【Interview】「日々のできごと」として”魚市場の閉場”を撮る 『浦安魚市場のこと』歌川達人監督

映画『浦安魚市場のこと』より

編集について

―――最後に編集や構成についても、少しお聞きしたいと思います。
編集にはどのぐらい期間をかけましたか。

歌川 編集は…苦労しましたね。いろんな要素を入れたいと思って、閉場が2019年だから3年くらいかかりましたけど、その間、少し編集して時間を空けてもう一度みてみるという、編集の秦さんに提案していただいたスタイルが面白かった。いきなりこうなりました、こうすべきだ、じゃなくて、アイデアが出たらとりあえずやってみて、微妙だったらまた変えて、というプロセスをちゃんと踏んだ。議論して、意見をもらうみたいなやりとりを、時間をかけてやったんです。公開までの制約などがあると、そこまで時間が割けないことも多いですから、貴重でした。

秦さんと、最初のシーンをすごく悩んだんですよ。悩んだ結果、最初の10分15分で魅力的な世界に引きずり込むことを重視するよりは、映画を全部見終わった時、今までと違ったように外の世界を感じられる、人や場所の見方が変わるような体験になっているか、という点を意識しました。森田さんも、浦安の街もそうだし。

ーーーテレビだったら「浦安魚市場が閉まりますよ」という情報から入ったかもしれませんが、それを言わないですもんね。テロップとかナレーションも無く、見ているうちにわかってくることが多いのもこの映画の特徴だと思います。そこはどうお考えでしたか。

歌川 映像って、ぽんと撮ったらそれだけで詳細に伝わる部分があるから、言葉ではなく、映っているものを見て、自分で感じることがすごく大事だと思います。映画館の暗闇で見るものだから、意識的に映像だけで伝えることをやらないと、情報過多になってしまう。最小限これはなければ文脈がわからないなみたいなところは、場所などのテロップを入れています。

映画『浦安魚市場のこと』より

ーーーあとは、写真集や展示の話をさきほど聞きましたが、白黒映像とか、もうちょっと時が経ち、ディズニーランドに土地が買われていく時代の浦安市長の話とか、過去の映像を効果的につかわれていましたね。どんな考えで入れたのですか。

歌川 単純に昔の写真や素材が好きというのもありますが、やはりあの場所がどういう文脈で成立しているのかがあると無いとでは見え方が変わってくるので、説明的じゃない形でイメージの共有をしたいとは思って。試行錯誤の結果、使えるイメージがいろいろ見つかりました。「ここは昔、漁師町だった」と語ることは、それはあくまで言葉です。文脈にもよりますが、言葉を聞くことと、映画にあるフッテージのイメージを見ることは全然違うと思うんですよ。フッテージは強いなと改めて思いました。

―――最後に、改めて映画という形にして思ったことや、気付いたことってありますか。

歌川 余談ですが、タイトルは迷った末に「浦安魚市場のこと」にしたんです。映画の出し方や見てもらいたい方向としては、あの場所の力や魅力などで間口を広くして、いろいろ発展させたい思いもあって、けっこう議論しました。「浦安魚市場」ってしちゃうとワイズマンだし(笑)。結局、『浦安魚市場のこと』にした方が、程よい距離が取れているって。私が見た、何をした、という要素を入れたほうが良いと、その距離がこの作品においては自分の作家性だと思ってつけたのですが、それは、今後も自分のスタイルで創作していくぞ、という示唆にもなった気がします。

映画『浦安魚市場のこと』より

*1 アメリカのドキュメンタリー映像作家。「競馬場」「臨死」「ボストン市庁舎」などの作品があり、いわゆるダイレクト・シネマ、オブザベーション・シネマ(ナレーションなどを加えず、素のままの現実を切り取るスタイル)の大家と言われている

*2 標準レンズと言われ、一般に人間の目線に近いと言われている

【監督プロフィール】
歌川達人(うたがわ・たつひと)
1990年10月6日生まれ、北海道出身。映像作家。主にドキュメンタリーのフィールドで活動する。立命館大学映像学部卒業後、フリーランスとしてNHK番組やCM、映画の現場で働く。初監督ドキュメンタリー『カンボジアの染織物』がカンボジア、スペイン、ブラジルで上映され、ギリシャのBeyond The Borders International Documentary Festival 2018 コンペティション部門審査員特別賞を受賞。中編『東京2018 プノンペン』がFestival/ Tokyo18にて展示上映。短編『時と場の彫刻』がロッテルダム国際映画祭2020、Japan Cuts 2020などで上映。一般社団法人Japanese Film Project 代表理事。

作品情報】
浦安魚市場のこと
(2022年/98分/DCP/ドキュメンタリー)
監督・撮影・録音・編集・製作:歌川達人 
編集:秦岳志 整音:山本タカアキ カラリスト:田巻源太(Interceptor)
音楽:POSA(すぎやまたくや&紫藤佑弥)
プロデューサー:長倉徳生 植山英美 歌川達人 
製作:有限会社カサマフィルム
配給:Song River Production

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