【Interview】この映画は芸術作品ではない。原発推進派に勝つための訴状です~『日本と原発 4年後』 河合弘之監督インタビュー



最大の目的は、原発推進派を論破する材料の提供です

― 拝身さんからの提案が、河合さんの構想とは違ったりして、議論になったことは?

河合
 それは何度もありましたよ。僕は理詰めなんです。情緒的な、感動的な映画を作ることに関心はない。

参考のために、原発を題材にした日本のドキュメンタリー映画を何本も見ました。多くは、一つのテーマを深く掘り下げていますね。それが人を感動させるし、僕も見て涙します。しかし、見終って「よし分かった、オレもこうやって頑張るぞ」とはならない。感動が深く自分のなかに沈潜して、終わってしまう。

僕の映画は違うんだ。僕の最大の目的は、推進派の脆弱な論理を論破するための材料を、漏らさず的確に揃えることなんです。そのためのツールです。
映画をツールだなんて言うと、ドキュメンタリー作家から「映画に対する冒涜だ」と言われるかも分からないけど、それはそれで甘んじて受けます(笑)。俺はそれで構わない、と思っている。

そこに関しては、拝身さんは絶対にノーとは言わないんです。全て僕の言う通り。しかし、それをいかにスムーズに、見る人を飽きさせないように作り、組み込むか、に関してはどんどん僕にアイデアを提供してくれるんです。僕の注文は全て聞いてくれた上で、芸術家としての良心を殺さない。

『日本と原発』では、彼に「河合さん、ダメですよ。そんなに理屈っぽい話ばかり続けると息が詰まっちゃう」とよく言われました。
僕が、弁護士仲間の海渡雄一(本作の構成・監修)らと酒を呑んでいる場面がひょいと入っているでしょ。『日本と原発 4年後』にも残っていますが、あそこは尺のために、一番先に僕が「切れ」と言ったところなの。反原発の主張にとっては遠くて、ムダだと思うから。
そしたら「分かってないなあ。こういう場面が息抜き、箸休めになるんですよ」。そんな風に意見が別れる場面が幾つもありましたけど、蓋を開けたら、確かにそういうところが映像の玄人筋には評判が良いんだよな(笑)。

彼にはずいぶん貢献してもらっていますし、ありがたい存在です。

現総理大臣がオリンピック招致の席で、「いま福島の子ども達は青空の下で……」と復興が進んでいるアピールをする演説をしたでしょう。その声をバックに、現在の県内の校舎の現状を映すところ。
あの演出を提案してきた時には、僕も唸りましたからね。ここも、ぜひ見て頂きたい場面です。

― 『原発訴訟が社会を変える』に、書籍だけでは原発の議論は盛り上がらない、視覚に訴えるものが必要だと思ったと、映画に着目した理由を書かれています。もともと映画はよくご覧に?

河合
 (首を振る)今回の参考で何本も見ましたけど、それ以前となると、『シンドラーのリスト』位かな……。

映画マニアは、海渡。あんなに忙しいのに、時間を作っては福島瑞穂さんと一緒に夜中のシネコンに仲良く出かけるんだから(笑)。彼とは、僕がよく火を付けては訴訟に引っ張り込むという関係をずっと続けてきた。映画まで付き合わせるつもりは無かったんだけど、映画がメチャクチャ好きな男だから、感謝してくれていますね。
彼の法的、技術的な知識は、この映画の水準を確実に上げています。






「ドイツでは、原発推進を主張すると反社会的存在とみなされます」

― 河合さん自身はどうなんでしょうか。映画に初めて関わり、創作意欲に目覚めるようなことは。

河合
 僕には『フタバから遠く離れて』の舩橋淳さんや、『ミツバチの羽音と地球の回転』の鎌仲ひとみさんのように、映画監督として、作家として生きるビジョンは全くありません。自分の中にある、映画にして見せたいコンテンツは『日本と原発』と『日本と原発 4年後』で全部出し切っています。
もう映画にするコンテンツは無い……そう思っていたんだけどね。現在、3作目の準備を進めています。テーマは、自然エネルギー。


実は『日本と原発』の有料上映会が全国各地で好評で、自分で捻出した製作費を全て回収できたんです。それを、どうしようか。「ありがとう」と言って懐に戻してもよかったんだけど、それじゃあバチが当たるなと。

一方で、この1年はずっと脱原発の戦略について考えていたんです。日々の戦いだけでなく、もっと大きな解決策を見せる義務があるな、と思い始めていたのね。

そして、当然と言えば当然ですが、脱原発の戦いの出口は何だ、それは自然エネルギーだ、という結論に至った。
昔からそうは思っていたけど、改めて確信したんです。


自然エネルギーへの転換がなかなか進まないのは、まだ国民や経済界に、これが産業になるんだという見通しや信頼が固まっていないからです。自然エネルギーは安全で、環境に良くて、しかも確実に経済的利益が見込める。それを経済人が見て確信できる映画にします。

1ヶ月前にはドイツとデンマークに、撮影に行ってきました。行ってみるもんですね、どっちも国を上げて、官民、財界が全て脱原発・自然エネルギー転換。それが既定路線になっているのを目の当たりにすることが出来た。

一番刺激を受けたのはドイツで、日本でいう電気事業連合会の事務総長にあたる人に会った時です。
「原発推進や自然エネルギー反対を訴える企業があるでしょう」と聞いたら、「ありません。現在のドイツでそんな事を言ったら、反社会的な存在とみなされます」と即答されたんですよ。

日本でも、ブレイクスルーは近いうちに必ず来ます。企業は、儲かりさえすればいいんだから。自然エネルギーでも利益が出ると分かれば、堰を切ったようにそっちに移りますよ。






“なんとなく推進派”の人にいちばん見てもらいたい

― 去年の秋にシネマート六本木での『日本と原発』有料上映会を拝見した際、映画にも登場する古賀茂明(元経済産業省)さんが舞台あいさつの場で、「ここに来ている人はほぼ、もとから脱原発支持。推進派の人が見て説得されないことには、河合さんの目的は成就されないのでは?」と問題提起されていたのを覚えています。
それも、劇場公開第1作として『日本と原発 4年後』を作ったことに関係していますか。

河合
 それはね、当たりです。まず映画の世界では、劇場公開しないことには一人前として認知されないし、批評の対象にしてもらえないんだと、僕は初めて知ったんです。新聞の全国紙も書いてくれなきゃ、週刊誌も記事にしてくれない。
でも劇場公開作品になれば、マスメディアの情報の網の中に入れる。他の映画と同じ土俵に上がれるわけで、脱原発支持者以外の人にも見てもらいやすくなるんだよね。

といって、ゴリゴリの推進派の人が見に来るかといったら、難しいでしょう。そこにはあまり期待していません。

僕が期待しているのは“なんとなく推進派”に見てもらえることです。原発についてよく考えたことがないけれど、仕方がないんじゃないの。自民党に投票するけど、なんだか原発の再稼働って疑問はあるよね……程度の認識の。

だから、小泉純一郎さんに映画の中に登場してもらったの。良心的保守層への影響が大きい。「小泉さんがこんなにはっきり脱原発だと言っているのなら、俺がそう言っても周りから浮かないな」、そう思ってもらえる効果があるんですよ。

― それに音楽は、ゴーストライター騒動で名が一気に知られた新垣隆さん。話題づくりというか、プロデュースの感覚が冴えています。

河合
 そうね、僕はプロデューサーに向いているんだろうな。
僕は、三枝成彰さんと友達なんですよ。で、テレビでゴーストライター騒動がよく報道されている時、三枝氏が新垣さんのことを「彼は本当は、才能が凄くあるんだ」と褒めちぎっていたの。なら紹介してよ、と。話は早かった。

日本にある全原発を見せるところで流れる彼の長い曲、いいでしょう。海沿いのこんなに良い風景の中に原発が……という映像とあいまって、必ずや見る人の心を打ちます。

だけど僕、編集の最後の段階では「切ろう」と言ったんだ(笑)。だって7分以上もあるんだよ、他にも入れたくても入れられない論理的な話はあるんだから。そしたら、拝身さんも海渡も「分かってないなあ、これを切ろうだなんて、いくらなんでもひどい!」(笑)。

2人に叱られちゃったんだから、きっといい場面です。ぜひ、ご覧ください。




10月10日より渋谷ユーロスペースで公開中





【作品情報】

『日本と原発 4年後』
2015 年
カラー/ステレオ/ビスタ

製作・監督 河合弘之
構成・監修 海渡雄一
音楽 新垣隆制作協力 木村結
制作・配給 Kプロジェクト

公式サイト:http://www.nihontogenpatsu.com/


【書籍情報】

『原発訴訟が社会を変える』
2015年
集英社新書

著者 河合弘之
発行 集英社


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公式サイト:http://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0802-b/