【連載】ドキュメンタリストの眼⑮『kapiwとapappo アイヌの姉妹の物語』出演者インタビュー text 金子遊


——トンコリ(弦楽器)はどうやって習得したんでしょうか。誰かに習って、それ相当に練習する必要がありそうな楽器に見えますが。

絵美 高校のときは釧路にいたんですけど、沖縄から喜納昌吉さんが来てコンサートを開くことになり、まわりから富貴子とふたりで一緒にライブに出演しろと言われました。実家の料理店の壁にトンコリがかかっていて、教則本もあるというので、ふたりで練習をしたのがはじまりです。

富貴子 アイヌ文化の研究者で千葉伸彦さんという人がいて、その人はトンコリの研究者なので、阿寒湖のコタンに呼んで仲間たちと一緒に勉強した事もありました。

——2011年8月から「カピウとアパッポ」として姉妹で音楽活動をはじめて、その後の5年くらいはどんな感じなのでしょうか

絵美 映画にもでてきますが、最初にライブをやったのが地元の「This is」というジャズ喫茶でした。2回目は東京の早稲田でした。以前レラチセというアイヌ料理店があった跡地に、音楽喫茶「茶箱Sabaco」という音楽バーがあります。チャランケ祭りのあとに、なつかしくてその場所を訪ねたら、オーナーと意気投合しました。わたしがレラチセで働いていた頃に、オーナーは早稲田の学生で、その場所が気に入ってお店をはじめたという。「この場所にアイヌの唄を届けたい」と思い、オーナーも大賛成だったので、自分たちで企画して2012年1月にライブをやりました。その後、札幌にて友達の写真展のお祝いに歌ったりしました。最近になってニューアルバムを制作しました。アルバムのタイトルは『PAYKAR』(2016)です。以前は映画にも出てくるプロデューサーの海沼武史さんとユニットをやっていました。彼は自分のテイストやアレンジを表現する人なんですね。ですが、今度のアルバムでは、わたしたちの歌や演奏をシンプルに、そのまま活かす方向でお願いしました。

富貴子 今回は山のなかに入っていってフィールドレコーディングをして、山の自然音とウポポ(歌)だけで作ってほしいと海沼さんには頼みました。最終的には、彼のアレンジが入っていますが、自分としては納得の出来です。

『kapiwとapappo アイヌの姉妹の物語』より

——絵美さんは4人、富貴子さんは3人の子どもたちの母親であるわけですが、仕事や家庭生活と音楽活動の両立についてお話頂けないでしょうか。

富貴子 今日も姉とふたりで阿寒湖から東京へ仕事で出てきているわけですが、それだけでも家族に多大なる負担をかけているわけです。でも、子どもの成長を見るとそれが励ましになるという面もあります。映画のテーマになっている「カピウポポ」という曲があるんですが、それは「子どもをなんとしてでも育てていく」という母の心をうたった歌です。何歳になっても、毎年毎年その歌をうたうたびに、子どものことをちがった観点から深く想えるようになっています。自分と家族が成長していくなかに、自然とアイヌの伝統的な歌が寄り添っているという感じです。

——身につけたアイヌの伝承音楽を、今度は子育て世代の親として自分のお子さんに伝えたり、地域の子どもたちに教えたりということはあるんでしょうか。

絵美 毎年冬になると、阿寒湖のコタンにあるアイヌ文化保存会で、地域の先輩方と一緒に子どもたちに教えています。小学校の授業にアイヌ語はないけど、「アイヌ語クラブ」といって講師の都合が着いた時に来て頂いて、アイヌコタンの親子が集まって勉強していますね。アイヌ語はまったく話されていないわけでなく、お年寄りのあいだでは、日常生活のなかの単語として残っています。たとえば「ちょっとオコイマ(ちょっとトイレいってくる)」みたいな人前で憚られることはアイヌ語でいう(笑)。「イコロワッサン(お金がない))「クーシンキ(ちょっと疲れた)」とか。「チャロパテク(この人は口ばっかり)」みたいな、日本語で言いづらいこともアイヌ語ならば言えてしまう面がある。

富貴子 それから年に一回、札幌で「イタカンロー」というアイヌ語の弁論大会があります。アイヌの物語=口承文芸(ウエペケレ・ユーカラなど)を暗唱するわけですね。札幌に遊びに行けるということと、参加賞がもらえるということで、子どもたちも熱心に練習しています。優勝すれば、それなりの賞金がもらえるので、うちの子どもたちもがんばっています。そのような場所へ行くと、各地域のアイヌ語に詳しい大人たちの前で、アイヌ語を語ることになるので良い勉強になりますし、この日のために練習して来た子供達や大人達の語りも聞けますし、楽しそうですね。

——最後にこれから映画を見る人たちに対して何かありますか。

富貴子 自分たちのまったくの日常を撮られているので…。しかも、タバコをぷかぷか吸って、お酒を呑んだときの醜態をさらしているわけでじゃないですか。もっと計画的に生きていきたいなと映画を見て反省しています。(笑)

絵美 たがいにぶつかったり、言い合ったり、仲良かったりするけど、これがひとつの姉妹のかたちなんでしょうね。そんなふたりがいるんだな、とあたたかい目で見てもらえればいいのかなと思います。

『kapiwとapappo アイヌの姉妹の物語』より

【映画情報】
『kapiwとapappo アイヌの姉妹の物語』
(2016年/112分/ステレオ/16:9/SD-DV)
企画・監督・撮影・編集/佐藤隆之
出演:床絵美、郷右近富貴子、海沼武史ほか
音楽/メカ・エルビス(サイバーニュウニュウ)

製作:office+studio T.P.S/OLIO FILMS
配給:OLIO FILMS

公式サイトhttp://kapiapamovie.com/

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