【Review】生きることに向き合う人たちへ!『ラブゴーゴー』『熱帯魚』(チェン・ユーシュン監督)text 住本尚子

『ラブゴーゴー』

ケーキを食べた時の、あの幸せな気持ちを思い出す。甘さが口の中にどんどん広がっていって、いつしか、すっと消えていく。またあの甘さが忘れられなくて、ふたくち、みくち、と口にほおばる。
『ラブゴーゴー』の登場人物たちは、みんな恋をする。その結末がどうであれ、恋する瞬間は、ケーキを食べたときみたい。口の中に広がる甘さみたいな、体中に巡るときめきとともに、この映画は存在している。カラフルな色使いと、遊び心と一緒に!

この映画では、主に3人の視点で、オムニバスのように描かれる。
最初はケーキ職人のアラサー男子、アシェン。初恋の女性、リーホアをお店のお客さんとして見つけてから、なんとも落ち着かない。のど自慢に出ることを目標としたものの、練習をさぼってばかり。アシェンにとっての初恋は、どうやら恋以外の支えとなる部分があったようだ。なかなかリーホアに思いを打ち明けられないでいる中、アシェンは彼女に伝えたい思いを、ケーキの名前につけていく。なんともロマンチックな行為。だけど、肝心のリーホア宛に書いた手紙は渡せないでいる…

アシェンと同じアパートに同居する、ぽっちゃりな女の子、リリーは、ある日、落ちているポケベルを拾ってから、会ったこともないポケベルの持ち主に恋をする。ポケベルから電話番号が届き、ポケベルの持ち主である男性と電話のやり取りをするうちに、会うこととなるのだけど、できるだけやせた姿で会いたいと思うリリーは、ダイエットをはじめる!!あの甘い誘惑に、恋はどうやら打ち勝つらしい…大好きなケーキも食べることをあきらめて、エアロビに顔パックに勤しむ…

アシェンが働いているお店はパンも扱っていて、そこには防犯グッズのセールスマンをしているアソンがあらわれる。セールスをしたいがために、パンをたくさん購入するなど媚を売るものの、防犯グッズは売れる気配がない。とにかく売りたいアソンは、美容院に売り込もうとお店を訪れ、髪を切ってもらうことに。そこの店主は、アシェンの初恋の女性、リーホアであった。リーホアはリーホアで、彼とケンカをしているらしい…

みんな、もやもやしている。
恋をしたとき、好きな人を想うと鼓動がはやくなったり、顔を見たり、声を聴くだけで嬉しくなったりする。だけどなぜだろう、いつも恋には心苦しさがつきまとう。思いが伝えられなかったり、このままの姿では会えないと思ったり。今の自分では、この恋は叶えられそうもないと思うと、どうしても何か自分自身を否定しないといけない部分が出てきて、苦しくなる気がする。
でもそんな否定的な気持ちをも超えて、『ラブゴーゴー』の登場人物たちは、工夫と努力を、惜しげもなく、飾ることなく発揮してくれる!!恋に向かってでもなんでも、叶えたいと思うことに全力で向き合う姿はかっこいいし、ステキだ。セールスマンのアソンだって、そんなに向いていない営業を頑張っている。ここぞとばかりに本領を発揮するシーンがあるのだけれど、こっちもハラハラしてしまう!
そんなまっすぐな人々の側には、ケーキがあった。
作る人と食べる人と買う人と、描く人…!?

ケーキを食べることは特別で、誕生日で買ったり、ひな祭りの給食で出てきたり。お祝い事のたびに現れるあんな甘くて幸せな食べ物を、もしもしょっちゅう食べられるとしたら、幸せの感覚がおかしくなりそうだ。まさに、恋とは、しょっちゅう食べてしまうケーキみたい。だって恋すると、普通じゃいられなくなるもの!!そんな、普通じゃなくなったときに発揮されるスペシャルな歌が、この映画で聴くことができる。勇気を持って恋に立ち向かうその歌は、あなたへの讃美歌となるだろう!

『熱帯魚』

私が誕生日占いという本で、自分のページを見た時、”夢見がちでシャイ”と大きな文字で書かれていて、言い当てられすぎてビックリしたことがある。

小さい頃にはよく友達と漫画を描いたり、物語を考えたり、公園が不穏な空気に包まれたら、謎の怪しい生物がいることにしていた。今はもう随分と大人になったものだけど、実は何にも変わってないんじゃないかと思う。

そして、主人公のツーチャンは、台北で暮らす夢見がちな中学生の男の子。高校受験を控えているが、『超魚人サロマン王』というタイトルの、深海にいる一匹の魚がいて、食べ物は子供の夢で…という話を考えている。(詳しくは映画で!)同級生の、いかにも思春期的な発言ばかりするウェイリーからも、もうじき高校生になるのに、頭の中はどうなってんだ?と言われる始末。

そんなツーチャンがゲームセンターで出会った少年が、なんと誘拐されたと言うニュースをテレビで見つける。ツーチャンたちがタバコを吸っている時に話しかけてきた男が、その少年と一緒にいるところを目撃していたツーチャンは、犯人を知っている!と言うものの、誰も相手にしない。周りの大人たちはみな、高校受験に必死だ。

ある時、犯人の仲間が荷台のある車を運転しようとしているところを目撃し、助けなければ!と思い、荷台に乗り込む!すると、案の定、その少年と誘拐犯が荷台に乗っていた!

ここから自主的に参加した誘拐犯との旅が始まっていく。

またこの誘拐もうまくいかない!主犯の男は元警察官らしく、お金を受け取ろうとした時も、元仲間の警察官に話しかけられたり、事故に巻き込まれていなくなってしまう!その仲間であった、車の運転をしていたアケンも、主犯の男が社長だったらしく、命令に従っていただけだった。

取り残されてしまった被害者の3人。アケンは一生懸命二人に食料を用意するものの、できることも限られており、実家に帰り家族に相談。またこの家族がかなりファンキーで、誘拐になんと協力的!そこは警察に自首しに行こうとはならないのか!と思うものの、ツーチャンと少年とまるで家族の一員のように生活し始め、ツーチャンが受験生だと知ったらなおさらのこと、勉強しなよと、アケンの妹であるチュエンが使っていた教科書などを貸したりした。優しい人たちに囲まれた、不思議な受験勉強が始まるのである。

ツーチャンの思い描く夢の物語とは違うけれど、この家族と出会えたことは、きっとツーチャンにとって、かけがえない時間だったと思えるようになる気がする。

受験勉強という、なんとなくかったるいというか、こんなもの必要なのか?と思うようなことでも、受験できない家庭環境の人もいる。チュエンがまさにそうだった。

そして映画の後半、一言も言葉を交わさなかったチュエンから、ツーチャンは手紙とプレゼントを受け取るのだった。

夢を見ることは、誰にだってできると思っていた。でも、夢見ることを諦めざるを得ない人が、この世の中に沢山いる。諦めなければいいという人もいるかもしれないけれど、きっとそうじゃない。夢を見れるということは、周りの支えがないと出来ないことだってある。一人で夢を叶えた人もいるかもしれないけれど、誰かが必ず協力してくれたり、私たちの周りにはたくさんの人達がいる。その事に、私たちは気付けているだろうか?

私が今だに、”夢見がちでシャイ”でいられるのは、そんな私を周りが尊重していてくれたからだ。

夢を見られるということは幸せだ。

チェン・ユーシュン監督は、夢見るすべての人たちへ、この映画を捧げている。


『ラブゴーゴー』
(1997年/113分/台湾/監督:チェン・ユーシュン)
原題:愛情来了 Love Go Go
配給:オリオフィルムズ、竹書房
日本初公開:1998年12月12日

『熱帯魚』
(1995年製作/108分/台湾/監督:チェン・ユーシュン)
原題:熱蔕魚 Tropical Fish
配給:オリオフィルムズ、竹書房
日本初公開:1997年4月5日

8月17日より新宿ケイズシネマにてロードショー 以後全国順次公開

公式HP:https://nettai-gogo.com/

【筆者プロフィール】

住本尚子(すみもと・なおこ)
広島生まれのイラストレーター。チェン・ユーシュン監督の幻の名作『熱帯魚』『ラブ ゴーゴー』は、8/17(土)からK’s cinemaにて、デジタル修復をへて公開されます!どちらもこの高温多湿なバテてしまう日本で観るべき、優しさとみずみずしさで、心晴れやかになることでしょう!