【連載】開拓者(フロンティア)たちの肖像〜中野理惠 すきな映画を仕事にして 〜 第16話 text 中野理惠

山形映画祭の終了後、「ピースボート」で訪ねたカンボジアの学校で(1989年12月)

 開拓者(フロンティア)たちの肖像
中野理惠 すきな映画を仕事にして

第16話 「東京おんなおたすけ本PartⅡ」と1回目の山形映画祭

<前回(第15話)はこちら>

 「東京おんなおたすけ本PartⅡ」 税金の遣われ方

「そんな本、売れないわよ」

一言のもとに切り捨てられた。

税金は必要最低限の暮らしを支えるために納付するのにもかかわらず、納税義務の浸透に比較して権利はさほど人々に自覚されてない。<税金とは何か>といった啓蒙活動は疎かだ。と「東京おんなおたすけ本」を契機に考えさせられた。明治以前から、税金が何の為に納めるのかの教育がなされていない。「お上に上納する」ものであり、<お上>がどう遣おうと勝手であり、上納するほう(人民)は口出しができない、それが当然のようにまかりとおっている。義務は権利とセットである。税金は、私たちの最低限の生活を支えるために遣われるものである当然のことを伝えたかった。

「ずっと税金を納めているのに、道路を歩くぐらいしか税金の恩恵を受けてない」

と、当時はしょっちゅう口にしていた。


後悔

だが、編集責任者に全く取り合ってもらえない。結果として、一応、「東京おんなおたすけ本PartⅡ」には、少ないページだったが、税金の遣われ方のコーナーも設けて完成させた。だが、売れ行きは鈍く、泣く泣く返本をひとりで処分した。

税金の遣われ方だけの内容にするべきだった、と後悔が残っている。編集を任せていた人の意見を、そのまま受け入れた自分に非がある。お金は私が出すのだから話し合って説得すべきだった。生まれてこの方、努力・説得・競争をしたことがないので、説得の習慣が身についていない。情けなかった。

後日、確か「家庭画報」の取材だったと思うのだが、作家の野坂昭如さんにインタビューをする機会があり、この企画を話してみたところ、大賛成してくれたことをよく覚えている。

 

「東京おんなおたすけ本PartⅡ」の表紙と目次(目次はクリックで拡大)

山形国際ドキュメンタリー映画祭

ところで、同じ1989年10月に、第一回山形国際ドキュメンタリー映画祭(長いので以後はYIDFFと書く)で、『100人の子供たちが列車を待っている』(1988年/イグナシオ・アグエロ監督/チリ映画)と出会った。

ニューヨークでNPOとはいえ、ドキュメンタリー映画が常設館で上映されていると知ったことが、ドキュメンタリーの配給を手掛けた理由のひとつだったが、第一回配給作品の『ハーヴェイ・ミルク』の時には、ドキュメンタリーやゲイへの偏見で苦労した。だが結果として、多くの人に見ていただき、また、ゲイの人たちを始め、さまざまな人との出会いがあり、いい刺激を受けた。得たものは大きい。『ハーヴェイ・ミルク』は、今でもパンドラで配給しているほどのロングセラーとなっている。余談になるが、つい、先日には、人権関係の公共事業体から上映希望を寄せられ、時代が変わったことを実感した。

YIDFFの事務局でも、第一回目のプレイベントの中で、山形市内で上映をしていただき、私も山形に招待していただいた。そんな縁もあり、YIDFFには第一回目から出席している。


『百年の夢』

第一回目で上映された作品のうち『百年の夢』(映画祭上映題名は『老人の世界』。1972年/ドゥシャン・ハナーク監督/チェコスロバキア映画)と、『100人の子供たちが列車を待っている』をパンドラで配給することになる。

『百年の夢』でよく覚えているのは、邦題づけである。『老人の世界』は英題の訳だが、それでは、どう考えても魅力に乏しい。スタッフで話し合った時、当時、パンドラで働いていてくれた旧友の大崎みい子さんが口にした題名である。詩を書く人でなければ考え付かない奥行きのある題名だ。

『百年の夢』ビデオ用解説書の表紙。残念ながらチラシは手元にない。

100人の子供たちが列車を待っている』

『100人の子供たちが列車を待っている』は、山形に行く前から、それを目的にしていたほど見たかった映画だった。舞台は南米チリの貧しい地区にある教会の映画教室。子どもたちが映画発達の歴史を知り、自分たちでつくりながらそれを辿っていく。アリシア・ベガさんという映画を教える女性教師は、子どもたちに話しかける時に、「勉強しましょう」ではなく、「遊びましょう」と言う。のびのびとしている子どもたちを見ていると、こちらまで、気持ちが自由になる。映画館で上映したいと思った。当時はパソコンなどなく、電話かfaxでの交渉なので、東京に戻り、すぐに開始した。

戻った直後だったと思うのだが、ある同業者から電話を受け取った。

「あの映画は、中野さんにゼッタイに買ってもらいたい」

だが、その後に、驚くような言葉が続いたのである。

『100人の子供たちが列車を待っている』

(つづく。次は9月15日に掲載します。)

中野理恵 近況
劇場公開は来年ですが、9月1日(火)からの<あいち国際女性映画祭2015 http://www.aiwff.com/2015/で上映予定のパンドラ配給作品『シアター・プノンペン』(カンボジア映画)と、『福田敬子―女子柔道のパイオニア』(アメリカ映画)の上映素材の到着が遅れて、字幕付に大わらわの日々。

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