【追悼】岩佐寿弥監督を悼む text 佐藤寛朗 (neoneo編集室)

 

さる5月4日、岩佐寿弥監督が亡くなられた。78歳だった。

5月3日に宮城県大河原市で行われた『オロ』上映会の後、宿泊先で階段から転落し、脳内出血で亡くなったという。このゴールデンウィークも各地で上映会が予定されており、
精力的に舞台挨拶や講演活動をされている矢先のことだった。最近もお元気な姿を拝見していただけに、余りに突然の訃報に言葉を失った。

岩佐監督のキャリアにおいて、ドキュメンタリー映画史的に特筆すべきことは、氏が岩波映画出身者で構成される「青の会」のメンバーであったことだ。60年代初頭、新宿のバー「ナルシス」を拠点に、黒木和雄、土本典昭、小川紳介、東陽一、鈴木達夫、大津幸四郎、奥村祐治、田村正毅など、そうそうたる面々が「自分たちの表現」を志して議論を重ねていたこの集まりに、岩佐監督は若手の演出助手という立場で参加していた。『彼女と彼』(1961 監督:羽仁進)『ある機関助士』(1963 監督:土本典昭)『とべない沈黙』(1966 監督:黒木和雄)などの作品にも氏の名前はクレジットされているが、土本、黒木らとの交流はその後も生涯に渡って続いており、影響の大きさが伺える。

neoneoでは、編集委員・金子遊が2012年に「ドキュメンタリストの眼」シリーズの一環として、ロングインタビューを試みた。そこでは少年時代の敗戦の記憶から、岩波入社を経て、代表作『ねじ式映画〜私は女優?〜』(1969)『叛軍No.4』(1972)『眠れ蜜』(1976)に至るまでの製作経緯や映画の内容が詳しく語られている。

【前編】http://webneo.org/archives/4903
【後編】http://webneo.org/archives/7057

詳細はインタビューをお読みいただくとして、興味深いのは、一般に「前衛的」「アバンギャルド」と評される岩佐監督の作風がどのような思考過程を経て生成されたかが、氏の映画哲学と共に明かされている点だ。一部を抜粋する。

「表現」というものは元より虚実被膜の間にあるのだから、そのことを内に抱え込めばいい

「描く」という位相ではなくて、「映画をする」という観点から作っていく。映画は行為の連続ですから、映画とは何よりも「時間」だと言えます。

「現実を虚構化し、虚構を現実化するわけですから。現実なのか虚構なのか不分明であるような状態。それが私の好きな時間芸術としての映画です」

今でこそドキュメンタリー映画に虚実の交錯を持ち込むことは珍しくなく、「モキュメンタリー」というジャンルが確立されたり「ドキュメンタリー主観論」が横行するような時代だが、岩佐監督がこの時期手掛けた3本の作品は、当時としては極めて先鋭的なものに仕上がっている。それは、土本・小川に代表される強烈な「社会的な闘争の現場」の映画に対して、自分の映画の現場とは何か、それがどこにあるのかを意識的に考え続けていたからに他ならない。

俳優や映画人という社会のなかであやふやなところに立っている職業、そうした者同士が、そのこと自体を抱え込んだときに、逆説的にようやくしっかり足を地につけて何かを始めることができるのではないかと考えました。

70歳代になった近年も創作意欲は衰えず、紀行番組で世界中を旅しながら、興味あるものにカメラを向けた。デジタルカメラの時代になって、チベットに生きる老婆を追った『モモチェンガ』(2002)から、少年との交流が瑞々しい昨年の新作『オロ』(2012)へと至り、さらなる展開が期待されていただけに、極めて残念である。

心よりご冥福をお祈りいたします。

『オロ』より

■岩佐寿弥フィルモグラフィー

『ねじ式映画~私は女優?~』(1969 年/100分/35mm)
制作:シネマ・ネサンス撮影 佐藤利明 、浅井隆夫 出演:吉田日出子ほか
『叛軍No.4』(1972年/98分/16mm)
制作:「叛軍」製作集団 撮影:堀田泰寛 録音:岡本光司 出演:和田周ほか
『眠れ蜜』(1976年/100分/16mm)
制作:平田豪成、坂本時久 脚本:佐々木幹郎 撮影:田村正毅 美術:渡辺睦
音楽:福山敦夫 出演:根岸とし江(季衣)、長谷川泰子、吉行和子、和田周、岸部シロー 
『モゥモチェンガ』(2002年/104分/ビデオ)
制作:工藤充 撮影:田宮健彦 整音:久保田幸雄 音楽監督:高橋悠治 ナレーター:吉行和子
『オロ』(2012年/108分/ビデオ)
プロデューサー:代島治彦 音楽:大友良英 撮影:津村和比古 編集:代島治彦 整音:滝澤 修

※その他、 TV番組を多数演出

■ neoneo web 記事まとめ

【ドキュメンタリストの眼④ 】岩佐寿弥インタビュー(前編) text 金子遊
 http://webneo.org/archives/4903
【ドキュメンタリストの眼⑤】 岩佐寿弥インタビュー(後編) text 金子遊
 http://webneo.org/archives/7057 
【自作を語る】 『オロ』 自作を呟く text 岩佐寿弥
   http://webneo.org/archives/2279

【執筆者プロフィール】

佐藤寛朗 さとう・ひろあき
1976年生まれ。neoneo編集委員。岩佐監督との接点は一度だけ、neoneo坐で『ドキュメント路上』『原発切抜帖』(共に土本典昭監督)の上映でゲストに来ていただきました。のっけから「君は「アバンギャルド」という言葉の使い方を間違えている」と“指導”。しかし優しく丁寧に、表現としての“アバンギャルド”を一から解説して頂きました。とても紳士的な方でした。合掌。