【Interview】インスタント・シアターカンパニー『NADIRAH』 アルフィアン・サアット(劇作家)×ジョー・クカサス(演出家)インタビュー

『NADIRAH』より
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――ジョーさんは実際にマレーシアで起きた事件をもとに、なかなか上演しにくいテーマに斬り込んでいらっしゃるとのこと。この作品も、マレーシアで物議を醸す可能性があったとさきほど仰っていらっしゃいましたね。具体的にはどの辺りが一番物議を醸す可能性があったんでしょうか。

cheap viagra 100mg ジョー 私は反応についてはさほど気にしていませんでしたが、アルフィアンはナーヴァスになっていましたね。私はアルフィアンからこの劇のアイディアを聞いた時点で、これはぜひマレーシアでやりたいと思いました。今レーシア人の劇作家で、マレーシアの人々にとって重要な、彼らが感じている社会の壁に斬り込んでいくような人はなかなかいません。付け加えておきたいのは、もともとオリジナルはシンガポールの観客を想定してアルフィアンが書いたものです。上演にあたりマレーシア人向けに書き換えています。

例えば、ファロックは人種的にマイノリティなので、アイデンティティ・ポリティクスに走る側面があります。マレーシアで上演した時はみんなこれがシンガポールの劇だとは思わなかった。何故なら、アイデンティティ・ポリティクスはマレーシア人にとってとても重要な問題だったので、自分のこととして捉えてもらった。

『NADIRAH』で扱っているテーマはどれもマレーシア人にとっては身近で、重要な問題です。私はマレーシア人であれば、例えマレー系でなくても、イスラム教徒でなくとも、誰でも共感を持てる内容ではないかと思っています。マレーシア人の間では違う民族、違う宗教の間で恋に落ちてしまうことはよくあるんですね。クアラルンプールで公演した時は、「私の母がサヒラなんです」と言ってくる人がいました。誰もがナディラ、サヒラのような人を知っている。そういうこともあって、マレーシアでぜひともやりたかったんですね。

Crestor Online アルフィアン マレーシアはかなり過激な人たちが存在するんですね。シンガポールもいますが、マレーシアの人ほどではない。ヤスミン・アフマドの『細い目』は、シャリファ演じるオーキッドが中国系の青年と恋に落ちるという話ですが、どうしてオーキッドが彼に改宗を求めないんだという批判が出てきた。そういったこともあって、クアラルンプールで『NADIRAH』をやることにナーヴァスになったという側面があります。

generic viagra india ――実際にマレーシアで上演された時の反応は、ポジティブなものばかりだったんでしょうか。

cialis for sale online ジョー そうですね。ポジティブなものが多かったんですが、観客によっては、現実を忠実に描いているので、観るのが苦しいというような人もいたようです。反響が大きく、テレビの出演の声が結構かかったんですが、司会者がテレビの回っていないところで、「こういうことが議論の俎上に乗るということはとても嬉しいんだよね」と言ってくれたこともありました。特に実際にやるのではなく、演劇でやったことがよかったと。

――恋に心弾む母、敬虔なイスラム教徒の先輩、イスラム教に無関心な級友など、みなスタンスが違いながらも、生き生きと本当にそこに存在しそうに描かれていたのが印象的でした。それらが宗教的な対立があっても宥和に収束するラストの伏線になっていたと思います。演出で留意された点は。

ジョー まさに5人がそれぞれ違う問題を抱えて、その問題を解決できずに揺らいでいるというのがポイントです。ファロックはサヒラに会いに行くんですが、サヒラは彼に会いたくない。ファロックはよきイスラム教徒としてサヒラの恋人・ロバートに改宗を求めるんですが、ロバートは応じてくれない。ロバートの言うこともファロックに影響を与えない。ナディラはサヒラの心を変えることはできない。サヒラは天国に行くことができるのか分からないという問題を抱えている。みな答えにいき着くことがなく揺らいでいます。

各人物が同じ空間でどう共存するかというのがテーマなんですが、私は美しいパブリック・スペース(公的な空間)を作ることにまず留意しました。舞台美術でいうと柱がその象徴ですね。宗教というのは私的な問題でありながら、公的な問題でもあります。でもそのパブリック・スペースが醜いものである必要はない。美しくあることも可能なんだということを描きたかった。

実は宗教というものは、私たちの暮らす空間の、ありとあらゆるところに存在しています。演劇も、一種の宗教的な空間と言えると思います。劇場に入ると、信じることを求められます。信じないと、演劇を楽しむことはできない。演劇の起源は、そこで存在論的な課題について考えたり、神について問うたというものです。

実際は、『NADIRAH』は内容的にさほど過激なものではないと思います。ただ、助成金も、国家など公的なものは最初から難しいと思い声をかけず、企業などを回ったんですが、やはりそういったことに資金援助すると色がついてしまうということで断られました。やはりマレーシアは表現の自由がないので、劇場という公的な場で私的な議論を持ち出すということが重要だったんですね。国家がコントロールするのではなく、劇場を通してそれをやる。

『NADIRAH』のテーマの一つはパブリックとプライベートな空間の問題だと思います。まさにインスタント・カフェ・シアターを立ち上げた理由もそこにあります。公的な場でそういうことをやっていかなければいけない、「こういうことを言ってはいけない」という国家の締め付けに対して、演劇を通してそういった議論をやっていくということを表明するために立ち上げたのです。26年前に立ち上げた時は、周りの人に「1か月経ったら解散せざるをえないね」と言われました。ですので、国家の締め付けというよりも、人々が持っている恐怖心の方が強いのかもしれません。

私はそういうことをやっていかなければいけない、やる方法を見つけなければいけない、とずっと思ってきました。何故ならヤスミンはそういうことをやってきたから。他者の持っている物語に共感しなければいけない、ヤスミンの映画はそれをずっと訴えてきたと思います。言葉と文化の間で共感を生む、ということが一つのポイントになってくる。自分の人生だけではなく、他人の人生も理解しようとする姿勢が重要で、そうすることで初めて物語を共有することができる。私はヤスミンとはCMをともに共同監督したことがある位で、シャリファほど親しい仲ではありませんでしたが、ずっと一緒に仕事をしたかった。『ワスレナグサ』では私にも役をくれると言っていたのですが…。そういったヤスミンの精神をこれからも継承していきたいと思っています。

(2016年11月12日、池袋にて 通訳=相磯展子)

※1) マリア・ヘルトフ事件

シンガポールで独立前に起きた大きな暴動の一つ。インドネシアにいたオランダ人家庭に生まれたマリアは、5歳の時、日本の占領時期、軍人だった父親が抑留され、母親によって友人だったイスラム教徒のアニマ・モハメッドのもとに託された。戦後の1949年、オランダに帰国していた両親が捜索を依頼し、マレーシアにインドネシアから移り住んでいたマリアを発見する。1950年4月アニマは「養子縁組を正式にするため」とシンガポールに呼ばれた。マリアはその時点で13歳。裁判は当然のように主張が食い違い、個人的な問題が民族、宗教の対立といった構図になる。マリアは8月にイスラム教徒の教育実習生と結婚する。オランダの両親はオランダでは結婚の年齢に達してないと主張し、報道合戦ともなり、最高裁判決では1950年12月11日「マリアをオランダの両親に返すべし」となったが、イスラム教徒はヨーロピアンやユーレイジアンを標的に暴動を起こした。暴動は3日間続き、18人死亡、173人負傷、破壊された車84台となった。

※2)アイデンティティ・ポリティクス

主に社会的不公正の犠牲になっているジェンダー人種民族性的指向障害などの特定のアイデンティティに基づく集団の利益を代弁して行う政治活動。

『NADIRAH』より

アルフィアン・サアット(詩人、作家、劇作家)

シンガポールで最も知られている劇団のひとつであるW!LD RICEの座付き脚本家である。これまでに3冊の詩集、短編集『廊下』(1999)、超短編小説『Malay Sketches』(2012)、脚本作品『Cooling Off Day』(2012)を出版している。脚本家として、シンガポールの演劇賞であるLife! Theatre Awards では、最優秀オリジナル脚本賞に10度ノミネートされ、そのうち『Landmarks』(2005)、『Nadirah』(2010)、『Kakak Kau Punya Laki』(2013)、『Hotel』(2016年)で受賞。また、マレーシアの舞台芸術賞BOH Cameronian Arts Awardでは、『The Secret Life of Nora』(2011年)、『Parah』(2013年)で受賞している。作家としては、2001年に短編小説や詩の分野に贈られるGolden Point Award for Poetryで最優秀賞を受賞。『廊下』、『A History of Amnesia』(2004)、翻訳作品『The Widower』(2016)でthe Singapore Literature Prizeを受賞している。

ジョー・クカサス(劇作家、演出家、俳優)

マレーシアの多様な民族、宗教、文化から起こる緊張関係を、政治的な風刺コメディとして描くことを特徴としている。クカサスの演出作品は、古典から現代演劇まで多岐に渡る。国際共同制作には世田谷パブリックシアターとのコラボレーション作品『あいだの島』(2000)、2005年にインドネシア、タイ、シンガポール、フィリピン、マレーシアの作家、演出家と共同で創作した『ホテル グランド アジア』などがある。2006年にマレーシアで初演した『ブレイク-ィング』は東京とシンガポールをツアーし、2017年には『Raj』『the End of Tragedy』のツアーが予定されているなど、国内外で精力的な活動を行っている。
 俳優としてはマレーシアとシンガポールの両国で高く評価されており、多数の賞を受賞。アルフィアン・サアットの戯曲を演出したものはこれまでに3作品ある。『Cooling Off Day』『Parah』(2011)、そして『NADIRAH』(2009)。

【公演情報】

アジアシリーズ vol.3 マレーシア特集 公演編

インスタントカフェ・シアターカンパニー『NADIRAH』

作:アルフィアン・サアット 
演出:ジョー・クカサス

2016年11月11 日~11月13 日
フェスティバル/トーキョー16にて上演