【Special News】2/7(日)−11(木)第7回 座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル 今年の見どころを聞く

いよいよ2/7(日)から11日(木)まで、「座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル」が開催される。2010年から開催されているこのイベントも7回目。毎年、冬のこの時期に東京で行われる、ドキュメンタリーに特化した貴重な映像祭として、すっかり定着した感がある。今年のテーマは「出逢い、発見」。例年、テレビ、映画の枠を越えたラインナップと、多彩なゲストが特徴のこのフェスティバル、2016年の見どころはどこにあるのか。第1回目からスタッフをつとめるドキュメンタリージャパンの加瀬澤充さんにお話をうかがった。
(取材・構成=佐藤寛朗)


 特徴と今年のコンセプト

 「これまでもテレビ、映画の枠を越えて、ドキュメンタリーの魅力と可能性を発見するプログラムを組んできましたが、あらためて「出逢い」と「発見」はドキュメンタリーの原点ということで、そこに立ち返ってみると、いろいろな面白さに気がつくんですね。未知の世界に出かけていって、そこで記録されたものに「出逢う」のもドキュメンタリーの醍醐味ですが、そこには映されたものだけではなくて、映した人や、映す行為に対する「発見」もあるんです。

 例えば10日に上映する『極北のナヌーク』には、再現が含まれていると言われていますが、そのシーンを観ると「やらせ」とは到底思えない。ナヌークたちがカメラの前でなぜ、そのような態度を見せたのか。監督との関係性や距離感のようなものが見えてきて、とても興味深いんです。ドキュメンタリーの原点とも言うべき歴史的な作品ですが、何重もの驚きに満ちています。

 同時に、今回のプログラムでは、テレビドキュメンタリーの歴史を振り返って、「すばらしい世界旅行」や「ネイチァリングスペシャル」など、一時代を築いた旅番組を上映します。そこでは時代ごとの「異国」や「辺境」に対する意識の差がみえてきたりもします。もちろん、映っているもの自体の凄さにも圧倒されますが。

このフェスティバルでは、毎年多くのゲストに作品についてお話しいただいていますが、今年は角幡唯介さんやたかのてるこさんといった、ドキュメンタリーと同じく未知の世界と出会い、発見していく視点を持った旅人のゲストをお呼びしており、その方々と一緒にドキュメンタリーを考えられるのも、貴重な機会だと思います。

こうした旅の「出逢い」に加え、『イザイホウ』の祭祀や『遠足』の絵画といった、人間の営みや精神の深さを発見する作品や、『旅するパオジャンフー』や『海は生きている』ような、情緒豊かな作品が加わって、こちらも「ドキュメンタリーって楽しいな」って素直に思えるのが、今年のプログラムの特徴です。終了後は近所の居酒屋で毎日交流会を開いていますので、ぜひ、このフェスティバルでのみなさんの「出逢い」と「発見」を教えていただければ、と思っています」

加瀬澤 充さん

各作品の見どころ

7日 11:00『SELF AND OTHERS』
「故・佐藤真監督の作品ですが、カメラマン特集としての上映で、たむらまさきさんが写真家・牛腸茂雄の「何」を捉えたのかにご注目ください。小川プロのドキュメンタリー映画出身のたむらさんと、テレビドキュメンタリー出身の山崎裕。2人がいったい何を話すのか、全く予想がつきません」

7日 13:15 諏訪敦彦セレクション『リトアニアへの旅の追憶』
「個人映画で有名なジョナス・メカス監督の代表作ですが、上映されるのは久しぶりではないでしょうか。詩的なモノローグとともに、時や場所を越えて綴られる映像のスケッチは、ファンならずとも一見の価値がありますよ」

7日 16:30 『イザイホウ』
「沖縄の離島、久高島で12年に一度行われていた神事「イザイホー」を1966年に記録した貴重な記録で、よくこの位置で記録したなと思える、カメラと島人との距離の近さが魅力です。お祭り以外の島の生活や、若者が島の外に出て行く当時の空気もよく捉えられています」

7日 19:00 井浦新セレクション『印度漂流』
「数年前に亡くなられた俳優・緒形拳さんがインド全土を巡るのですが、あまり特別なことはしていません。現地の人に近い目線でさすらう緒形さんが何を感じたかが、ダイレクトに伝わってきます」

8日 11:00 『遠足』
「オーストリア・ウィーン郊外の施設で絵を描きながら暮らす、心に病を持った男性たちの生活を追っています。アーティスティックな部分を持ち上げたりせず、彼らのこだわりや気ままな部分も含めた「丸ごとの空気感」が不思議と印象に残ります」

8日 13:00 『旅するパオジャンフー』
「台湾南部で、火吹きや蛇使いなどの芸を見せながら薬を売る、香具師一家のお話です。咬まれたら死にそうな毒蛇を使った芸の訓練など見ていてヒヤヒヤしますが、南国ののんびりした空気に癒される、どこか懐かしさが漂う作品です」

8日  16:00  吉岡忍セレクション『終われ戦世〜証言記録 太平洋を越えて〜』
「琉球放送で放送された沖縄戦の証言記録ですが、語り手が当時戦場だった場所に足を運んでいて、よみがえる感情が生々しいんです。アメリカで強制収容された沖縄出身の日系人の話や、米軍の元兵士が若者の前で語るなど、戦争の実態に迫ろうと、様々な工夫がみられます」

8日 19:00 山下敦弘セレクション ザ・ノンフィクション『ピュアにダンス』Ⅳ V
「山下監督の強い希望で、フジテレビ『ザ・ノンフィクション』の人気シリーズ2本を取り上げます。ダウン症の青年と、彼らの家族の物語なのですが、青年たちの抱える悩みは決して特殊なものではなく、一緒に悩む家族の姿が「いいなあ」と思える作品です」

9日 11:00『My Way 乾旦路』 
「座・高円寺芸術監督の佐藤信さんに紹介いただいた、中国の古典劇・広東オペラの女形(乾旦)を目指すふたりの青年を追ったドキュメンタリーで、日本初公開です。特殊な彼らの「我が道」は一筋縄では行かないのですが、そこに今の香港の空気が映っています。監督のトークも楽しみです」

9日 13:30『海は生きている』
「本土復帰前の八重山諸島・波照間島で撮られた羽仁進監督の教育映画ですが、オールカラーで、とにかく美しいんです。海の中の生き物だけでなく、1950年代の沖縄離島での生活や、東京の風景なんかもカラーで残されている、とても貴重な映像です」

9日 15:30 想田和弘セレクション『肉』
「「観察映画」の想田和弘監督が、影響を受けたといわれているフレデリック・ワイズマンの作品を見ながらお話をされる、貴重な機会です。撮影手法に注目すべき作品ですし、近年増えている「命を食べる」映画の先駆けとしてもとらえられます」

9日 19:00 石川直樹セレクション『白き氷河の果てに』+石川作品
「日本の登山隊が1977年、世界第2の高峰K2に初挑戦した時の記録映画ですが、その全容がそうそうたるメンバーの撮影隊によりきちんと捉えられていることに驚きます。その40年後にK2に挑戦した石川さんの撮影スタイルと比較しても見るのも面白いです」

10日 15:00『極北のナヌーク』
「ドキュメンタリーの原点といわれていますが、「出逢い」「発見」というテーマであらためて見ると、いろいろな面白さに気がつける作品です。北極圏の旅にこだわりを持つ角幡さんがどこに着目するか、上映後のお話にも注目です」

10日 17:30『A2 完全版』
「地下鉄サリン事件後のオウム真理教を追った、森達也監督の代表作です。今回、15年前の劇場公開時に諸般の事情で外されたあるシーンが復活し、関東で初上映されます。そのシーンも含めた時代の空気の変化を、田原さんと森さんのトークでも考える機会になると思います」

11日 15:15 すばらしい世界旅行『東ニューギニア縦断記』
「40年以上前の作品ですが、今だったら放送できないようなシーンが満載され、発見と衝撃に満ちています。ニューギニアの奥地を世界で徒歩踏破する撮影スタッフが完全に探検隊のような出で立ちで、それをドキュメンタリーとして記録している事にも驚きます」

11日 18:00 是枝裕和セレクション 課外授業ようこそ先輩『カメラを通して世界と出会おう』エンパク「こども映画教室2015」メイキング
「是枝監督が「カメラを通じて世界を知ること」を小学生の子どもたちに教える様子を記録した2作品を上映します。撮影を通じて何かを知りゆく子どもの表情が魅力的ですが、是枝監督は「そこから我々大人の方にも発見がある」とおっしゃっています」

『東ニューギニア縦断記』©日本テレビ

コンペティション部門について

10日 10:00 ETV特集『沈黙を破る手紙〜戦後70年目のシベリア抑留〜』松原翔
    11:30 『沖縄うりずんの雨』ジャン・ユンカーマン

11日 10:00 『サムライと愚か者〜オリンパス事件の全貌〜』山本兵衛
   12:00 『たゆたいながら』阿部周一 
   13:30 『チョコレートケーキと法隆寺』向井啓太 

「今年も57作が応募され、予備選考委員による議論を経て、5作品が入選しました。コンペティションをはじめた当初は「若い才能を発掘する」目的がありましたが、近年はベテランの映画監督の作品や劇場公開作品、海外やテレビ局からの応募なども増えいます。幅広く応募いただくことには感謝の気持ちがありますが、異種格闘技戦のような選考は、毎回、苦労の連続です。骨の折れる作業ではありますが、同時に、応募された作品から多くの刺激を受ける、豊かな時間でもあります。

あくまで私見ですが、選考では、作り手が何を見て、何故その撮影対象を撮ろうとするのかという、思いの深さが重視されているような気がします。その熱量には若手、ベテランのキャリアは関係ありません。作り手のみならず、観客の視点も交えながら激論を重ね、形式や完成度よりも「今この時に、これを見せたい」という思いが強く反映されている作品を、少し幅のある形で選出させていただいているのが、この『座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル』のコンペティション部門です。応募全作品や予備選考の過程は、会場で販売されるパンフレット(500円)にも明示してあるので、こちらもご参照いただけると幸いです」

【開催情報】

第7回 座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル
2016年2月7日(日)- 11日(木・祝)

【会場】座・高円寺2(高円寺駅下車徒歩5分) 【地図】
【料金】当日 各プログラム1500円
※無料参考上映あり(トークは有料)
※A2 完全版のみ2500円

その他最新情報→http://zkdf.net

プログラムチラシ(クリックで拡大)

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