【Interview】『若さ』トム・ショヴァル監督インタビュー 東京フィルメックス2013上映作品


演技未経験者が役者になるまで

――兄弟役は双子のダヴィッドさんとエイタンさんが演じていました。役柄と違い、心優しく暴力的な要素のない2人に、役作りのためにスーパーで万引きをさせたというエピソードが衝撃的でした。実は監督が事前に店から許可を得ていたそうですが、2人は初めて経験する役作りにどのように取り組んでいましたか。

ショヴァル もちろん、そういう演習は彼らにとって辛いことだったと思います。演技経験のない彼らを役者にする必要性もありましたが、役者になるということ自体が彼らにとっては意味がよくわからないわけです。一卵性双生児の彼らはルックスも似ているので、2人を差別化する必要がありました。最初は兄役のダヴィッドさんに髭を生やしてもらいましたが、それだけでは物足りませんでした。そこで、弟役のエイタンさんに5Kgぐらい体重を落としてくださいとお願いしました。この時点では、演技のコーチやキャスティングディレクターなど、色々な人に相談はしていましたが、まだまだ起用が確定するような段階ではありませんでした。エイタンさんからすれば、自分がやるかどうかわからない役のために5Kgも減量するのは大変だったと思います。本人も葛藤はあったようですが、何とかやり遂げてくれました。映画のため、役のために必要でなければ、自分たちにこんな要求はしないのだと、2人ともよく分かってくれていたみたいです。

ただ、そんなエイタンさんも一度脱走事件を起こしたことがあります(笑)。彼らはガザ地区に近いニル・オズというキブツ(農業共同体)で暮らしていましたが、映画の準備のために私の住むテルアビブの近くに引っ越してもらっていました。ところが、やはり家族から離れて見知らぬ町に住んでいますし、果たして自分は周りの期待に応えられるのだろうかというプレッシャーも感じる中、悶々として脱走したようです。彼は1日実家に戻っていましたので、私が足を運んで説得し、連れ戻しました。しかし、2人とも本気でこの映画をやりたかったのです。私を信用してくれていたので色々なことをやらせてしまいましたが、彼らは全て許してくれました。

――現代のイスラエルが抱える閉塞感のようなものを感じさせる映画でした。監督は現在のイスラエル社会をどのように捉えていますか。またこの作品に込めた寓意があれば教えてください。

ショヴァル 私たちイスラエル人は、何か1つにまとまるような共通のものを失ってしまったのではないかと思います。今のイスラエル人はお互いを本当の意味で見ていません。また、本来は聞くべきである耳の痛くなるような問いかけを互いにしなくなっています。自分たちの社会の周りに壁をつくり、他国やパレスチナ人との軋轢を見ることなく生きようとしています。そのツケが今、私たちの目の前に突きつけられています。それも厳しく暴力的な形で。でも私がこの映画を通して言いたいのは、そんな風に生きられるはずがないじゃないかということです。問題を避けようとしても、必ずどこかの段階で対峙しなければなりません。もちろん、私がこの映画でそう主張しても、実際に皆がイスラエルの問題に対峙しようと思ってくれるかどうかは分かりません。しかし、少なくとも私の見るイスラエルの世界はそういう世界なのです。

『若さ』より 

【映画情報】 

『若さ』
(イスラエル、ドイツ / 2013年 / 107分) 
監督:トム・ショヴァル (Tom SHOVAL)
原題:YOUTH

作品紹介ページ(東京フィルメックス)→http://filmex.net/2013/fc01.html

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【監督プロフィール】

トム・ショヴァル(Tom SHOVAL)
1981年イスラエル生まれ。2007年エルサレムのサム・スピーゲル映画テレビ大学を卒業。『Van Gogh in Tel Aviv』(02)、『The Hungry Heart』(05)、『That’s the Spirit』(08)、『I Will Drink My Tears』(11)などの短編映画を監督。多くの国際映画祭で上映された。長編デビュー作となる『若さ』はベルリン国際映画祭でパノラマ部門に選出され、エルサレム映画祭では最優秀作品賞など3部門で受賞した。

【執筆者プロフィール】

宇野由希子(うの・ゆきこ)
山形国際ドキュメンタリー映画祭、東京フィルメックスにスタッフとして参加。ドキュメンタリー好き。

金子遊(かねこ・ゆう)
映像作家・批評家。neoneo編集委員。
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