【自作を語る】日芸生による映画祭「映画と天皇」について text 木村桃子

日本大学芸術学部映画学科映像表現・理論コース映画ビジネスゼミ3年による映画祭が今年も渋谷のユーロスペースで開催される。この映画祭は今年で7回目の開催になる。毎年、「映画祭として面白いか」そして「学生だからこそできる」テーマであるかどうか考え、学生が企画から運営までを行っている。第1回目は1968年という時代に焦点をあて、続いて、女性、映画を学ぶということ、働くこと、マイノリティ、昨年は宗教とこれまで様々なテーマに取り組んできた。そして今年のテーマは「映画と天皇」に決定。

今、学生である私たちが取り組むべきテーマは何か。はじめにゼミ生14人が1人1本ずつ企画を持ち寄った。14本あった企画は会議を重ねていくうち「報道」「検閲」「天皇」の3本まで絞られ、そのなかで「天皇」というテーマが残った。

この企画の発案者であり今年の映画祭のリーダー、山本麻都香さんは小学生から中学生までの約6年間をドイツで過ごした。そのなかで同じ敗戦国であるドイツと日本の戦後のあり方の違いや、日本の天皇という存在、「象徴」という言葉の曖昧さに疑問を抱くようになった。2011年、1月。中学2年生になった山本さんは日本に帰国。その2ヶ月後に東日本大震災が起きた。日本中が大きな不安に包まれるなか、被災地へのお見舞をする陛下と、陛下にお会いすることによって励まされる被災者の方々をテレビ越しに見て、天皇という存在の特別さを感じたという。彼女以外のゼミ生の多くはこれまで天皇や象徴天皇制などについて深く考えることがなかったが、彼女の思いに引っ張られた。

また、昨年8月に陛下が生前退位の意向を表明されたことも、私たちが天皇について考えるこの上ないきっかけとなった。今年は日本国憲法が施行されて70年目の年でもある。象徴天皇制や、自分自身の日常生活は、戦後の様々な変化に伴って今日のような形となっている。歴史は現在に繋がっているのだ。そして現在は未来に繋がっている。大学生として映画を学び、新しく何かを創作したいと思う私たちにとって歴史を学ぶことは必要不可欠であると感じた。そして、天皇や政治、我々の社会について若者が考えるきっかけを、同世代である私たちが身近なメディアであり、時代と密接な関係にある「映画」を通じて与えたいと考えこの企画に決めた。

このような思いを胸に今年の映画祭のテーマが決まってから、作品の選定、交渉を始めた。作品選定を行うなかで私たちは天皇を扱った作品が少ないということに気がついた。そんな状況のなか、大学の先生方に意見を求めたり、様々な文献をあたりながら作品を選んだ。この映画祭がきっかけでこれまで天皇に関する本や文章を全く読まなかった学生が本や新聞を読むようになった。こうして候補に挙がった作品は学生たちで鑑賞し、ラインナップに含めるか意見を出しあった。

作品を選び終えたのちに待っているのが各作品の権利元や配給会社への上映の交渉だ。この交渉も学生が主体で行う重要な仕事の一つである。たとえば今回上映するアレクサンドル・ソクーロフの『太陽』(2005)は日本での権利が切れていて権利元がイギリスにあったため学生が英語でメール交渉を行い、上映を実現することが出来た。また、上映の許可を取るために宮内庁とやり取りを行った学生もいる。学生たちの交渉の結果、今年は14番組17作品の上映が決まった。

映画祭のチラシやポスター、パンフレットづくり、宣伝も学生たちで行っている。チラシやポスターに起用するビジュアルは映画祭の顔だ。どのようなビジュアルデザインが良いかチラシ集めを行い、誰にデザインをお願いするべきか検討した。そしてデザイナーの成瀬慧さんには映画祭に対する思いを伝えてその思いを形にしてもらった。

チラシやパンフレットに載せるコメントの依頼や交渉、また文章の執筆も学生が行っている。どんな人にコメントや原稿の依頼をお願いするか話し合い、今年は例年に比べ多くの方々にコメントや原稿の執筆を承諾して頂くことが出来た。学生が執筆する文章は、天皇に関する言葉、敬語表現などが適切かどうか細心の注意を払い、何重にも確認を重ねている。

SNSなどウェブを使った定期的な情報発信や、新聞や雑誌などにプレスリリースを送り取材の依頼などにも取り組み、これまで「東京新聞」などが今年の映画祭を取り上げてくれた。このようにゼミの一環ではあるものの、学生がほとんど主体で動いている。交渉などにおいては先方とのやり取りもあるため、「責任をもって」自分の役割や仕事を行う強い意識を持つことができた。

映画祭当日は、会場の運営はもちろん、ゲストを招いてのトークショーも学生が取り仕切る予定だ。企画準備を進めるなかで、実際の退位の日程が発表された。2019年4月、平成が終わる。平成が終わろうとしている今、私たちとは異なる世代の方々はもちろん、同世代の若者たちにも「映画と天皇」を考えるきっかけになるような映画祭にしたい。

【上映情報】

映画祭「映画と天皇」

12/9(土)〜12/15(金)の1週間、ユーロスペースにて上映

上映スケジュール 
http://nichigei-eigasai.com/schedule.html

 【料金】

前売り券  1回券 800円            3回券 2100円 (一般・学生ともに)
当日券   1回券  一般  1200円    学生 : 1000円
      3回券  2700円 (一般・学生ともに)

【上映作品】(製作年順)            

『戦ふ兵隊』(亀井文夫/1939/66分/東宝)
『日本の悲劇』(亀井文夫/1946/39分/日本映画社)
『日本敗れず』(阿部豊/1954/102分/新東宝〔国際放映〕)
『孤獨の人』(西河克己/1957/82分/日活)
『攝政宮殿下活動寫眞展覧會御台覧実況』
『史劇 楠公訣別』(不詳/1921/2分/12分/フィルムセンター所蔵35mmプリントを24コマ/秒にて上映)
『明治天皇と日露大戦争』(渡辺邦男/1957/113分/新東宝〔国際放映〕)
『拝啓天皇陛下様』(野村芳太郎/1963/99分/松竹)
『日本春歌考』(大島渚/1967/103分/松竹)
『日本のいちばん長い日』(岡本喜八/1967/157分/東宝)
『軍旗はためく下に』(深作欣二/1972/97分/東宝)
『ゆきゆきて、神軍』(原一男/1987/122分/疾走プロダクション)
『新しい神様』(土屋豊/1999/99分/VIDEO ACT!)
『太陽』(アレクサンドル・ソクーロフ/2005/110分/スローラーナー)
『天皇と軍隊』(渡辺謙一/2009/90分/きろくびと)
『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(若松孝二/2012/119分/若松プロダクション)
『インペリアル 戦争のつくり方』(金子遊/2014/73分/幻視社)

【トークゲスト】    

12/9日(土)
『明治天皇と日露大戦争』田島良一、『インペリアル戦争のつくり方』金子遊監督、
『太陽』渡辺祥子さん、          
12/10日(日)
『日本春歌考』樋口尚文さん 、『11.25自決の日』鈴木邦男さん 、『新しい神様』土屋豊監督
12/11日(月)
『ゆきゆきて、神軍』原一男監督            
12/12日(火)
『戦ふ兵隊/日本の悲劇』阿部隆さん、『軍旗はためく下に』佐藤優さん  
12/15日(金)
『日本でいちばん長い日』半藤一利さん  

【執筆者プロフィール】

木村桃子(きむら・ももこ) 
日本大学芸術学部映画学科。映像表現・理論コース映画ビジネスゼミ3年。