【Interview】障害者とプロレスがクロス。聞いただけで疑問がどんどん湧いてくる部分に引きつけられたんです~『DOGLEGS』ヒース・カズンズ監督


北島さんは本当に慎太郎を愛している

 『DOGLEGS』は、家族がひとつのテーマであることが、見ているうちにだんだん分かってきます。みんなでリングに上がる、愛人(ラマン)のような一家があり。お母さんが諸手を上げて賛成ではない慎太郎の家族があり。北島さんと慎太郎さんの関係も……、

カズンズ うん、そうですね。あの関係もひとつの家族を作っている。

 でも、とてもドメスティックな、いや、日本人でも分からない人は多い関係です。「ばかやろー」「負け犬」と罵倒することが愛情表現であり、付き合う責任だ、ギリギリで侮辱とは違うんだっていうメンタリティーが。

カズンズ そこはね、海外の人に、たまーに、伝わらない(笑)。

プロレスのファンだと、あーこういうことなんだなと、分かってもらいやすいんですよね。北島の発言には悪役レスラーの延長も含まれてるんだと。そこが分からない人との間は、ハッキリ別れます。まあ、それはそれでいいんじゃないの……と思ってる。

 分からない人からすると、不快に見えてしまうかな。

カズンズ そう、ひどいいじめだと感じる観客もいました。叩きのめして反撃もできない相手に、さらに侮辱を与える。これは(西欧では)最低の行為とされています。ところが北島さんは、まさにそれをやっている(笑)。

© Paul Leeming

 北島さんのほうも実は慎太郎さんを求め、助けられているあの独特の関係。すぐに呑み込めましたか?

カズンズ はい、理解自体はすぐにできました。でも……。北島さんは「(罵倒されて)慎太郎は喜んでるんですよ」と答えますし、他の選手もそうです。言ってることは分かったけど、疑問の気持ちは少し残りながら、でしたね。
さっきも触れた、慎太郎が泣く場面。それを後で北島さんに伝えたら「ああ、それはカメラが回ってたからなだけですよ」って。でも、僕は彼の涙を間近で、自分の目で見たから。

北島さんは、慎太郎を本当に愛していると感じます。
でも……、うん、どうなんだろう。結局、本人同士にしか分からないところはありますけどね。

ただ、日本は社会的なコミュニケーションにルールがいっぱいある国だから。そんな表面的なルールは捨ててもいい、なんでも言っていい関係が一番リアル。そういう文化ですよね。
北島さんがある日から僕を「ヒースさん」ではなく「ヒース」と呼び捨てにした時、僕はとてもそれを喜びました。それと同じことか、と思っています。でもこれ以上知りあうと、僕もけっこうダメ出しされるんじゃないかな(笑)。

© Ivan Kovac

 『DOGLEGS』はトレーラーが素晴らしい。近来稀に見るエモーショナルな予告編だと思います。だから、映画の静けさとの落差に当初、戸惑ったのは正直なところです。
入口を広げたかったというお話を先ほど伺って、意図は理解したのですが、編集はカズンズさん自身が?

カズンズ いえ、トップクラスのCMなどを手掛けている、プロの方に依頼したんです。エンタテインメントとして興味を持ってもらいたい、という狙い通りに作ってくれたのですが。そうか、落差は感じましたか。
確かに、慎太郎がボコボコになる姿はやめようと言われました。僕は、やられても立ちあがる姿で不屈の精神みたいなものを表現できると考えたのですが、予告編でそれを見せると、障害者が痛めつけられる姿を説明無しに見せることになるし。大体、ヒーローに見えなくなってしまうと。だから、予告編の慎太郎はすごくカッコイイ(笑)。

 日本人には判官びいきという感情があります。スポーツドラマを見る時、強い奴の勇ましい姿を実はそれほど求めているわけではなくて、むしろ、強い相手に敵わないまで……という姿のほうが心を打ちます。

カズンズ そうね、応援したくなる人。予告編はどっちかというと、欧米風に作ったんですよ。でも、相手は憎い敵ではなくて、一番親しくて認めてもらいたい存在。そこで、映画のエッセンスはうまく表現してくれていると思っています。

 映画への、北島さんの感想は?

カズンズ まだ直接は聞いていません。でも、すごく応援してくれています。ダメ出しは、公開が一段落した後にくるんじゃないかな……怖い怖い(笑)。
本当にね、ドッグレッグスのみんなに信頼してもらったことは感謝しています。鶴園誠さんにミムラマンなど、追えなくて心残りに思う、面白い選手はたくさんいるんですよね。

 オマケの質問です。日本にずいぶん長く滞在した。日本って、そんなに面白いもんですか。

カズンズ 面白いですよ。なんというか、座布団をめくるとそのたび違う世界がある、という感じ。小さな社会の中にまた小さなグループの島がたくさんあって、そこでそれぞれ生きているという印象を持ちますね。その人間関係の力学みたいなものを、ずっと興味深く感じていました。


【作品情報】

『DOGLEGS』
(2015/HD/89 分)
出演:サンボ慎太郎、アンチテーゼ北島、愛人(ラマン)、ミセス愛人(ミセスラマン)、中嶋有木、「ドッグレッグス」レスラー 他
監督・撮影・編集:ヒース・カズンズ
音楽:ショーン・クラウンオーバー
エグゼクティブプロデューサー:スティーブン・ヒギンズ、ジョン・ウッドン
制作:Invincible Heart、StoryBox Films、Noka Films
協力:ドッグレッグス
日本配給:トリウッド、ポレポレ東中野

2016年1月9日(土)より ポレポレ東中野/下北沢トリウッドにてロードショー

公式サイト http://doglegsmovie.com/ja/