【連載】開拓者(フロンティア)たちの肖像〜中野理惠 すきな映画を仕事にして 〜 第26話 text 中野理惠


1997年カナダ映画「百合の伝説 シモンとヴァリエ」(1997年日本公開/ジョン・グレイソン監督)を公開した頃のスタッフと。この映画では監督と主演俳優が来日し、築地を案内した記憶がある。

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buy crestor 20 mg online 第26話 ソクーロフ作品の配給 その2 『精神こころの声』


静止画のような
40分間

ほとんど動きのない画面が延々と40分間も続いたのである。凍っているような湖の彼方に木立が繁っている。微かに動くのは、時折、群れをなして湖面を渡る鳥だけであった。他には、勿論、人影はない。デレク・ジャーマン監督(英国/1942年~1994年)の『BLUEブルー』(英国/1993年)を思い出した。だが、『BLUEブルー』は、題名通り全編ブルーの画面が続くのだが、監督自身のモノローグがあった。だが、ソクーロフの40分には、モノローグもない。途方に暮れてしまい、何も手を付けることができなかった。後に、完成版を送ってきて、本人が、

「あれを作らなければ、先に進めなかった」

と言ってきた。

全編は5時間28分!『精神こころの声』

だが、更に驚いたことに、数か月後に送られてきた全編は5話編成になっていて、合計で328分もあったのだ。驚きながらもすぐに全編を見た。人気のない山を数名のロシアの兵士が戦車に乗り戦場に向かう。ロシア側からアフガニスタン側を見ると、銃を携行した兵士が数人、歩いている。そして、時折、バチバチと銃を撃つ音が響く。動きのなかった画面にはソクーロフ自身の語りが入っていた。惹きつけられて5時間を超える全編を一気にニ回、続けて見た記憶がある。傑作と思った。

1995年8月のスイスのロカルノ映画祭でソニー賞を授与され、日本でも同年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別上映の機会を与えられた。

後日、この映画に出てくる兵士たちは全員、戦闘で亡くなったと知り、動かない40分間とソクーロフの発言の背景を理解した。

精神こころの声』


マスコミ試写で叱られ

精神こころの声』はユーロスペースが劇場公開を引き受けてくれた。ソニーPCLで劇場公開に向けて最初のマスコミ試写をしたのは、翌1996年5月22日だった。この時のことはよく覚えている。マスコミ対象とは言え、二千人以上の人たちに一斉に送ったわけではなく、こちらで選んだ限られた人たちに、予め上映時間も断って知らせ、休憩時間を入れて全編を上映した。満席になり、途中、帰った人がいなかったのだが、終了後、Uさんという方から、お手紙をいただいた。

「あんな長時間を一度に上映するのは非常識だ」

精神こころの声』

“Befreier und Befreite”

さて、1995年から1997年ごろにかけての時期には、”BeFreier und BeFreite”(ヘルケ・ザンダー編著)の邦訳書発行の準備にも取りかかっていた。ヘルケ・ザンダーは映画の演出や映画の教師をしていたドイツ人女性である。知り合いの日本人から彼女の映画と著作を紹介され、ベルリンで会った。書名の”Befreier und Befreite”とは、直訳すると<解放する者と解放される者>とでも言ったらいいだろうか。第二次世界大戦終結時、ベルリンを解放したソ連軍兵士に、多くのドイツ人女性が強姦された事実を取材した内容である。

原書には日本人の知らない事実も多く、そのような場合、まずドイツ大使館に問い合わせる。それでもわからない場合は、手紙やfaxでドイツまで問い合わせた。翻訳者の一人、伊藤明子さん(『レニ』の字幕を一緒につくった)と一緒に、時間をかけて、あっちこっちと問い合わせたことを覚えている。邦訳が仕上がり、「1945年 ベルリン解放の真実―戦争・強姦・子ども」の書名で出版に漕ぎつけたところ、好評で各紙の書評で取り上げられた。

一方、映画は3時間を超えていた。見た結果、残念ながら日本では上映する機会を作れない、と断ったのだが、このような作品を作り、上映する機会のあるドイツを羨ましく思った。ちなみに、ドイツの映画製作では、多くの資金を各連邦共和国の補助金で調達している。


ベルリン映画祭での驚き

ところで、ベルリン映画祭に初めて参加したのは、1989年ではなかったかと思う。東西ドイツ統一前で、マーケット部門の会場は、市街の中心、ZOO駅に近いクーダムの細長い商業ビルの一角だった。最初に驚いたことが二つある。一つは、マーケット試写では、ビジネスにならないと判断するや、スタートして一分もしないうちに、音を立てて席を立ち、スクリーンの前を横切って出て行くのだ。ひどい時にはぞろぞろと列をなして出て行く。欧米の業者の割り切りに感心した。もう一つの驚きはマーケットで供される昼食がお寿司の巻物だったことである。

マーケット以外の部門にもせっせと通った。中心地から外れた地味な市民会館のような会場では、ドイツ国内の新作だけを特集上映していたので、そこにも通っていたところ、1996年、その会場で一本のドイツ映画を見た。見た後、プロデューサーが日本配給権は売れてない、と言う。驚いた。ハリウッド映画のようなわかりやすい作りで、感動させられる。日本の配給会社が決まってないとはおかしい、と自分の判断に自信が持てなかったので、映画祭に出席していた、ある日本国内の映画祭のプロデューサーに連絡を取り、

「ぜひ、感想を聞きたい映画がある」と頼んでみた。

<第27話につづく>

中野理恵 近況

お彼岸明けになったが、お墓参りに帰省したところ、最近はペット連れで移動する人も増えたようで、駅前に繋がれ、おとなしくしていた。

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