【Interview】あらゆる人間が望む2つのことは、愛と安全です。 『祝福 ~オラとニコデムの家~』アンナ・ザメツカ監督インタビュー 

初聖体式を映画に導入した2つの理由

―――脚本の話に戻りますと、この映画で鍵となるニコデムの初聖体式は、もともと家族の中で予定されていたことだったのでしょうか。

AZ:初聖体式のシーンを入れようというのは、脚本を書きながら私が考えました。通常、初聖体は7,8歳で受けるのですが、撮影時ニコデムは13歳でしたが、まだ初聖体式を終えていませんでした。というのも、8歳のときは神父が「準備ができてない」と判断して、受けさせてもらえなかったからです。初聖体を受けるということは、ニコデムが一人前の人間だということの証明になるので、家族は何としても受けさせてあげたかったのですが、神父に断られてとても落胆し、もう諦めてしまっていたんですね。そのことを知って、私は家族が今でもニコデムの初聖体式を望んでいるのではないかと考え、「もう一度やってみたらどうかしら?」と提案したんです。

―――映画の構成上は、どのような意図がありましたか?

AZ:
初聖体を映画に入れた理由は2つあります。ひとつは、そのことを通して、ニコデムの宗教観や創造的なものの考え方、詩的な言い方を見せることができるのではないかと考えたからです。聖体式の準備段階で神父に告悔をするシーンがありますが、ニコデムは本当に純粋な子なので、「何の罪も犯してない」と言い張ります。

―――彼は本気で言っているんですよね。

AZ:そうなんです。あのシーンはキリスト教に対してのアイロニーがあります。もうひとつの理由は、これが最も大切な理由なんですが、今ポーランドでは、初聖体は宗教的な意味よりも、家族が集まる機会という色合いが強くなっています。つまり、オラは聖体式に母親を呼ぶことでバラバラになった家族を再び一つにしたいと思ってるんですね。オラにとっては母親というのは、一番の望みであると同時に、痛みでもあって、問題でもあります。これはユニバーサルなテーマだと思いますが、どんな子どもでも家族がほしい、“普通”の家がほしいと願っています。あらゆる人間が望む2つのことは、愛と安全です。この映画の中では、その2つがとても強く結びついています。

―――電話越しの声だけが聞こえていたこの不在の母親が、映画の中で初めて姿を現すシーンが印象的でした。それは母親自身が初聖体のときに撮影されたホームビデオの中の幼い姿です。

AZ:白いドレスを着ていますが、うまく着れなくて、そのときちょっと女の人が画面に出入りするんですけど、その母親らしき人が手伝わないで傍を通り過ぎてしまいます。それはすごく重要というシーンではありませんが、結局オラのお母さんも、子どもだったときに母親の愛情を充分に受けられなかったことを示唆しています。

―――なるほど。白いドレスに目を奪われて気づきませんでした。

AZ:初聖体を受ける子はみな白い衣裳を身につけるのですが、ニコデムも初聖体式のときに白いマントのようなものを着ています。オラは自分の式ではないので黄色いワンピースを着ますが、白い服と黄色いワンピースは、子どもたちが家の中で光を与えてくれる存在だということをシンボリックに見せたいと思いました。あのワンピースは、オラと一緒にお店に行って、彼女にプレゼントという形で買ってあげたんです。その点に関して言えば映画用の衣裳と言っていいと思いますが、もちろんオラはそんなふうには思ってなかったと思います。

―――狭く暗い部屋の中で、窓から射す美しい光は希望を象徴しているようでした。

AZ:そう言っていただいて嬉しいです。私はこの映画を、審美的な観点からも自然光で撮りたいと思い、人工的なライトは使いたくありませんでした。そもそもこの家がとても狭くて、照明機材を入れるスペースがなかったんですけどね(笑)。それから、この父親がすごいヘビースモーカーだったので、煙草の煙が光に反射すると、まるで霧のように美しくなって、パーフェクトでした。子どもたちにとっても健康には悪いけど、もっと吸って!って思いました(笑)。

映画がもっている力を信じて

―――この映画はひとつの家族を描きながら、まるで世界の縮図のようでもあります。それは同じような子どもたちが世界中いたるところに存在するという意味だけでなく、ギクシャクし、複雑に絡み合ったカオスな状況が、現代社会そのものを表しているという意味でも。

AZ:そう見ていただけた方が多かったので、おそらく世界各地で評価されたんだと思います。この映画の中では人間同士のコミュニケーションが本当に上手くいっていません。もちろんニコデムは自閉症ですからコミュニケーションが大変ですけど、オラも愛されてこなかったことで、自分から相手に対して親愛の情を示すのがとても苦手です。母親も逃げてしまったような人なので、彼女との関係性も難しく、父親もアルコール依存症で、子どもを愛してはいるんだけど、彼らを理解しているかというと、問題があります。彼らは愛し合って、一緒に居たがるんですけど、同時になるべくお互いから離れよう、この状況から逃げ出そうというふうにも見えます。初めてオラが嬉しそうな表情をしたのはダンスパーティーのときで、結局、家の外ということですね。

―――そして楽しんで帰ったら家の中がぐちゃぐちゃになっていて泣いてしまう。

AZ:そう。でも、やはり家族で一緒にいたいということで闘い始めます。パラドックスではあるんですけど、何がなんでもこの家に居たいという考えがオラにはありました。だから様子を見に来た福祉士に嘘をついてでも、「全然うちには問題ありません。大丈夫です」と答えて、これ以上家族が離れ離れにならないように頑張ったんです。

―――子どもといっても、大人が思っている以上のことを考えているし、理解しているんですよね。

AZ:だから彼女と一緒に映画をつくるのは大変でしたよ(笑)。頭のいい子で、大人のようだから。どっちがどう相手をマニュピレートするかの闘いでした。

―――そして、この映画を見ることで、実際に自分の周りの子どもたちや家族関係について、改めて考え直すきっかけにもなると思います。

AZ:それはドキュメンタリーに限らず、映画がもっている本来の力だと思います。世界を変えることはできないけども、人間に考えるきっかけを与えることはできる。その意味で、映画にはまだ力があると信じています。

映画写真はすべて©HBO Europe s.r.o., Wajda Studio Sp. z o.o, Otter Films Wazelkie prawa zastrzeżone. 2016

アンナ・ザメツカ Anna Zamecka
ポーランドの映画監督、脚本家、プロデューサー。ワルシャワとコペンハーゲンでジャーナリズム、人類学、写真学を学んだ。ワイダ・スクールでドキュメンタリープログラムを修了。長編デビュー作となる本作で、2017山形国際ドキュメンタリー映画祭ロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)、ヨーロッパ映画賞ほか、世界中の数々のドキュメンタリー賞を受賞。ポーランドのドキュメンタリー映画として、日本国内で一般公開される初めての作品となる。



【作品情報】


『祝福 ~オラとニコデムの家~』
(2016/ポーランド/DCP/カラー/5.1ch/75分)
原題:Komunia/英題:Communion
脚本&監督:アンナ・ザメツカ
撮影監督:マウゴジャータ・シワク
編集:アグニェシュカ・グリンスカ、アンナ・ザメツカ、ヴォイチェフ・ヤナス
音声:アンナ・ロク、カタジーナ・シチェルバ
音響:ドリームサウンド:カツペル・ハビシャク、マルチン・カシンスキ、マルチン・レナルチク
ポストプロダクション:DIファクトリー

字幕:西村美須寿/字幕監修:武井摩利

6/23(土)渋谷ユーロスペースより全国順次公開

http://www.moviola.jp/shukufuku/