コロナ禍で国境を越えたアーティストの移動や、上演作品の招聘が困難となるなか、映像を通じて、世界や日本各地で活躍する表現者の取り組みにフォーカスする配信プログラム8本がラインアップされている。
東京芸術祭は、東京の多彩で奥深い芸術文化を通して世界とつながることを目指し、2016年から毎年秋に、東京池袋エリアで開催している国際舞台芸術祭。本年は「歴史のまばたき」をテーマに9月1日(水)〜11月30日(火)までの91日間にわたり開催されている。
会期後半の11月に試聴可能な8本の配信プログラムは、国内外の実力派によるダンス作品や、フィクションとドキュメンタリーが交差する映像作品、舞台芸術と映像・配信の関係そのものを議論するシンポジウムやディスカッションまで、多彩な内容となっている。
中でも注目は、演出家、劇作家、ジャーナリスト、映画監督と多彩な顔を持つミロ・ラウ作・監督の『The New Gospel – 新福音書 –』。ヴェネツィア国際映画祭やアムステルダムのIDFA映画祭、ジュネーブのFIFDH、ロカルノ映画祭など、数々の映画祭で高い評価を得た作品だ。
視聴方法などの詳細は、公式HPへ
https://tokyo-festival.jp/2021
配信プログラムラインアップ ※11月1日以降に試聴可能な作品
●『The New Gospel – 新福音書 –』(映画)
作・監督:ミロ・ラウ
11月13日(土)〜11月28日(日)
視聴券料金:1,500円
トレーラー https://youtu.be/069bdzS5BG4
現代に問いかける、連帯と革命のための受難劇
演劇を用いて現実に起きた事件や事象と向き合う劇作・演出家、ミロ・ラウ。映画監督、ジャーナリストとしても活動する彼が、パゾリーニやメル・ギブソンがキリストの物語を撮ったロケ地・南イタリアのマテーラを舞台に、今日的な「福音」の映画をつくりあげた。 キリストを演じるのは、カメルーン出身の政治活動家イヴァン・サニェ。マテーラでは農場労働での搾取を始め、多くの移民が非人道的な扱いを受けており、映画では、サニェと移民たちが参画する人権運動「尊厳の反乱」の様子と、彼らと一般市民、俳優らが演じるキリストの受難の物語とが併行して描かれる、現代文明とそこに生きる者の人間性とを鋭く問う、町ぐるみの受難劇。(2020年公開)
●ロロ『Every Body feat. フランケンシュタイン』(演劇)
原案:メアリー・シェリー「フランケンシュタイン」
脚本・演出:三浦直之(ロロ)
11月11日(木)~11月30日(火)
視聴券料金:2,000円
撮影_阿部章仁
死者をパッチワークしながら生きる「怪物」。
その正体は──
古今東西のポップカルチャーをサンプリングし、「ボーイ・ミーツ・ガール=出会い」の物語世界を立ち上げる劇団ロロ。高校演劇活性化を目指した『いつ高』(2015〜)シリーズなど、若者たちの賑やかな喧騒、瑞々しい心模様を描いてきた彼らが、メアリー・シェリーのゴシック小説『フランケンシュタイン』を大胆に翻案、シリアスな新境地に臨む。 死者のパッチワークから生み出された怪物は「悪しき存在」だったのか。創造主・フランケンシュタイン博士の罪、皮膚のつなぎ目が露呈する死者と生者の曖昧さに迫るロロ版『フランケンシュタイン』。そこに息づく「怪物」の正体とは──。
●Baobab『ジャングル・コンクリート・ジャングル』(ダンス)
振付・構成・演出:北尾 亘(Baobab)
11月18日(木)〜11月30日(火)
視聴券料金:2,000円
Photo_by_Manaho_Kaneko
多様な身体が踊り、交差する パンデミック後の世界に贈る生命讚歌
総勢21名のダンサーが原始から近未来までを駆け抜ける「生命讚歌」として好評を博した、ダンスカンパニーBaobabの『ジャングル・コンクリート・ジャングル』(2019初演)がリ・クリエーションされる。土着的な匂いを残す身体、躍動感あふれる振付、社会への真摯な眼差しとエンターテインメント性を併せ持つ作風で知られる同カンパニー。過去作に新たな展開をもたらす「Re:born project」シリーズの一環でもある今作では、パンデミックを経た世界へ向け、失われつつある肌感覚を奪還し、異なる身体、生命が出会い、共生するビジョンが描かれる。
●きたまり/KIKIKIKIKIKI『老花夜想(ノクターン)』(ダンス)
原作:太田省吾 振付・演出:きたまり
11月18日(木)〜11月30日(火)
視聴券料金:2,000円
撮影_阿部章仁
身体で言葉を掬いとり、織りなす老娼婦の時間
マーラーの全交響曲を振付するプロジェクトをはじめ、領域横断的なアプローチで身体表現を追求してきた振付家、ダンサーのきたまりが、戯曲のダンス上演に取り組む。シリーズ化を見据えた第一弾ともなる今回、取り上げるのは、太田省吾の『老花夜想(ノクターン)』。のちに『水の駅』などの沈黙劇を手がける太田の初期戯曲だ。 本作では、12名の登場人物による、老娼婦をめぐるコミカルかつ酷薄で切ないやりとりをふたりのダンサーの身体と唄・囃子・太棹三味線の生演奏が担い、「老い」の背景に積み重ねられた時間を鮮やかに露出させる。言葉とつながりながら、言葉としては現れない「上演」は、演劇とダンスの境界線を見つめ、揺るがすものともなるだろう。
●オンラインディスカッション「映像のパフォーマンス」
スピーカー:岡田利規、竹下暁子、深田晃司
10月29日(金)〜 11月30日(火)
視聴料金:無料
視聴URL https://youtu.be/55GXNFGgEEw?t=3
カメラを通じて考える「上演」のゆくえ
新型コロナウィルス感染拡大の影響を強く受ける舞台芸術。演じ手と観客とが同じ空間を共有する親密さを遠ざけることで、今、何が起きているのだろう。加速する舞台映像配信などを例に、アーティスト、プロデューサー、さらには演劇を知悉する映画作家それぞれの視点から、カメラを通じた「上演」の可能性を語りあう。
●オンラインディスカッション「公共空間でつくる意味」
スピーカー:北澤 潤、毛利嘉孝、ラファエル・トリュニャン
11月13日(土)〜 11月30日(火)
視聴料金:無料
地域と「変わる」プロジェクト
商店街や公園、広場などの公共空間で展開されるアートプロジェクト。地域を知り、地域と共に取り組むそのプロセスには、思いもかけない出会いがあり、時には企画のかたちをも変化させる。そうしたプロジェクトに携わるアーティストたちは、どのような「変化」を経験し、何を思考してきたのか。さまざまな土地での経験をもとに語り合う。
●【シリーズ・持続可能な舞台芸術の環境をつくる】東京芸術祭2021シンポジウム
「ライブでしか伝わらないものとは何か? 〜教育、育児、ダンスの現場から〜」
登壇者:佐藤 学、開 一夫、北村明子
配信中〜 11月30日(火)
視聴料金:無料
視聴URL https://youtu.be/lvUZYccZM28?t=3
「生」で出会えないと、何が失われるのか?
コロナ禍により一気に身近になった舞台芸術のオンライン配信。デジタル化による収益力強化の研究があらゆる業界で進行している。だがこの経済構造では、「生」でしか伝えられないことについての知見はなかなか出てこない。教育や育児のデジタル化の功罪を最前線で見つめる研究者、そして身体と身体のあいだで生じる出来事を世界各地で体感してきたアーティストの意見交換を通じて、「生」で出会うことの意味を再発見していく。
●【シリーズ・持続可能な舞台芸術の環境をつくる】東京芸術祭2021シンポジウム
「アジアから舞台芸術と民主主義を考える ~タイ、台湾、フィリピンの現場から~
登壇者:ササピン・シリワーニット、リバー・リン、JK アニコチェ
11月上旬より〜 11月30日(火)
視聴料金:無料
ローカルな実践から考える、これからの「自治」のしくみ
コロナ禍を名目として民主化を要求する集会が禁止され、一方で急速なデジタル化が格差拡大を加速させていく。世界中で民主主義の危機が深刻化するなかで、他者の身体を前提とする小さなメディア=舞台芸術は、どのように人々とつながり「公共空間」を立ち上げることができるのか。アジアの舞台芸術をリードしてきたアーティストが集い、それぞれのローカルな実践から、これからの「自治」のしくみを考えていく。