【リレー連載】列島通信★名古屋発/「映像アート90年史 ~愛知県文化情報センター所蔵作品を中心に~」の舞台裏 text 越後谷卓司

ルネ・クレール『幕間』(1924年) アートライブラリー蔵

愛知芸術文化センターでは、2013年6月7日(金)~9日(日)、18日(火)~20日(木)の会期で、「映像アート90年史 ~愛知県文化情報センター所蔵作品を中心に~」を開催している〈http://www.aac.pref.aichi.jp/bunjyo/jishyu/2013/13jyoei/index.html〉。

会期のちょうど中間の12日(水)から16日(日)まで、「イメージフォーラム・フェスティバル2013」を開催しており、トータルで約二週間、映像アートと呼ばれる、実験的、先鋭的な映像表現に触れる機会となっている。

「イメージフォーラム・フェスティバル」が“映像アートの祭典”として、実験的な映像作品の新たな動向を紹介するものであるとすれば、文化情報センターの所蔵作品を軸にプログラムを構成した「映像アート90年史」は、今日の映像表現の新しい動向に到る、実験映画やビデオ・アートなどの歴史的な流れを、入門者や初心者向けに、凝縮して伝えるものだといえよう(とはいうものの、前半のプログラムを終えたところでアンケートを読むと、『黄金時代』(1930年、監督:ルイス・ブニュエル)や『幕間』(1924年、監督:ルネ・クレール)あたりの作品に、「前衛的過ぎてさっぱり分かりませんでした(涙)。」といったコメントが寄せられたりして、既に歴史的には古典作品と位置づけられるものであっても、決して時代に流されて古びてしまった訳ではないのだな、と思ったりしている)。

これまで当センターでは、こうしたクラシック作品を可能な限りフィルムで上映する様、心がけてきたのだが、上映会の予算が圧縮されてきたこともあり、今回は、アートライブラリーが所蔵するレーザーディスク(LD)を使用することになった。当センターが開館した約20年前に購入したものだが、上映権付きで販売されていたディスクで、かつ上映会場のアートスペースAにLDプレーヤーが残されていたこともあり、販売元の了解も得て上映することができた。LDというと、既にオールド・メディアという印象があるのだが、この様な形で活かせる時が巡ってくると、古いものだからといって簡単に破棄しなかったのが良かったな、とつくづく思えてくる。

所蔵作品を中心にした上映会なので、外部との出品交渉はそれほどなく、準備も楽になるのかな、と思っていたが意外にそうでもないのである。今回の場合、所蔵するビデオ・アート作品の上映用テープが劣化していて、モニターで見る分には問題なかったが、上映会場の大きなスクリーンに投影すると画面がガタつくなど不具合が生じることが、事前のチェックで判明した。これらのテープも作成して20年くらい経過しているので、こうした現象が起こるのもやむを得ないだろう。当センター所蔵のビデオ・アート作品の多くは、館内に限ってダビングの権利を有するサブ・マスターであることが幸いしたが、保管室にある元テープから、上映用素材を新たに作成するという作業も必要だった。

アートライブラリーでは、所蔵ビデオ・アート作品の他、演劇やダンスなど公演の記録映像も公開している。開館した1992年頃に作成したテープの中には、頻繁に視聴されて劣化し、再生出来なくなってしまったものもある。この上映会の準備で、いくつかの作品を再ダビングしたのに合わせて、不具合がある公演記録の閲覧用テープを再作成したのだが、中にはオリジナルのβカム・テープの信号が、全体にレインボー・ノイズがかかった様な減衰した症状を起こしていて、残念ながらマスターとして使用できないものもあった。これも幸運だったが、7年前の平成18年度に館内のコンピューター・システムを更新した際、映像機器はDVCAMをメインにすることとなり、Uマチックやβカム・テープもDVにダビングしていて、そちらが綺麗に残っており事なきを得た、という出来事もあった。

マスターのβカムがダメになっていても、閲覧用に作成したVHSテープが、ハイ・グレードやマスター・グレードといった高品質テープの場合、そちらの方は大丈夫だった、というケースもあるので、これらのテープも消耗品としてぞんざいに扱わない方が良いと、同種の仕事に携わっている方々には情報としてお伝えしておきたい。

【執筆者プロフィール】

越後谷卓司 (えちごや・たかし/愛知県文化情報センター主任学芸員) 
1964年東京生まれ。今年8月10日(土)~10月27日(日)に開催される、現代アートを軸にした複合的な国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2013」では、映像プログラムを担当。「映像アート90年史」の開催と並行しつつ、その準備の最終段階に取りかかっ ている。

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