた

——今回、はじめて監督という立場で映画に関われたそうですが、編集や仕上げについて、印象に残った事はありますか。

小西 素材をたくさん撮ってきたら、安岡卓治さん(プロデューサー)に怒られましたね。「何だよ、こんなにいっぱい撮って」って。240時間ぐらい撮って、回せばいいってもんじゃないって。行き当たりばったりはあかんな、って反省しましたね。

宿に帰って、撮ったもののラッシュを見て、明日はここを撮ろう、みたいな会議を故・土本典昭さんはやっていたそうですね。スタッフとそれをやれば良かったかな、と反省しました。逆に森達也さんは、そんな事考えたら意味がないよ、と言っていましたけど、正解は分からないですね。だから試行錯誤です。

編集は大変でした。なんだかんだで半年くらいかかったかな。最初は良かったんですけど、仕上げなきゃ、みたいな観念で一回プランが固まっちゃって、それを崩すのが大変でした。伸びやかさが無くなっちゃった、というか。

——伸びやかさが無くなった編集、というのは、どういう意味ですか?

小西 ある期日までに仕上げなくてはならない、という条件があって、時間がとにかくなくて、そこまでを力技でやったんですね。私がきちんと構成をやっていれば、みなさんに負担をかけなくてすんだかな、と。特に編集の辻井さんは大変だったと思います。それでも膨大な素材の中から、良いシーン、良いカットをたくさん見つけてくれました。

——ほかに、編集で気づかれた事は何かありますか。

小西 日常の中の些細な目線とか、子どもがお父さんをちらっと見ている時の目線なんかは、撮影をしている時は見逃しちゃうんだけど、そういうちょっとした細部が大事なんだな、というのを学んだかもしれません。人のこころのひだ、というものは細部に現れる、というのは、撮っている間は分かりませんでしたね。まあこれも修行ですね。

——小西さんはこれまでもプロデューサーとして、何本ものドキュメンタリーを作られてきましたが、プロデューサーという立場と監督という立場で、一番違った部分というのは何ですか。

小西 ひとつは、スタッフに苦労をかけて申し訳ない、ということかなあ…撮影現場に一緒にいくことはこれまでもあったし、取材対象の人とプロデューサーの私が直接コミュニケーションするのは、いいことでもあるんですが…私、もともとの性格が粗いんで。それが出ますわね。

監督という立場は、よくスタッフに「決めてください」とか「はっきり言ってください」とか言われるんですけど、迷いますよね…指示が出せなくてすみません、ということがよくあって。スタッフに苦労をかけて申し訳ない、という思いが、プロデューサーの時より強かったですね。プロデューサーは、ある種一番のサポーターだけど、監督は映画の全部を引き受けざるを得ないから、今は穴があったら入りたい、という心境です。これからもドキュメンタリーを作り続けていくので、その気持ちを忘れずに成長したいと思います。

あと監督というのは、プロデューサーでいる時よりも、ずっとシリアスになりますね。映像の撮り方や、画に対してもあきらめることはできない。撮影開始の時点からずっとそうでした。私には、自分の映画のためというよりは、あの土地の魅力を伝えたいという思いがまずあったんで、現場ではそのことに集中していました。

——そうすると、プロデューサーと監督では、取材対象の皆さんに対する目線も違ってくる、ということですか。

小西 それはあるかもしれませんね。この作品を世に出してしまう事によって、あの人たちに迷惑をかける部分はないだろうかとか、そんな事今まで考えた事はなかったですけど。今回は意識しましたしね。

そういう意味では、2月に地元でお披露目上映会をやった時に、地元の人々にどう観てもらえるのか、とても不安だったんですけど、皆さん寅さんをみるみたいに笑ってくれて、ホッとしましたね。「作ってくれてありがとうね」と言われたのが、一番嬉しかったかな。

——「映画がここで終われる」というきっかけは、何かありましたか。

小西 「3日寝ないで作った赤浜を考える復興計画だけど、(亡くなった)奥さんや孫も見ていてくれていると思うから、それだけだ」という、川口さんの一言ですね。その言葉を聞いて、これは本音をしゃべってくれたと思いました。この映画は、ある意味で、その思いを話してもらえるまでの記録かもしれません。川口さんは、孫の世代や家族に良い町だと思ってもらいたい、本当にその一心でやっていると思います。

——男の人が多い出てくる中で、映画は阿部さんのお母さんにはじまり、お母さんに終わります。それはなぜですか。

小西 正直なんですよね。阿部さんのお母さんが「海が見えないのは大変だあ」って言ってくれたから、これがラストシーンだと思いました。ふたりの主人公がいて、防潮堤があって、いろんなものを撮って、何回も、何回も向きあって、構成がものすごく変わるなかで、大槌の人の一般的な感情をすっとひとことで言ってくださったから、お母さんは語り部みたいな役割かなと思ったんです。

映画『赤浜Rock’n Roll』より©ソネットエンタテインメント 

【映画情報】

『赤浜Rock’n Roll』
(2014年/日本/90分/BD/ドキュメンタリー)

監督:小西晴子  プロデューサー:小西 晴子/安岡 卓治
エグゼクティブプロデューサー:中野 秀紀
出演:阿部 力、川口 博美、小石 道夫、芳賀 政和ほか
撮影:古戸 英彦
編集:辻井潔  編集助手:吉田拓史
構成協力:澄川 嘉彦
音響構成:渡辺 丈彦
エンディングテーマ曲「その先の明日へ」 THE STREET BEATS 作詞・作曲 OKI
製作:ソネットエンタテインメント
配給・宣伝:太秦

公式サイトhttp://www.u-picc.com/akahama_rocknroll/

 【上映情報】

~5月15日(金)東京  新宿K’s cinema 10:00~
5月23日(土)~6月5日(金)   名古屋シネマスコーレ
6月  6日(土)~6月12日(金)  フォーラム盛岡
6月13日(土)~ 大阪 第七藝術劇場
6月13日(土)~ 福岡 中洲大洋劇場
7月  4日(土)~    神奈川  シネマ・ジャック&ベティ
7月25日(土)~    フォーラム仙台

近日上映(各映画館サイトをご覧下さい)

京都 京都みなみ会館/兵庫 元町映画館/広島 横川シネマ/愛媛 シネマルナティック

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