CIFFオープニング会場とレッドカーペット
2018年3月5〜11日に開催され、第8回を迎えたカンボジア国際映画祭。
拙作“Cambodian Textiles” (邦題:カンボジアの染織物) が「Glimpse of Cambodia」というセクションで選ばれ、映画祭の初日から最終日まで滞在した。そんな日本人監督の視点で映画祭を振り返る。
10会場で41カ国から集められた140本の映画を上映!
経済成長著しいカンボジアの首都プノンペンには、外資系のショッピングモールが多数存在し、最上階にはシネコンが併設されている。休日になると多くの若者が恋愛映画やホラー映画、ハリウッド映画などを鑑賞し賑わいを見せているが、公開作品のラインナップに関しては、多様性があるとは言えないようだ。
「本映画祭はカンボジアの文化を発信する貴重なプラットフォームであり、多様な文化や才能に出会うことができる場である」とソフィアップ・チア(Sopheap Chea)氏(ボパナ視聴覚リソースセンター※1・ディレクター)が力強く語るように、7日間で140本の映画を上映するラインナップには、多様な映画を上映し自国の映画産業を成長させていきたいという強い意気込みが感じられる。
満席のオープニング
左側が映画祭プログラマーのセドリック氏。右側がソフィアップ氏
多彩なプログラムと上映会場
本映画祭にはコンペティション部門は存在せず、ひたすら多彩なラインナップで映画が上映され続けていた。主にアジア映画が多かったが、会場の一つにもなっているフランスインステチュートでは短編と長編問わずフランス映画が多数上映されていた。日本からは『 48 years-沈黙の独裁者 』(砂入博史監督)『僕の帰る場所』(藤元明緒監督)『雪女』(杉野希妃監督)『ひろしま』(関川秀雄監督)『恋とさよならとハワイ』(まつむらしんご監督)『大和(カリフォルニア)』(宮崎大祐監督)『カンボジアの染織物』(歌川)の計7作品が上映。また、今回ブータン映画が特集されていた。「ブータンの映画業界は若いが、急成長している。社会的な価値と広告的な価値のバランスを取っていきたい」と語るブータン人監督の言葉が耳に残り、足を運んでみた。典型的なコマーシャルフィルムのような映画も存在したが、短編映画の中にはいくつか素晴らしい作品が存在し興奮した。それらの監督の長編企画に今後期待したい。そして、忘れてはいけないカンボジア映画だが、新作フィクションやドキュメンタリー、クラシック映画などバランス良く上映されていた。
上映会場(ショッピングモール内にあるシネコン)
10個の上映会場は全て市内にあり、タクシー移動だとそれほど時間もかからず、街の雰囲気もつかめる。上映会場にはシネコンが多かったが、1つだけ野外会場が存在した。ダイアモンドアイランドにある結婚式場の裏で地元の若者たちがバイクや車を駐車して、アンジェリーナ・ジョリー監督『First they killed my father』を鑑賞。一般の人達が気軽に映画祭へ参加し楽しめるような野外上映を、カップルや子連れで賑わうデートスポットで行うことによって、新たな観客を開拓しているように感じた。そして何より野外上映は空広く気持ちが良い。
『First they killed my father』の野外上映
バイクの上から映画を楽しむ人たち
アジアの監督達とスンホさんの家でホームパーティ
カンボジアの若手作家のプロダクションAnti-Archiveでプロデューサーを務める韓国人のパク・スンホさん宅でホームパーティが行われた。
ブルネイ、ベトナム、フィリピン、カンボジア、日本、マレーシアなど多彩なメンバーで、キムチとサムギョプサルをほう張りながら、映画の話で盛り上がる。会期中、オープニングとクロージング以外は自分からネットワーキングしないと映画を見るだけになってしまうので、こういった交流の場は非常にありがたい。ひたすら、サムギョプサルをさばいてくださったスンホさんありがとう。フィリピンチームは日本漫画のモノマネを披露してくれ、常に陽気な人たちだった。
サムギョプサルをほうばる映画祭若手監督たち
これからのカンボジア映画界
7日間などあっという間に過ぎ去ってしまう。クロージングでは、「CIFF Talents Award」が発表され、今後期待の若手作家としてNeang Kavich(ニエン・カビッチ)監督が選ばれた。Kavich監督は、カンボジアの象徴的な建築ホワイトビルディングに関する長編映画を製作中とのこと。東京フィルメックスのタレンツ東京にも参加した彼の新作を世界が注目している。
CIFF talent awardを受賞したKavich監督
クロージングイベント終了後は、会場外のスペースでみんなダンシング。ボランティアの学生やスタッフ達もノリノリで楽しそう。私は3年前にプノンペンを訪れたが、その際立ち寄ったイオンモールの映画館はガラガラだった。しかし、現在は休日にもなると人で溢れていて驚いた。これから先、カンボジア映画産業の成長を予感させるには十分なほど、映画祭は若い熱気に満ちていた。来年以降のカンボジア国際映画祭も楽しみである。皆さんも機会があれば、ぜひ足を運んでいただきたい!!
クロージングパーティ後に踊り歌う関係者たち
※1 2006年に映画監督リティ・パンらにより設立された、映画製作の傍ら、カンボジアの視聴覚資料を収集・公開する映像文化施設。
概要は歌川のレポート にも記述されています。
<関連記事>
【Report】旅するシネマの卵たち〜躍進するカンボジアの若手映像作家たち〜 text 宮崎真子
【第8回 カンボジア国際映画祭(CIFF2018)】
3月5日−11日 プノンペンにて開催
CIFF公式サイト:http://cambodia-iff.com/
CIFF Facebook:https://www.facebook.com/cambodiaiff/
【執筆者プロフィール】
歌川達人(うたがわ・たつひと)
北海道出身。90年生まれ。映画監督。現在新たにタイ・カンボジア・日本でそれぞれ企画を進行中。現在はフリーランスでドキュメンタリー映画制作や上映活動など、幅広く映画に携わる。