ドキュメンタリー的なアプローチで撮った『7月の物語』
――『7月の物語』の第1部「日曜日の友だち」は、翌年に撮られた長編ドキュメンタリー『宝島』と同じ場所、パリ郊外のレジャーセンターが舞台になっています。ですから順番としてはフィクションを撮ってからドキュメンタリーを撮っているわけですが、「日曜日の友だち」の中で描かれている出来事が、『宝島』でも実際に起こっているのに驚きました。
GB:実はあのレジャーランドは、子供の頃に両親が何度も連れて行ってくれた思い出の場所でしたが、30年間あの場所には行ってなくて、ノスタルジックな過去の遠い記憶となっていました。ただ、5,6年前からドキュメンタリーを撮りたいと思ったときに、具体的にこの場所を思い浮かべて惹かれていました。それで若い女優たちを連れてあの場所で映画を撮ろうと考えたときに、30年ぶりに実際に行ってみて、働いてる警備員たちに「ナンパとかするの?」「閉園後にどこか秘密の場所に連れて行ったりするの?」といろいろ質問をしたら、彼らがドキュメンタリーが撮れそうな素材をたくさん教えてくれたんです。『7月の物語』を撮ったのはそれを聞いたあとだったので、『宝島』の中にも同じようなシチュエーションが出てくるんです。
――あ、そういうわけだったんですね。
GB:もっと正直に言いますと、「日曜日の友だち」を撮りはじめたときは、私は場所にしか興味がなかったんです。その映画を撮っているときから既にそこでドキュメンタリーを撮りたいと思っていたのと、『7月の物語』を撮っている時点では、そもそもこれが映画として完成した作品になるのかどうかもわからなかったので、ある意味で私にとっては後に『宝島』となったドキュメンタリーのロケハンのようなつもりで撮っていた感じでした。
――これまでの作品ではヴァンサン・マケーニュなど気心の知れた俳優を起用していた監督にとって、今回プロとしての演技経験のない学生たちを使って撮るということは、かなりチャレンジだったと思います。しかし結果的には、その若い役者たちが生き生きとした素晴らしい演技を見せています。
GB:私にとっては本当に大きなチャレンジでした。まったく知らない俳優たちと、どういうふうに関係を築いていったかというと、まずは彼ら一人ひとりと、彼らの自宅で会って、多くの質問をしてインタビューをしました。そのことによって彼らの関心事や人物像が分かってきました。ただ準備期間がなかったのと、現実とフィクションの間のようなものを撮ろうと思っていたので、登場人物を設定するときに実際の彼ら彼女らに近い人物をつくろうとしました。私の映画で登場人物が俳優たちの実際のファーストネームと同じなのも初めてのことですが、この映画の中では、彼ら自身であったり、実際の彼らから離れたり、行ったり来たりしています。ですからある意味でドキュメンタリー的なアプローチだったと言えると思います。結果は、おっしゃってくださったように、彼ら彼女らの瑞々しさというものを保ったまま演技をしていますし、初めてカメラを前にして演技するということもマイナスに働くのではなく、良い経験になったと思います。
『7月の物語』 第1部(「日曜日の友だち」) © bathysphere – CNSAD 2018
出会いを生み出すことでもたらすリアリティ
――昨日(6月7日)のアンスティチュ・フランセ東京で行われた『宝島』上映後のトークの中で、「ヴァカンスというのは異なる階層の人々が出会う場所だ」とおっしゃっていましたが、『7月の物語』を考えたときも、第1部(「日曜日の友だち」)と第2部(「ハンネと革命記念日」)のそれぞれの舞台が、郊外のヴァカンス的な場所とパリということで地理的には対比的にみることもできますが、都市という場所も異なる階層が出会う空間ですから、実は同じ状況を変奏的に描いているとも言えますね。
GB:それは私のすべての映画に共通してることだと思います。『勇者たちの休息』はドキュメンタリーですから、たくさんの人たちが出会うというよりは、人々と私との出会いです。一方でフィクション(『7月の物語』)の方は登場人物たちが出会う話になっています。やはり映画というのは出会いだと思いますし、そうであることに私は興味を持っています。フィクションというのはある意味で普段の生活からちょっと離れたところに行って、その中で何かが起こり、それは決して長く続くことではないけれど、そのときの思い出を残すということです。一方で、ドキュメンタリーを撮っていて感動することは、やはり人々との出会いなんです。映っているのは文化的にも地理的にも私と何の関係もないような、一見とても異なる人々なんですけれど、感情面では非常に近いものを持っている人たちです。私の中にある他性というか、何かしら私が近しいと感じる人、似てると思う人たちを撮っています。
――あなたの映画では、それがフィクションであっても、「今、目の前で起こっている」という感じが強くします。登場人物が抱えているモヤモヤした感情や、本人も意識していないけど内面で蠢いているような感覚が、あるきっかけでアクションとして表面化する。そのリアリティがあります。そしてその顕れ方が、とても現代的な感じがするんです。
GB:私自身も意図してそうやっているのか分からないんですが、はじめから書かれてるものを撮ったり、決められているものを撮っていくというのは、あまり興味がありません。そこには制限があると思いますから。それよりも、何か不確かなもの、私自身映画を撮っていてこの先どうなるか分からないと思えるものを撮りたいですし、分かりすぎる場合には自分自身で何かそこに混乱をもたらして、複雑にして分からないようにするという傾向にあります。そして同時に、映画が現実と結びついているということが私にとってはとても重要なのです。
『7月の物語』 第2部(「ハンネと革命記念日」) © bathysphere – CNSAD 2018
【作品情報】
『7月の物語』(第1部「日曜日の友だち」第2部「ハンネと革命記念日」)
(2017年/フランス/カラー/71分/DCP/配給:エタンチェ)
監督:ギヨーム・ブラック/出演:ミレナ・クセルゴ、リュシー・グランスタン(以上第1部)、ハンネ・マティセン・ハガ、アンドレア・ロマノ(以上第2部)
『勇者たちの休息』
(2016年/フランス/カラー/38分/DCP/配給:エタンチェ)
公式サイト https://contes-juillet.com/
渋谷ユーロスペースにて上映中
京都・出町座7/13(土)~、名古屋シネマテーク7/20(土)~8/2(金)、大阪シネ・ヌーヴォ夏以降 、宇都宮ヒカリ座10/26(土)~11/8(金) ほか全国順次公開