フレデリック・ゲルテン監督(スウェーデン出身)
——『ゲルテン監督』のほうでは主だった被写体はゲルテン監督自身になっていますが、監督自身についての映画ではなく、テーマとしてはアメリカの裁判制度や、メディアの報道の自由などすごく大きなものになりますよね。
これは単純な感想になるんですけど、ドキュメンタリーにおいて「セルフ・ドキュメンタリー」というジャンルはありますが、それは完全な監督の私生活、たとえば恋人との関係などの個人的な問題であって、あまり社会に還元できるような要素はありません。そういった意味では、『バナナの逆襲』は本当に開かれた作品であると思いました。
F・G 私はセルフ・ドキュメンタリーに対しても、大きな敬意は抱いています。ただ先ほどあなたがおっしゃったように、この映画はそれとはまったく違うということですね。私の場合は、ふだん自分の映画に自身が出演することはほとんどないんです。ですけれども、このテーマを伝えるために、今回はあえて自分を被写体としてみました。
——自分の作品に自分が出ることは非常に珍しい、とおっしゃいましたけど、個人的に自分を通して社会の大きな矛盾を訴える、という点ではたとえばマイケル・ムーアの作品などを連想しました。ドキュメンタリストの中で、ご自身が影響を受けた監督、また尊敬される監督などはいらっしゃいますか。
F・G ムーアにも会ったことはありますし、同じく自身を被写体とした『スーパーサイズ・ミー』の、モーガン・スパーロックも非常に素晴らしいと思います。ただ、すべての映画がそのようなやり方を踏襲するべきとは思いませんし、その必要もないと思います。監督自身が主演の場合は、宣伝においても有利な点はあると思うのですが、どうやってストーリーを伝えるかが、映画においては一番重要となってきます。
私の場合は、やはり映画の主題に関して、登場人物のキャラクターが非常に重要だとお伝えしましたけど、それにのっとると、『アクト・オブ・キリング』や『ルック・オブ・サイレンス』のジョシュア・オッペンハイマー監督は非常に素晴らしいと思っています。
「『バナナの逆襲』第1話 ゲルテン監督、訴えられる 」より©WG FILM
——これも私自身の感想なのですが、キャラクターの魅力もそうですが、エンターテイメントとして素晴らしいと思いました。言い方としてよくはないかもしれませんが、とても「楽しく」みることができました。
F・G そういう風にみてもらえることは、監督として非常に嬉しいですね。
——フィリピン産のバナナが輸出されたことによる、健康被害の問題もあると思うのですが、たとえば日本では東日本大震災の発生後の福島の風評被害の問題や、TPP加盟の問題など、「食」に関連したさまざまな問題が存在します。日本の観客がどのようにこの作品をみると思うか、またどのように見て欲しいかという点についてお伺いできればと思います。
F・G 私はこの2本の映画を持って世界中を回っていて、世界中のたくさんの観客に会っているんですけど、彼らに共通していることとしては、ひとつの食べものや事柄だけではなく、それぞれの関係性というものを考えているということですね。ただバナナのことだけを考えるのではなく、他のフルーツ、ほかの野菜はどうなんだろうと。スーパーに行って、このフルーツはどのように作られているか、誰が作っているか、きちんとした方法で作られているのかをきちんと聞くことを始めています。
それは食べものだけではなくて、たとえばジーンズなどの、着るものにしても同じなんですね。誰がその代償を払っているのか、なぜこんなに安いのか。安いのには理由があります。労働者がきちんとした対価を得ていないとか、大量に作るために農薬をまいてそれが現地の人たちの健康や、環境を害しているとか。
実際に『バナナの逆襲』のポスターをみていただくと、飛行機が農薬を散布しているところが映っているんですけど、スーパーで売られているバナナは、「必ずあのように作られている」と考えても差し支えはありません。農薬は飛行機によってまかれていますが、その影響を受けるのはバナナのみではなく、バナナが育つ環境、そこで暮らす子どもたちについてもまた然りなんですね。日本の方がスーパーで大企業が生産したバナナを買うことは、そういったシステムを支持することにもつながっているんです。
ただ、日本にもそういったものに対するオルタナティブは存在しています。今回の日本公開で協力されているオルター・トレード・ジャパンなど、フィリピンから農薬にまみれていないバナナを、実際に輸入している人たちも存在するんですね。「別な道を見つける」ことは、実はそれほど難しくはないはずなんです。
今上映をしているさまざまな地域では、消費者としての力をさまざまな人たちが発揮し始めています。それは企業に対する圧力となって機能して、効果をあげているということを、お伝えしたいと思います。日本の観客のみなさんも、この映画をきっかけに、「別な道」を意識していただければ幸いです。それは必ず、私たち自身が変わる第一歩となるはずですから。
「『バナナの逆襲』第1話 ゲルテン監督、訴えられる 」より©WG FILM
【映画情報】
『バナナの逆襲』
第1話 ゲルテン監督、訴えられる (原題:Big Boys Gone Bananas!*)
監督:フレドリック・ゲルテン
撮影:ジェセフ・アグイレ/キキ・アルゲイエ/ステファン・ベルグ/マリン・コルケアサロ/ホセ・ガブリエル・ノグエ
編集:ベンジャミン・ビンデラップ/ヨスパー・オスモンド
録音:アレクサンダー・トロンキビスト
制作:WG FILM スウェーデン/2011年/87分
第2話 敏腕?弁護士ドミンゲス、現る (原題:Bananas!*)
監督:フレドリック・ゲルテン
撮影:フランク・ピネダ/ジェセフ・アグイレ
編集:ヨスパー・オスモンド
録音:アルセニーオ・カデナ
制作:WG FILM スウェーデン/2009年/87分
後援:スウェーデン大使館
協力:大地を守る会/APLA/オルター・トレード・ジャパン/スウェーデン映画祭実行委員会/日本映像翻訳アカデミー
宣伝美術:追川恵子
宣伝協力:藤井裕子/松下加奈
配給:きろくびと
渋谷ユーロスペースにて公開中
ほか全国順次公開 (3月19日〜横浜シネマリンにて公開)
<公式サイト>
HP http://kiroku-bito.com/2bananas/
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