【INTERVIEW】『旅するダンボール』を巡って 岡島龍介(ディレクター、エディター、シネマトグラファー) × 島津冬樹(アーティスト) × 汐巻裕子(株式会社ピクチャーズデプト代表、映画バイヤー、映画プロデューサー)

映画『旅するダンボール』より

映画『旅するダンボール』を巡って

岡島龍介(ディレクター、エディター、シネマトグラファー)
×
島津冬樹(アーティスト)
×
汐巻裕子(株式会社ピクチャーズデプト代表、映画バイヤー、映画プロデューサー)

(取材・構成 菊井崇史)

――『旅するダンボール』は、段ボールから作品(財布)をつくりだすアーティスト・島津冬樹さんを巡る「旅する島津冬樹」とも呼べるドキュメンタリーです。アーティスト、作家とよばれる人々をめぐるドキュメンタリー作品には、作家のバイオグラフィーを主に紹介するドキュメンタリー、あるいは作品や活動の内実に迫るドキュメンタリー等、さまざまな切り口がありますが、岡島監督が島津さんを撮るにあたり、撮影、編集等でどのようなことを意識なさいましたか。

岡島龍介 編集作業で気にかけていたのは、島津君の活動をお客さんの感情に向けてどう伝えるのか、どうコントロールするのかということでした。ドキュメンタリーは何が起こるかわからず台本があるわけでもありませんので、構成を考えたり編集作業は基本的には最後の仕事です。一年間、島津君を追いかけて撮りためたフッテージをパズルのピースみたいにテーブルの上にボンと置いて、お客さんの感情を常に想像しながら編集していくんです。

段ボールで財布をつくるという活動自体はとてもキャッチーですよね。島津君を全く知らない人が彼の活動を知った時に、まず最初にいろんな疑問がいっぱい出てくるとおもうんです。何で段ボールで財布なのか? 何でそんなに段ボールが好きなの? そういう疑問がわいてくるということは、みんなが彼に興味をもちはじめたということです。でもその最初の興味は、ちょっと言葉は悪いけど、変わった人とか、怪しい人だなっていう印象だとおもうんです。夜な夜な色んな所に行って街角やゴミ箱からサササササッと段ボールを拾う彼を見て、「あ、普通の人とちょっと違うな」という目線。おそらく、映画を見る人が島津君に興味をもつ最初のキッカケはそこなので、映画もその視点からスタートしています。
その次に島津君の作家としての一面を見せました。彼のつくる財布が今世界から注目されているという側面や、アメリカや中国での活動の映像をそこで挿すことによって、島津君への印象が「実はすごい人なんだ」と一転する。そういう過程を経てはじめて、島津君が段ボールを見るまなざしと同じ目線、ポジションでお客さんは島津君と一緒に新たな発見をする。そんなふうに、お客さんが自然に抱くであろう感情を常に想像しながら構成していきました。

ドキュメンタリー映画を普段見ない人達にもどう楽しんでもらうか? を考えていたので、コマーシャルの映像のようなポップな要素もとりいれながら、お客さんを飽きさせない演出に力を入れています。

――今のお話しをうかがいながら、この映画がいわゆるドキュメンタリーというカテゴライズよりもエンターテイメント・ノンフィクションだと考えていると試写会でおっしゃっていたことをあらためて考えました。制作段階からエンターテインメント・ノンフィクションというワードはでていたのですか。

汐巻裕子 エンターテイメント・ノンフィクションというのは私が言い出した言葉ですが、岡島監督がプロデューサーの意図を上手く汲んでくれました。岡島監督は元々エンタメ志向の監督だということも合致して、『旅するダンボール』が今のテイストになりました。
岡島監督の観客の感情についての話もそうですが、台本は無いけどファウンド・ストーリーみたいなメソッドが組み込まれてるドキュメンタリーが、特に日本ではほとんど作られていないなと感じていたので、それをやろうと。それをエンターテイメント・ノンフィクションと名づけたんです。

映画『旅するダンボール』より

――ドキュメンタリーというジャンルは、ある出来事、あるいは人物の固有性を映し出す作品が多いので、一般的に見る側はその映画に参加するという側面よりも、その出来事を知る、その人物を知るという姿勢で作品に触れる機会が多いとおもいます。まずはそこに映し出される出来事や、人物を知る、知ることから問いがはじまる。けれど、『旅するダンボール』は観客へ「大切なものは何ですか」という実質的な問いかけが導入におかれています。

汐巻裕子 それは岡島君のアイデアです。最初と最後に自分達の言いたい事をはっきりと提案する、こういう映画ですよということを明確に言ってしまおうということです。

岡島龍介 撮影・編集をしながらも常にSXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)Film Festivalのことは頭にあったんです。世界中から8,000本以上の作品が集まってきて審査されるので、選考試写ではなかなか最後まで見てくれないと思ったんですよ。だから、いかに冒頭で見てくれる人の心をキャッチするかということには、ものすごくこだわりました。アヴァンタイトルでは、あえてエンターテイメント性を強調したり、イラストを入れてるのもそういう意図があります。

――この記事を読んではじめて島津さんを知る方もいると思います。映画の中でもおっしゃっていましたが、最初に段ボールで財布をつくるきっかけ、その魅力をお話いただけますか。

島津冬樹 元々は自分で必要なもの、使うものとして段ボールで財布をつくりはじめたのがキッカケでした。その後、多摩美術大学の芸術祭のフリーマーケットで段ボールの財布を売るために、色んな段ボールを集めて初めて量産しました。その時に、拾った段ボールをどれでも財布にすれば良いというわけではないことに気づきました。次の年、大学二年生で初めての海外旅行でニューヨーク行ったんですが、落ちている段ボールがとにかく格好よかったんです。自由の女神とかマンハッタンのビルとかを見るのではなくて、ずっと下を見て段ボールの写真を撮るような旅になって、結局観光もせずに帰って来ちゃったんですよ。それが世界の段ボールに目を向けた瞬間で、世界各地に段ボールを拾いに行きはじめました。

そうやってのめり込んでいるうちに、卒業制作のテーマを「段ボールの付加価値」にしたんです。段ボールが色んな物語を経て自分と出会っていること、段ボールから財布をつくっていくプロセス自体も物語だととらえました。段ボールを時間軸の物語で感じ始めたのが卒業制作でした。卒業制作ではiPhoneケースを作ったんですけど、iPhoneケースのバーコードリーダーを撮ると、その段ボールが出会った瞬間から財布が出来るまでの物語が全部見えるようにしました。

その時に物語性というか、今回の映画にも通じますが、段ボールはただ落ちてるだけではなくて、落ちてるまでに色んな物語があって、そこの奥深さに気づいた。なので、段ボール財布にしても、その段ボールについて自分で語れるものでありたい。展示会で財布選びで悩んでる人がいれば、これはどこで拾ったのかを話すし、いつ頃拾ったかとか、自分でちゃんと語れることは大切にしています。
映画『旅するダンボール』より

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