構成は早く組み立てたほうがいい
― カズンズさんはニュージーランド出身。僕の認識では、欧米でのプロレスリングはサーカスの文化が背景にあって、日本とはルーツを異にします。だから、ドッグレッグスの周辺を理解するのに時間がかかったのでは?と思ったのですが。
つまり、北島さんが昔のサーカスの団長のように、みなを搾取しているように見えたとか。
カズンズ はい。ドッグレッグスに出会う前は、そこは心配していました。出会ったらすぐ、それは無いと分かったんですけど。
でも、やっぱり難しいのは……、人間は誰でも認めてもらいたいじゃないですか。言語障害などで社会でうまくいかない、見下されることの多い人はなおさらその気持ちが強くなると思います。となると、沢山の人の前で自分の存在感をアピールできる場があれば、例え利用されたり、食い物にされたりしたとしても、承知の上でそういう場を欲することがあるのではないか。
映画を見て、そこに対して可哀想だ、と感じる人がいてもおかしくはないと思っています。愛されたい、認められたい、そのために自分の身体を人々の前で危険に晒している、という。
だから……そうね、ドッグレッグスは、白黒がハッキリした世界ではないんですよね。グレーな世界。それがいいと思っています。グレーだからこそ考えさせられるし、自分に問いかけることになる。
ドッグレッグスがやっていることを、すごく、僕は応援しています。でも、100%の応援ではないよね。95%。
でも、オレの意見はどうでもいい、とも思っています。最終的にこれはいいものなのか、どうなのかは、まだ僕も自分自身に対して問いかけているんじゃないかな。撮影を始めてから5年経っても。
© Alfie Goodrich
― 最初にこれを撮りたいぞ!と思った時と、今。そこにはどんな変化があったのでしょう。
カズンズ うーん。どうなんでしょう。
― ドキュメンタリストやジャーナリストは大ざっぱに大別すると「面白い、これはこういうものだ」という直観に従ってまっすぐに進める人と、「これは一体何だろう」という疑問から始め、だんだん分かってくる、その過程を大事にする人とがあると思っているんです。
カズンズ そういう、後者みたいな作り方はすごく……ヤバいよね。どうしてもそうなってしまうことはあるけど、でもどんな構成にするかは、なるべく早く決めないといけないんですよ。
― 日本のドキュメンタリー映画では、後者の作り方が尊重されます。
カズンズ それはおそらく、テレビの説明的な作り方があるからじゃないかな。日本のテレビのドキュメントは、多くが説明的でしょう。すでに出来上がったストーリーを撮りに行き、状況もその人の感情もなんでも説明するから、かえってドライです。
それに対する反抗が、自分の頭とマインドをオープンにした、体験を通す作り方にさせているんだろうと、僕は思っています。
それもあり、だとは思うけど、最終的にはストーリーに仕上げなくちゃいけませんから。
バラバラになっている素材を編集しながら、捨てるものはどんどん捨てなくちゃいけない。その判断のためにも、どういう構成にするかは早く分かっておいたほうがいいと思います。もちろん、それが途中で変化してもいいという柔軟性を持ちつつ。
― 『DOGLEGS』の撮影を始めたのは約5年前。撮影と編集、それぞれの期間は?
カズンズ 撮影は2年半位。後は……ダラダラと編集にかかってたんです(笑)。
― 早めに構成を組み立てたほうがいい、という考えのカズンズさんが、それでも撮影に2年半かけたことを興味深く感じます。例えば数ヶ月なり半年なり、ドッグレッグスの活動のこの期間に絞る、というやり方もあったはずでしょう?
カズンズ それは、必要だと思う場面が撮れるまで待ったからですよ。
例えばさっき話した、慎太郎が欲しがっている、求めているもの。これにも、彼が自分の欲望として認知しているもの、していないものの2通りあると思うんです。
映画の序盤で慎太郎は、仕事がうまくいって、好きな女性にプロボーズできて、そしてキレイにレスラーとしての花道を飾る……という希望を語ります。ただ、本当に引退したいのかどうかは、よく分からない。僕自身は、こういうことだったのではないか、と考えていることはあるのですが、分析し過ぎている可能性があるので話はできませんけど。
具体的には、慎太郎が社会から認めてもらえていない、それをハッキリと示す場面が欲しかった。でも、彼が一般人にナメられたり、冷たくされるような場面は、一回も見ていません。
だから、仕事で頑張っているんだけど苦労している、そういう場面を撮ることにして、ではどうやって撮ればいいかを考えて。こっそり慎太郎の仕事場のボスに連絡して、試験が今度あるなどとスケジュールを聞き出していたんです。
そういうことを一つずつやっていると、構成が決まっていても時間がかかりました。
― 欲しい場面のために、カズンズさんのほうからセッティングするようなことは避けたわけですね。
カズンズ でも時々、会話のタネは蒔きましたよ。引退試合のことで、北島さんの言った言葉に慎太郎が泣く場面があるでしょう。なぜ泣いたのか、いろんな捉え方ができると思うんですが、ハッキリとは分からない。
だから「家で撮りたいんだよ」と、慎太郎に水を向けました。慎太郎のお母さんにも連絡したら、彼女も引退の真意を知りたく思っていて。
それであの、お母さんが慎太郎と粘り強く話をしている場面になりました。
▼page4 北島さんは本当に慎太郎を愛しているにつづく