【Interview】障害者とプロレスがクロス。聞いただけで疑問がどんどん湧いてくる部分に引きつけられたんです~『DOGLEGS』ヒース・カズンズ監督

愛を求めるパッションがベースにある

 お話を伺っている間に、感想が固まってきました。さっき、迷ったところがあるのでは?と聞いたのはいささか、僕の言葉の選択の間違えです。海外の人が日本で取材するドキュメンタリーの多くは、文化考察的なタッチが共通しますが、『DOGLEGS』はそれとよく似ているようで、やはり違う。カズンズさんは撮っている人たちのことを、隣人のようによく知ろうとして近づいている。〈海外から見たニッポン〉ジャンルでは、今まであまり見たことのない接近度なんです。

カズンズ そうですか。良かったです。……あの、難しいんですよね、やっぱり。そもそも、他人のことを本当に共感できるのか。ただでさえ、あんなに自分とは違う生活を送っている人たちですから。
北島さんは「できない」と言うと思うんですよ。僕は……、少しはできるんじゃないかと思うんですよね。

でも、慎太郎のパートが、僕が見た慎太郎のストーリーになっているところはあります。
僕の知っている慎太郎なら、今はきっとこんな気持ちでいるんだろうと、音楽を使って彼の気持ちを表現し、勝手に自分の気持ちを入れているところがあるんですよね。

 具体的には? 恋のところかな。

カズンズ そう、例えば、慎太郎がある行動をとった後、秘宝館を見て回る場面。あそこは音楽が、グロテスクな雰囲気からメランコリックに変わっていく。
実際の慎太郎は、秘宝館には1分もいず、サッと出て行った。素材にできる時間がほとんど無かったんです。そして出た後、「健常者は面白いかもしれないけど、オレには楽しくない」と彼に言われて。

どういう意味か100%は分からなかったけど、彼にとっては、秘宝館の出し物が気持ち悪いものに見えたんじゃないだろうかと。それに、いつもはオープンな彼の心の中に、鍵のかかったドアの向こう側があることを感じたんです。それを音楽で表現しようと思ったんです。

 あのシークエンスに行くまでに、見る人はすでに慎太郎さんの基本キャラクターに親しみが湧いているから、恋をしている彼に、自然と気持ちは寄せられる。監督として、彼の心情を適切に汲んでいる場面だと思いますよ。
ただ、ああなった直後に秘宝館で大人のオモチャを見物してもつまらないどころか、かえって気持ちが荒むって、世の男性は誰でも共通じゃないですか?

カズンズ それはそうですよね(笑)。僕も、若い頃の自分を思い出しましたね。言わなくてもいいことまで言っちゃって、それで引かれた……とか(笑)。

 慎太郎さんが恋する、大学の先生。北島さんが一貫して父親的、兄貴的な強い態度で慎太郎さんに接するのとは対照的です。ああいう、聡明で可愛らしい女性が近くに来て優しくしてくれたら、刺激は強いだろうし、恋愛感情はなかなか難しいところだと思うんだけど……

カズンズ でも、ドッグレッグス旗揚げのきっかけは何か知っていますか?

 あ、そういえば!(※ひとりの女子大生ボランティアに片思いした慎太郎とライバルが、プロレスのルールで喧嘩の決着をつけた)

カズンズ そう(笑)。恋のかたちが似ていることでは、ある意味、フルサークル(一周)になっているかなあと。
愛を求めるパッションは、ドッグレッグスのベースにあると思います。接してもらいたいし、触れたいと思うんですよね。いろんな意味で、人間として。

 予告編にもある、慎太郎さんがおずおずと、先生に手を近づけるカット。よく見てましたね、イジワルに。

カズンズ 彼はあの後、ガバガバとビールを呑んで(笑)。慎太郎は、面白いんですよね。被写体としてもそうだし、付き合いやすいし。


障害者プロレス、と聞いた途端に撮ると決めました

 ドッグレッグスを初めて知った、きっかけは?

カズンズ ジャーナリストの友だちと、彼は記事、僕はビデオの役割分担でペアを組み、トピックを探していた時です。彼のほうから「面白いものがあったよ。でも、これはまずダメ」。日本にいる外国人記者がみな各国のデスクに提案しては、ボツになってきたと。
「なにそれ。教えてよ」
「障害者のプロレス」
聞いた瞬間、5秒以内に、これをドキュメンタリーで撮ると決めたんです。

ニュースとしては、簡単には取り扱えない。その時点では僕も、どう感じ取っていいのか分かりませんでした。笑っていいのか、ショックを受けるべきなのか、それとも……ヘンな言い方ですが、救うべきなのか。障害者を食い物にしている健常者を、世界に向けて晒し出して。
どうなったとしても興味深い話だ、例え数年間かかっても関心を持ち続けることが出来る、と聞いた瞬間に思いました。

もともと、プロレスにそんなに興味は無かったんです。それに障害者のドキュメンタリーを見るのもあまり好きじゃなかった。同情して励ましてあげるような視点や描き方が、見下しているようでね。
障害者とプロレスがクロスした、聞いただけで疑問がどんどん湧いてくる部分に引きつけられたんです。ドッグレックスのファンにも、そういう人が多いんじゃないかな。

 初めて試合を見た時は?

カズンズ ますます興味深いと思いました。(会場にしている)北沢タウンホールの場内って、すごく家族的で温かい、ステキな雰囲気でしょう? なのにゴングが鳴ったら、重度障害者同士のバトルロイヤルとか、超ヘビーなバイオレンスが毒舌のナレーション付きで始まる(笑)。

イヤなものを見た……とショックを受けた。笑いを堪えながらも笑ったなど、試合によって、いろんなパターンの感情を揺さぶられました。

初めて行った日は、中嶋が試合で初めて勝った日です。彼がロープに上って「この俺を見ろ、ガンでもうつでも勝てるんだ!」と吠えるのを見て……、泣きそうになりました。この人いいな、死んでほしくないなと思って、興行が終わった後、彼に声をかけたりしました。

そう、自分でも予想外の気持ちがいろいろとあった。


© Alfie Goodrich

 北島さんは日本初上映でのあいさつで、カズンズさんからの撮影の依頼を「実は最初は断った」と仰っていました。

カズンズ あいさつを撮ったビデオ、後で見せてもらいましたよ(笑)。そうなんです。無視。長い時間、無視されました。

 それでもカズンズさんが粘るので、北島さんは最終的には「こいつらの心を預けてもいいかなと」とも。「撮っていい」ではなく、「心を預けてもいい」。すごく強い、精神的契約の言葉です。

カズンズ うん……。それまでにけっこうメディアに取材されたけど、中途半端だったり、やらせっぽいことがあったり、そういうことで北島さんは取材に不信感を持っていたようです。さらに外国人となると、本当に分かってもらえるのかという不安があったんじゃないのかな。

 北島さんからのオーケーは、どのようなかたちで?

カズンズ あまり、具体的にではないんですけど、多分、ドッグレッグスのミーティングに誘われた時かな。「誰を取材したいんですか」と聞かれて、「まだ知っている選手が少ないので分からない」と正直に答えたら、「だったら」と誘ってもらったんです。

 それにしても、よく粘りましたね。ずっと無視されていたのに。

カズンズ 絶対に面白いと思っていたから。それまで日本に18年いた中で、一番やりたくなったトピックスなんですよ。

 それもパッションですね。

カズンズ
 そう。……そう、自分もそうだった。

▼page3 構成は早く組み立てたほうがいい につづく