【Interview】『繩文号とパクール号の航海』 水本博之監督インタビュー



関野さんの凄いところは、好きにやらせてくれるところ

――撮影者の存在というフィルターを感じさせず、航海のようすにダイレクトに接してもらいたい、という気持ちも理解できます。関野さんと水本さんとの間で、表現を巡って鍔迫り合いになることはよくあったのですか。

水本 多少は、程度です。関野さんは首を傾げるところがあっても、ダメだ、と頭ごなしの言い方はしませんし。僕は僕で意図を説明して、その都度、折り合いをつけていく感じで。

関野さんは基本的に、好きにやらせてくれるんですよ。

僕はペーペーの学生あがりで、ドキュメンタリーの現場で腕を鳴らしてきたわけでもありません。自主作品を作ってきた自信は多少あったし、自信がまるっきり無いと撮れないとも思っていますが、それだけですからね。やりたいことがある、のみを糧に動いていて。
そんな僕に、映画を1本任せてくれましたから。そこは凄いと思うところです。

――「今は世の中のスピードが早いから、若い人が失敗しても何かをやるのを待てなくなっている」と関野さんが何かのインタビューでおっしゃっているのを以前、読んだ記憶があります。

水本 医学部ですけど、30過ぎまで大学生やっていた人ですからね。南米じゅうをほっつき歩いて(笑)。当時は、本当に沢山の人に世話してもらいながら旅をしていたらしいですから。その経験が根本にあるんじゃないでしょうか。何をやるにしても、1年や2年で結果は出なくてもいい、というか。

実のところ、僕はこの航海が失敗に終わっても、それならそれでいいと思っていました。関野吉晴の探検を肯定するために作る映画じゃないから。
関野さんには、一緒に旅をする仲間だけど、探検家としてはマイナスになるかもしれない場面があっても撮影はしますよ、と伝えてはいたんです。もしも矛盾点が出てくれば、映画としてはむしろそっちのほうが面白くなりますし。語弊があるかもしれませんが、状況さえ描ければ、例えゴールできなかったとしても映画にはなるし、できると思っていました。

――やっと石垣島に到着して、しかし映画はそこで終りませんね。抱き合って喜びを共有するハッピーエンドにすれば出来るものを、到着して、さてどうしよう……と、微妙な間があるようすまで描いている。するとエピローグは、マンダール人たちが「日本に行ったら乗りたい」と言っていた新幹線に、実際に乗るところまで続く。この映画の、非常に重要なところだと思います。

同時にそれは、序盤の、日本から来たプロフェッサーに「昔ながらの工法で舟を作ってほしい」と依頼された時の、インドネシアの村の首長の戸惑った表情と、見事に対になっている。

水本 僕自身は、古代人の追体験をするため、舟づくりも文明の利器に頼らず……という考え方と実践に、丸ごと惚れ込んでいるわけではないんです。

一方でマンダール人は途上国の人たちだから、文明の発展に憧れています。新幹線に乗ってみたいし、携帯電話もあれば欲しいし。もちろん彼らだって、いきなり東京の生活の中に放り込まれたらノイローゼになってしまうでしょうけど。
新幹線に乗った彼らが喜んで楽しそうにしてくれるのは、同行して撮っていて、ああ良かったな、と素直に嬉しかったですよ。

だけど、日本人も、かつてはそうだったわけでしょう。
がんばって物質的に豊かな国になって、時間に追われるようになり、今になって生き方の見直しを迫られている先進国の人間と、これからそうなりたい途上国の人間。向かうベクトルが違っている者同士が、同じ船で暮らしながら航海する。そこには、日本人とムスリムが……とはまた違った、形而上の衝突や交錯があるんです。それが見える瞬間は、ぜひ描きたかった。

そのメッセージを僕なりに込めたのが、エンドロールのラストカットです。
航海中の、舟に乗っている時は大体いつもこんなだった、という平凡な光景なんですが、そこにこそ、人間の営みの根本的なものが見えてくるのではないか、と問いかけているつもりです。

――最後に。水本さんは、ヴェルナー・ヘルツォークの映画、お好きでは?

水本 好きです。めちゃめちゃ、好きです(笑)。僕が今、一番シンパシーを感じる映画監督ですね。見ようとしているところが、すごく似ている気がする。それに、ヘルツォークの言っていることと、関野さんが言っていることはほぼ同じなんですよね。そこは後でだんだん気付いて、そうか、そういう風に自分の中でつながるものか、と思いました。






【作品情報】

『縄文号とパクール号の航海』
(2014 年/ 122 分/ HDCAM/ドキュメンタリー)

監督・編集・撮影: 水本博之
プロデューサー:関野吉晴
公式サイト:http://jomon-pakur.info/

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