<小特集:ドキュメンタリーでみる沖縄2>【Interview】 沖縄の「戦後70年」を描くのは必然だった 『沖縄 うりずんの雨』ジャン・ユンカーマン監督インタビュー

陵辱、というモチーフ

 ——この映画の特徴に、第3部で「陵辱」というモチーフを一章を割いて、全面に押し出したところがあります。実際のレイプ事件だけではなくて、国家というものが、沖縄や、個人の人間性を陵辱するものである、と。このモチーフは映画全体に大きな影響を与えていると思いますが、あえてそこに一章を割いた理由はありますか。

 JJ チビチリガマの事件が発覚したのは1983年で、コザ暴動や由美子ちゃん事件のずっと後ですから、厳密に言えば僕も時間軸は守っている。そういう事件の後遺症が簡単には出てこないことが、沖縄問題の陵辱性を象徴している、と言えるかもしれませんね。チビチリガマの集団自決も、1983年に発覚した頃は整理できていなくて、困難のなかで徐々に話せるようになった事件です。…沖縄にはどこでも、そういう形で沖縄戦が、表に見えない傷としてまだまだ残っているんです。

——95年の少女暴行事件の加害者も、出演されていますね。

JJ 当初、彼の出演が本当に必要なのか、反対の気持ちが僕にはあったんですが、今はやって良かったと思っています。

この映画では、加害者、被害者の側面が日米双方にあることを伝えていますが、当事者に話を聞いてきたので、やはり当事者の米兵に話を聞かないと、実際のことが分からない。でも事件の詳細はタブーに近いですよね。タブーの危険を知りながら、その危険に何が隠れているかを知りたい自分の欲求に素直になった、ということですね。どういう人が、どういう気持ちでそういう事件を起こしたのか、スクープを取りたい気持ちではなくて、純粋に知りたかったんです。特にレイプをする人は異常な人間だとか、モンスターというイメージでみられがちですが、彼、ロドリコ・ハープをみると、とても素朴で正直な人間に思えました…証言が正直かどうかまでは分かりませんが。

——アメリカの田舎だったら、どこにでもいそうな青年でした。

JJ そう、ふつうの兵士ですよね。そういう普通の人間が、積極的ではなかったかもしれないが暴行に参加した。それこそが問題だと思うんですよ。軽い気持ちで、半分遊びでやっていたような感じだった。モンスターが実行するより、ずっと深刻な問題だと思います。アメリカの人々の、沖縄に対する意識の一つの現れだと思います。

——彼のような人間を生んでしまうのは、アメリカという国の一つの病理とも言えますが、それに対して、アメリカ生まれであるユンカーマン監督はどう思われますか。

JJ 悔しいというか、複雑な気持ちはしますけど。そういう現実があること自体は、さほど驚くことではありませんでした。僕はベトナム戦争の前から社会運動に関わってきましたし、アメリカのそういう側面に対してずっと反抗してきましたから。

ティーンエイジャーの頃、僕は徴兵される可能性がありました。くじ引きみたいな徴兵制度があって、僕の番号は確か183番です。その年は100番ぐらいまでしか呼ばれず、結局逃れたんですが、なぜ自分の国が地球の反対側のジャングルで戦わなくてはならないのか、自分にそれができるかどうかも含めて、ずっと考えていました。

ベトナム戦争の時代は、そのような疑問から反戦運動が出てきて、アメリカの市民はそれを否定したはずなのに、今度はイラクとかで戦争をやっている。これはもう、アメリカという国の一つの病なんですよ。

沖縄の不屈の精神に学ぶ

——アメリカの病理が沖縄を通じて見えてくる。今回、沖縄を日米両国の視点から見つめてみて、改めて気づかされた、映画を作ることで見えたことはありますか。

JJ 取材を進める中で、今まで気づかなかったいろんなニュアンスが分かってきて、そこを映画に込めたつもりです。沖縄が「戦利品」という意識だけではなくて、アメリカが世界の覇者、という特権意識を持っていることが、改めて見えてきたんです。

沖縄戦というのは、沖縄の人たちの意志とは関係なしに、二つの大国がそこで戦争をやった、つまりは戦争を持ち込んだ。その歴史的事実はこの70年、ずっと変わっていないんです。同じように、沖縄の人たちの意志とは無関係なところで今も日米の思惑が動いている。だけど映画のタイトルを『沖縄 うりずんの雨』にしたのは、その中でも希望がある、ということを、僕自身がみつけられたことの現れです。そこが今回の映画の一番の収穫でした。

沖縄の人たちが、強い国に対して絶えず闘い続けているということがどうしてできるのか。どうして諦めないのか。ずっと疑問に思ってきましたが、知花昌一さんが「“これがおかしい”と“なくそう”と思う人たちが増え続ければ、その状況を改善できる」と話してくれて、そこに大きな答えがあるなと思いました。

沖縄の中では反基地闘争とか、反抗的な運動をずっとやっているんですけど、今、それが目に見えないぐらい広がって、強くなっている。先日も東京で、1万5千人ぐらいの人たちが辺野古の反対闘争で国会前に集まりました。沖縄のことで、そこまで人が立ち上がることが、戦後これまであっただろうかと思います。

——一方で、安倍首相の言うことを鵜呑みにする様な右翼的な人々が少なからずいて、そういう人にこの『沖縄 うりずんの雨』が届くかどうか、僕は悲観的になってしまう部分もあるんですけど…監督はどのようにお考えですか。

JJ 僕も毎日のように絶望的な気分になるんですよ。ニュースをみて、翁長知事がワシントンで無視されているようなことを聞くとものすごく悲しい。でも、沖縄の反対運動をやっている人たちを見習って、少しづつ進歩をしていく、というやり方しかないんじゃないかな。

今、集団的自衛権の問題でいろいろな人たちが立ち上がっているけれども、安倍首相がやろうとしていることには、賛成でない人も少なからずいて、多くの人は反対しているんです。憲法改正の国民投票に持ち込まれても、結果がノーという可能性も出てきました。マスメディアにも、ちょっと待ってという声がいっぱい出てきているんで、そういう意味では、政治と民衆との意識の差が激しくなってきていますよね。

それで辺野古の基地を止めることができるかというと、正直難しい部分もあるかもしれませんが、その事に気づいている人が多くなれば、いずれは変えることができる。僕はそういう精神を持ち続けたいと思っています。

『沖縄 うりずんの雨』より ©2015 SIGLO

【映画情報】

『沖縄 うりずんの雨』
(2時間28分/2015年/日本/カラー/DCP・BD/ステレオ5.1ch)

監督:ジャン・ユンカーマン
企画・製作:山上徹二郎 製作:前澤哲爾 前澤眞理子
撮影:加藤孝信 東谷麗奈 Chuck France Stephen McCarthy Brett Wiley
音楽:小室等
配給:シグロ
公式サイト:http://okinawa-urizun.com

東京・岩波ホール、沖縄・桜坂劇場にて公開中、ほか全国順次公開

【監督プロフィール】

ジャン・ユンカーマン(John Junkerman) 
1952年、米国ミルウォーキー生まれ。1969年、慶應義塾志木高等学校に留学。スタンフォード大学東洋文学語課卒業。1982年から日産自動車における「日本的」労使関係を取材し、そのドキュメンタリーを米のテレビ局で放送したことがきっかけで、映画の世界の道を拓く。画家の丸木位里・俊夫妻を取材した『劫火-ヒロシマからの旅-』(1986)は米国アカデミー賞記録映画部門ノミネート。9.11のテロ後に言語学者ノーム・チョムスキーにインタビューした『チョムスキー9.11』(2002)は世界十数カ国語に翻訳され、各国で劇場公開された。世界の知識人12人へのインタビューをもとに日本国憲法を検証する『映画 日本国憲法』(2005)は戦後60年の節目に日本国憲法の意義を改めて問いかけた。

他に、日本の最西端の与那国島を舞台に、老漁師と巨大カジキの格闘を描いた『老人と海』(1990)、エミー賞受賞作『夢窓~庭との語らい』(1992)など。

現在も日米両国を拠点に活動を続けている。

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